卒業式 ~挨拶~
「か、帰って来た!!」
俺は、【卒業式】と書かれたアーチの真下で叫び声を上げた。大げさと言う奴がいたら連れて来い!昨日の俺と同じ体験をしてもらうからさ!
まずゴムボートで多摩川を下り、ワニを探し回って見つけたのが昨日の夜九時で、その後捕獲に成功したのが十一時。この時点でいかにハードかがわかると思う。大体情報との差異がデカいんだよ!何が三メートルだよ、あの野郎四メートルはあったからね?一メートルは誤差じゃ済ませられねえからな!
世界広しといえども、素人の中学生がワニを捕まえたのは俺ぐらいなものだろう。捕まえた後、情報の大切さについてと、ペットの管理について厳しく例の加藤をとっちめたら、他人の珍しいペットを盗むのを専門としている強盗団にやられたと言われ、葵のバカが『私たちが捕まえてあげるわ!』とかいうとち狂った発言をしたせいで俺らはそのまま横浜の港倉