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家事で世界を救う!?  作者: 安鼠
第零章 問題児の旅出
7/24

卒業式前日 ―陽本夏奈―

今回は、夏奈saidの話です

「で?まだやりますか?」

「「「すみませんでした!」」」

 土下座する、生徒会の人間を見下し私は声をかけた。

「うわ~先輩また強くなりました?」

「委員長と一緒にいると、いつ何があるかわかりませんからね」

 私は、軽く肩を回して有君不在の今、副委員長としての仕事を果たすことにします。

「手の空いている皆さんは、このバカどもを縛って生徒会室に放り込んで来て下さい。終わり次第解散でいいですよ」

「「「りょーかいです!」」」


 まったく、有君に迷惑かけるとはいい度胸ですね、彼がどれだけこの学校に尽くしてきたか知らない訳では無いでしょうに。

 私は、小さくため息をつきながら有君の安全を確認します。

「それで、委員長は無事に帰りましたか?」

「いや……その……」

「どうしました?茜さん?」

「……お姉ちゃんに捕まりました」

「まさか?読まれたんですか?あの女しつこいですね!」

 あの、自称有君の『幼馴染』の女のせいでどれだけ有君が危ない橋を渡っているか、少なくとも彼女がいなければ有君は今の半分の面倒ですんだだろうに。

 しかし、もう半分は有君が連れてくるんですからいつも言っている『平和な日常』は訪れないと思うんですが、理解してくれているんでしょうか?私は、有君が単独で遭遇したいくつかの事件を思い出して肩を落とした。


「すみません、私のお姉ちゃんが……」

「謝らないでいいですよ、貴方が悪いのでは無いのですから」

そのとき、蹴破られたドアから可愛らしい顔がひょこっと出てきてこちらに声をかけてきた。

「あれ~兄さんいませんか~?」

「カエちゃん、どーしたの?」

「あぁ、アカちゃん。兄さんに明日の予定の確認するために放送使ったんですけど生徒会室に誰もいなくて、ここかなって思ったんだけどどこいったかわかる?」

 この子は、有君の妹さんの月見楓さん。本人は兄の有君と比べて女子力が無いなんて言っているがはたから見れば十分だと思う。まあ、比べる相手が悪いですよね……

 やはり、私みたいな偽物でなく、綺麗な黒髪というのは羨ましいものですね。私は染髪した自分の毛を一つまみして心の中でため息をついた。

「委員長なら、あの女に連れてかれましたよ」

「あ、夏奈さんこんにちは。あの女って葵さんですか?」

「そうです!今日は疲れていたようなので早く帰って寝て頂きたかったのですが……」

「あ~そうですね、確か今日は帰って来たのが今朝の五時だったかな~」

 あの女……有君を連れて回して朝帰りですって?

 どうやら、私にもやらなくてはならないことができたようです。

 木刀を袋に入れると私は、それを背中に背負い獲物を狩りに行くとします。

「すみません茜さん、貴方の姉は今日死にます」

「ち、ちょっと待って下さい!私も無茶だとは思うんですけど、あんなんでも実の姉なんですよ~」

「あはは……本当夏奈さんは兄さんが好きなんですね~」

「なにを言っているんですか楓さん?そんなの言うまでもないでしょ?」


「「…………」」

「どうかしました?二人とも?」

「流石ですよ、夏奈さん本人に言えばいいのに……きっと喜びますよ?」

 本人に言う?私が有君に、告白?

 もし、そんなことになればきっと私は何もしゃべれなくなってしまうでしょう。

「無理です!死にます!」

「いやいや!先輩今、私たちの前で告白したじゃないですか!本人の前でよりも恥ずかしくないですか?」

「本人の前のほうが恥ずかしいですよ!わからないんですか?」

 まったく、有君の前に立つだけで今でもドキドキが収まらないのにそんなんで告白とか自殺行為にも等しいことです。

 どうしましょう、考えただけで、顔が熱くなってきました。

「というか、先輩もうここには私たちしかいないんですからいつもどうりの呼び方でいいんじゃないですか?」

「それもそうですね、もう有君は委員長ではないんですもんね」


 確かに、引継ぎが行われた今、委員長と呼ばれるのは、茜さんになりますもんね。いつまでも有君を委員長だなんて呼んだら失礼に当たります。

 私は、そう納得するといつもクラスや、プライベート、心の中で呼んでいる『有君』と呼ぶことにした。

「そういえば、夏奈さんは先研校に行くんですよね?」

「はい、楓さん。私は、有君と違い先研校に行きますよ。本当は有君と同じ高校に行きたかったですが、当初から望んでいたことなので仕方なく」

「じゃあ、明日を逃したら次の機会あるとは思えませんよ?なんせウチの兄さんは知り合いのためは全力を尽くす人ですからね」

 楓さんの言うとおりですね、『クラスメイト』ってだけで、危険なところから助けてあげるのが有君ですから。

 あの時ほど自身の無力さを知ったことはありません。

 私の心の中では、二年前の『ある出来事』が再生されていた。


「それに、葵さんがいなくてもトラブルは湧いてくると思いますよ?」

 まぁ、葵は自らトラブルに飛び込んで行くのに対し、有君は、トラブルを呼び寄せる力がありますからね。

 そのおかげで助かった人は大勢いますから、有君も本心ではそこまで嫌がっていないとは思いますが……なんせ彼は、『真性のお人好』ですからね。

「そうですよ先輩、有先輩は知り合いにはとことん甘いんですから!何処に、彼女でもない女の子に毎年誕生日プレゼント渡す男の子がいますか!しかも実用性高いし毎日身に付けられるし、毎年模様違うし、ちょっと調べたら凄く高かったし……」

「そうですね、私がいなくなったら茜さんってライバルが……」

「そうですよ、夏奈さん!アカちゃんなんてチョロインなんですからもう一回助けられたらフイニッシュですよ?」

「ち、ちょっと!カエちゃん何よチョロインって!それにフイニッシュって何?」

「そうですね、楓さん、茜さんはすでに落ちてますよ」

「ちょっと!陽本先輩!」

 まったく!有君はどれだけ女の子をその気にさせればいいのだか……

 そういえば、有君のタイプの女性はどんな人なんでしょうか?

 私は、今まで近くにいられるだけで幸せだったからこそ考えてこなかったことを真剣に考え始めた。


「けど、兄さんと付き合う人は大変だと思いますけどね……自身なくしますよ?女子力に……」

「やっぱり凄いの?」

 茜ちゃんが、急に心配そうな声をあげた。

 確かに、有君はいろいろと凄いですからね。何処に、昼ご飯を調理室で作って食べる人がいるんですかまったく。

 なんでも、最近は食材とお金を少し持っていけば他人の分まで作っているらしいですからね。食堂のおばちゃん達が泣きながら教えてくれました。

 頭の中では、食堂を利用する生徒が減って商売あがったりと理事長に泣きつくおばちゃんたちの光景が思い出された。


「……昨日のお弁当覚えてる?」

「うん、社会見学の予備日でお弁当だったよね。確かカエちゃんの凄い美味しかったよね!やっぱり実家が料亭だと羨ましいよ~」

 有君の料理好きは、お家でいろいろやってるからなのでしょうか?

 なんでも、いつか店を乗っ取るつもりと言ってましたが冗談ですよね?

「……うん、それなんだけどね、良く考えたらウチの親って仕込みとかあるから、お弁当作ってる時間ないんだよ」

「へ~やっぱり大変なんだね~じゃあ誰がって!もしかして?」

「……うん、兄さんが作ってくれたんだって」

 流石有君、妹のお弁当まで作るとは……どこまで私を追い詰めればいいのですか?

 そりゃ、私だって葵とは違い人並みに料理はできますが、有君と比べると『天と地』、『月とスッポン』ですからね。

 思わず、ため息をついてしまいました。


「そうなんだ、有先輩が作ったのか……もしかして有先輩は彼女と一緒に料理したい人かな?」

「さぁ?けど兄さんと同じレベルは諦めた方がいいかも。お弁当の話をしたら兄さんと父さんが料理勝負して、父さんが悔しがって店飛び出したから……」

 確か有君のお父様っていろんな雑誌に載ってる凄腕料理人のはずですが……

 勝っちゃうんですか、まさか乗っ取るっていうのは冗談じゃないんでしょうか?

「有先輩……けど、そんなに凄いなら先研校に推薦で行けるんじゃないの?」

「そうですよ!有君なら楽勝じゃないですか!なんで一緒に来てくれないんですか!楓さん!」

 先研校には、学力を重視した『普通科』と特出された才能の有無を重視する『専門科』の二つの学科がある。私は一応、学力で編入試験をパスしたが、葵は世界の言語をほとんど網羅するという才能で合格したらしい。

 だから、有君も『料理』とかで入れると思うんですけど……

「いや、私に言われても……」

「も、申し訳ありません。取り乱しました」

 あぁ、つい熱くなってしまった。こんなのは私らしくありませんね。

 私は、赤くなった頬を隠すためにうつむいた。


「いえ、大丈夫ですよ?なんでも『茶髪の筋肉ダルマがいるから面倒』って言ってましたよ」

「茶髪って、有先輩のトラウマですか……でも筋肉ダルマって?」

「あぁ、確か二つ上の先輩に有君を風紀委員会に入れた人がいましたっけ?」

 確かその人がトラウマを作ったもう一人って有君から聞きましたね。本当に迷惑な先輩です。そのせいで私がどれだけ怯えられたか……

 というか、その先輩とやらがいなければ有君も来たんではないでしょうか?

 どうしましょう、痛い目を見ないとわからないんでしょうかね?

 思わず、木刀を握りしめる手に力が入ったのは仕方がないことだと思う。楓さんたちには少々怯えられたが。

「えっと、そうですね、確か藤堂先輩だったかな?なんでか知らないけど気に入られたみたいで良く兄さんをバイクに乗せて連れ回してたみたいですけど」

「そっか~それじゃ有先輩も、行きたがらないわけですね~けどお母さんは行かせたいとか言ってませんでした?」

「そうなんだよ、なんでも兄さんが家にいると、お客さん達が父さんの料理より兄さんのを頼むから父さんが不貞腐れて困るんだって。だから寮のある先研校に行って家に帰ってこなければ良いって言ってるんだよ」

「お母様は、有君を家から追い出すおつもりですか?」

 まさか、すでに名高い料理人の両親を脅かす程の才能を有しているとは、流石です!

 しかし、有君の才能は『料理』だけじゃないですからね~。私の頭の中には、猟友会のおじさん方に交じって獲物の解体をする後ろ姿が思い出された。

「流石、有先輩やることの規模が違うね……最近はウチのお父さんも『有のためなら金を出してもいい!』って言ってたし」

「まぁ、私としては兄さんが楽しんでくれればどこでもいいんだけどね~」

 恐らく、有君のことを一番考えている家族は楓さんだけではないんでしょうか?なんだか、長年連れ添った夫婦のような理解の良さですし……

 気持ちはわかりますが……


 有君は、人のことを助けてばかりいるせいか自分のことは無関心ですからね。その癖自分では『他人のことはどーでもいい』とか言ってますし。

 どこに、どうでもいいと思っている人を助けたりするために危険を冒す人がいますか、まったくもう!

 本当に、彼はなにを考えているかわかりません。

「確かに、有先輩はこの学校でだいぶ色んなことやってましたよね?」

「そうですね、確かに有君は調理室を自分の物のように使って合鍵まで持ってるし、自分で耕した畑の面倒を毎日見て、理事長室に入り浸り、飼育小屋の動物の世話をし、学校の揉め事を人知れず処理したりと、いろいろやってますからね」

「……調理室に兄さんの名前が入ったロッカーがあるのはそういう事なんですね」

「あれ?カエちゃんは知らなかったの?なんでも最近は、家庭科の授業は有先輩がやってるみたいよ?」

「それに楓さん、調理室だけでなく校舎内にも様々な場所に有君の私物ロッカーがあるんですよ?」

 階段下の資料室の中や、職員室、理事長室にもありましたっけ?そういえば、外にもいくつかコンテナがありましたね。

 私は、指折り数えて知っているだけでどれだけあるのかを確認した。楓さんは頭を抱えていたが……

「兄さんは、もう何ってんだか」

「あはは……。けど、有先輩は学校を何度も救ってるんだからいいと思うけどなぁ」

「そうですね、有君のおかげで、助かった人はたくさんいますから。楓さんは知っていますか?」

「はい、私が知っているのは一年くらい前に兄さんが拳銃を持った不審者を捕まえたことくらいですかね。わけがわかりませんけど……」

「あぁ、それですか……」

 あの時は、有君が飼育小屋のウサギのお墓を作って授業に遅れた時でしたっけ?

 あの時ほど、有君がトラブルに愛されていると実感したことはありませんね。

 今日は、昔の事をよく思い出す日ですね。私は、あの時のことを詳しく語ることにしました。






 あの時は、朝のホームルームが終わって最初の授業が始まった時のことでした。


「あれ、月見はどうした?」

「あれ?そういえば有どこだろ?」

「葵、あなた朝は一緒に来なかったんですか?」

「朝は一緒に来たけどそのあとどっか行ったのよ。てか夏奈睨まないでよ……」

 毎日毎日、一緒に登校とはいい度胸ですね!

 思わず、握っていたシャープペンがミシミシと音を立てていたが気にしないことにしましょう。

「おい!」

 聞いたことのない男の大声と共に、いきなり、後ろのドアが開いたと思ったら、目だし帽を被った男が入ってきました。

 私たちは、思わず後ろのドアのほうを向きました。

「誰だお前は!」

「あぁ?そんな口きいていいのか?この嬢ちゃんの頭に穴開くぜ?」

「……え?」

 葵の頭に拳銃が押し付けられていた。

 まさか、この平和な月見町で……平和でしたっけ?


「なにを!」

「騒ぐな!全員携帯を机に出して手を頭の後ろに組みな」

 こんなことが起きるなんて、世の中何が起こるかわかりませんね。しかしこのクラスはまたいつものトラブルかといった顔でやれやれと言いながら従います。

 世界中を探しても、こんなクラスは存在しないと言い切れますね。

「有の奴、覚えときなさいよ!」

「貴女!有君のせいにするなら許しませんよ!」

「おい!お前ら騒ぐな!こいつがどうなってもいいのか?」

 そう言って男は、葵の頭に突きつけた拳銃をグリグリやっていたが……

 あれ?ここで、葵を始末すれば有君の負担が減るんではないでしょうか?ならばこの機会を利用することに問題はありません。

 一瞬で私は最適な問題解決方法を導き出した。

「どーぞやっちゃって下さい!」


「「「駄目だろ!」」」

「夏奈あんたね……」

「お前!友達じゃないのか?」

 謎の男がそんなことを聞いてきたが、友達?まったくなにを勘違いしているんでしょうかこの不審者は。

「いえ、葵は有君に不幸をもたらす悪魔です!貴方がやらないなら私がやります!」

 そう言って立ち上がり、木刀を手にすると……

「「「待て待て!!」」」

「きゃ!離してください!」

 まさか、クラスメイトから止められるとは。

 折角、責任をこの男にすべてなすりつけて有君の怒りを私から逸らそうとしたのに!

「ほら!早く!そのロッカーの中に縄があるからそれで縛って!」

「こら!葵怒りますよ!」

「「「早く、不審者!」」」

「な、なんなんだよお前ら!」

 うろたえる不審者を尻目に、クラスメイトは私を床に拘束してきます。

 まったく、無駄のない手さばきです。ですがこれができるのなら、不審者にやりなさいよ!

 覚えておきなさいよあなた達……

 私は、無駄な結束力を発揮したクラスメイトの顔を覚え復讐を誓いました。



「で?結局みんな縛られたわけですが?言いたいことはありますか?」

「「「死人が出なくて良かったです!」」」

 このクラスはよくも悪くも、トラブルというものを経験しすぎましたかね?危機感を感じることができません。

「……なぁ、先生よ~俺が言うのもなんなんだが、こいつらどういう神経してるんだ?」

「……俺にもわからんよ」

「なんで、和んでんのよ!ってかあんた何がしたいの!」

「そうです!こんなことしてタダで済むと思わないで下さいね!」

「「「お前が言うな!」」」

 なんですか?このアウェー感は?私には、このクラスメイト達の考えることが理解できませんよ。

「あ?んなもん金に決まってんだろ!知ってんだぜ?このクラスには、この国だけじゃなく、外国の重要人物とのコネクションを持つやつがいるんだろ?」

「……ねぇそれってさ」

「おそらくは……」

 葵も、重要人物とのコネを持ってはいますが、そんな節操なしとなると私に『一人』しか思いつきません。

 この場合は、やっぱりあなたなんですか?

「で、どいつだ?」

「「「やっぱりあいつのせいか!!」」」

 有君ですね間違えなく……

 私は、盛大にため息をつき天を仰ぐことしかできませんでした。

「なんだよ……こんなかにはいねぇのか」

「ねぇちょっと縄切ってよ、首に縄付けて引っ張ってあげるからさ!」

「葵!有君を売るつもりですか!?」

「だって、これは有の面倒じゃない!」

「気のせいです!」

「静かにしろよ!」

 不審者もそろそろ、イライラしてきたみたいですね……

 過ちは犯さないでいただきたいですが、有君が怒った姿はあまり見たいとは思いませんしね。

 私は、『あの事件』を思い出して身震いをした。


ガラっ


「すいません!墓掘ってたら遅れました!」

 有君……今来ますか?不審者の痺れが切れ始めた一番危険なタイミングで。

「誰だてめえ!」

 あら、この不審者有君に銃を向けるなんていい度胸ですね!

 このとき、私の脳内では数多くのお仕置きが浮かんでは消えていた。

「いや、お前が誰だよ?」

「「「そうじゃねぇーだろ!」」」

 有君、この状況を見て下さい。せめて、相手が不審者で銃を持っていることを理解してくださいよ!


「てめぇも、大人しくしな!人質になって貰うからよ!」

「やだよ!なんで自分から人質になるんだよ。頭沸いてんのか?つかそれだってモデルガン『パンっ!』じゃあねぇーみてぇだな!」

 なんで、煽るんですか!というか、あいつは殺しましょう!有君の耳掠めましたよ今!

 この私の目の前で有君に危害を加えるとはどうなっても責任は取りませんからね!

 私は、後ろ手に縛られた手を握りしめ、奥歯を噛みしめそう決意した。

「「「有!」」」

「次はない!大人しくしてろ!」

 次がないのはあなたです!もし当てたら……

「あの?夏奈?殺しちゃダメだよ?」

「何言ってるんですか葵?そう簡単に殺すわけないじゃないですか」

 簡単に楽にするわけないじゃないですかまったく。殺してくれと頼まれても殺しませんよ、フフフ。まずはどの骨から砕きましょうか?いっぱいあるので迷っちゃいますね。

「逃げて!殺されるよ不審者!」

「あぁ⁉」

 不審者が、有君から目を一瞬離した瞬間、有君はポケットに手を突っ込み悪だくみをしているときにするニヤリとした笑みを浮かべました。


「わったよ!手ーあげればいいんだろっと!」

 そして両手に握った、ハンドスコップとハサミを投げつけました。有君あなたは忍者ですか?

 むしろ、そうした投擲技術の才能も持っているんではないですか?本当に有君の引き出しの多さには舌を巻きます。

「ぎゃあ!?」

「園芸グッズ舐めんなよ!短スコと剪定バサミの鋭さはこういう時のためにあるんだ!」

「「「そんなわけねーだろ!!」」」

そんな風に使うのはあなただけです。


 私は、有君の発言に突っ込んだ皆さんと同じような感想を抱かずにはいられませんでした。

「まったく、拳銃なんか使うなよな~。まぁ家事の恐ろしさを知れってとこだな。よかったな俺がツナギ姿で、制服だったらもっと鋭い裁ちバサミだったからなっと!」

 まさか、こんなに簡単に捕まえてしまうなんて。さすが有君です!

 ですが、その男は後で少しオハナシをしなくてはいけないのでちょっと待ってくださいね?

「「「有!」」」

「まったく、お前らみんなして捕まるってバカなん?特に葵!なんで交渉しなかった?」

「「「てめぇが原因なんだよ!!」」」

「はい?」

「有!犯人はあなた狙いだったのよ!」

「なんだと!」

「しかも、夏奈なんてあたしのとこ殺そうとしたのよ!拳銃突きつけられて!交渉なんてできるか!」

「夏奈?」

「有君、私がそんなことすると思いますか?」

 葵、有君になんてこと言うんですか!有君の顔を下から見上げるようにそう言った後、葵を睨みつけました。


「……あぁ、しないよな?」

「信じてないんですか!」

「「「まぁ無理だよな」」」

「はい?」

 まさか、こんなクラスだったとは……

 本当に、どうしてくれましょうか?

「ってか、銃なんて見慣れてるだろうが!俺なんて週に三回は向けられるわ!」

「「「そんな奴いねぇよ!!」」」

 どんな生活を送れば、そんな殺伐とした世界で生きる羽目になるんですか?そういえば。

「有君!無事ですか?さっき耳を銃弾が掠めたと思ったんですが?」

「大丈夫だよ夏奈、てかよく見えたな?」

「いえ、あれくらいなら動体視力でなんとかなりますよ?」

「「「ダメだこの三人規格外だ……」」」

 そうでしょうか?有君だけだと思いますけど。

 そもそも、銃を持った不審者が教室を占拠したのに冷静だった皆さんも十分に規格外な存在だと私は思いますが?

 私は、思わず肩をすくめてそう思った。



「よし、全員縄解けたか?」

「大丈夫よ有、っていうかなんでツナギ?墓掘ってたって?」

「あぁ、今朝ウサギ小屋の掃除してたら、ピョン吉が死んでてな……さっきまで墓掘って、ついでに蜂駆除してきたとこなんだよ」

 有君は、悲しそうな顔をして教えてくれました。というか、それはあなたがやる仕事なのでしょうか?

「あの有君?お墓掘るのはわかるんですが、蜂はどうして?」

「いやなに、穴掘ってたらジガバチの巣があってな、たまたま近くのロッカーに蜂駆除セット入れてあったからそれで駆除して理事長室に放置してきた」

「あのね有?普通は蜂駆除セットなんて持って無いと思うんだけど?てかロッカーいくつ持ってんのよ?」

「あぁ?必要だろ蜂駆除セットは!いつ何時スズメバチの巣に出くわすかわからないんだから。そうだな、ロッカーは中等部校舎に六〇、外に一二〇くらいかな?」

「有君、普通ロッカーは一人一つですよ?」

「え!じゃあ、ダイビングセットはどこにしまうのさ?」

「普通は学校に置きません!」

「有……高等部に上がる前に移動させときなさいよ?この前なんて茜があんたのロッカー開けて、中からチェーンソー出てきてびっくりしてたんだから」

「チェーンソーっていうとA三〇かB四六のどっちだ?」

「一つだけじゃないんですか?」

「まぁ、それはいいとして……どーしたお前ら頭抱えて?」


「いや……」

「なんでも……」

「ってかさ」

「有って……」

「この学校私物かしてない?」

 今更ですね本当に……むしろこの中等部に有君のロッカーが存在しない区間のほうが珍しいくらいです

よ。


ガラっ


「有!またあなた、私の部屋に蜂の巣置いてったな!ってかこのミノムシになってる人誰?」

「あ~理事長、蜂の巣はプレゼント。ついでにそこでミノムシになってる謎の男も、あっこれは、そいつが使ってた拳銃ね。一応弾は抜いといたから」

「いや、蜂の巣はこの前貰ったからいらないし、え?拳銃?てか本物!ねえ!ちゃんと説明して!」

「やだよ面倒くさい。葵と夏奈に聞いてくれ~俺は着替えてくるからさ、じゃ~な」

 そう言って有君は、回収した縄を持って着替えるために教室を出て行きました。

 というか、一応授業の時間なんですけど、誰もそんなことは覚えていませんね。

「ちょっと待ってよ!」

 まぁ、理事長も追いかけて行きましたけど……

 あいかわらず、あの人も有君に振り回されていますね。

 私は、少しだけ理事長が不憫に思えました。




「ってことがあったんですよ」

「「……」」

「どうかしましたか?」

「何度か、夏奈さんが、葵さんを殺そうとしてた気がするんですけど?」

 ふむ、そう聞こえてしまいましたか。少々不味いですかね?まあ、こういう時はしらばっくれるとしましょう。

「気のせいです!」

「え~!」

「気にしてはいけませんよ?」

「わ、わかりましたよ~、ですから、木刀から手を放してください!」

「おや、失礼しました」

「ほ、ほら。先輩も、カエちゃんも有先輩のお話をしましょうよ!」

 茜さんが、慌てて話題を変えようとしてきました。確かにこの話は私の旗色がよくないので渡りに船ですね。

「そうですね、では話を戻しましょう。有君はこうした問題を解決するのでその報酬としてロッカーを設置したりしているんですよ」


「……なるほど、兄さんが最近大量の荷物を家に持ってくる理由がわかりましたよ」

「有先輩が、お姉ちゃん以上に、いろんな人から物事を頼まれるのはそういったことからなんですね?」

「まぁ、葵が人を引き付けるのは、認めたくはありませんが事実です。彼女が行なってきたことはこの学園の名前を全国に知らしめましたから。でも、その影にはいつも有君がいたんです」

 そう、そうやってなんだかんだ問題を解決していたから、いつの間にかあの二人はこの学校の【月見草】から『月見草コンビ』なんて呼ばれるようになりましたしね。

 なのになぜ、私との『コンビ月陽』は浸透しないんですか!

 このことが、卒業することにより離れ離れになることでの、大きな悲しみの一つですかね?


「いや~確かに兄さん単独で依頼を受けているのは知ってましたけどそういうことだったんですね~」

「確かに有先輩は、家事の延長だって言っていろんなことしてますよね~」

「確か、『俺には、家事しかない!』でしたっけ?どこに、あんな『事件』を解決する主夫がいますか……」

 私は、今でも『あの時』のことを鮮明に思い出すことができる。あんなに恰好良い男の人は、後にも先にも有君以外には会うことはないでしょう。

「けど、本当に本人はそう思ってるんですよね。まぁ確かにテストは家庭以外酷いもんだけど……」

「そこが有先輩だよね!けど家事と絡んだところは凄いじゃん。確か化学は得意だったよね?」

「そうなんだよ、なんでも『洗剤を使っていれば大体わかる!』ってさ、まぁ兄さんは自分で洗剤を作る人だからね~」

「洗剤まで作るんですか有君は……確かに日曜大工とか言っていろんなもの作ってるのは知ってますが……」

 有君が、持っている作業用のツナギは彼が自分で作ったものですもんね、確かに、あんな全身凶器な服は販売できないと思いますが……

 楽しそうな顔をして、ミシンで作っていると思ったら、耐火や、防刃、防弾繊維で作っているなんて、あの時は、流石の私もびっくりしましたからね。

 一体いつ、防弾ツナギなんて着る機会があるんでしょうか?

[キーンコーンカーンコーン]

「さて、そろそろ帰りましょうか?明日は大事な卒業式ですからね」

「「はい!」」

 有君、明日会えることを祈っています。どうか、無事に帰って来て下さい。私がいなくなるのは悲しいですが、平和な学園生活を送れるように頑張って下さいね!

 そのためにも、葵は私がきちんと拘束しておきますから!

 私はこれからの目標を胸に刻み、有君の今後の幸せを願うのだった。


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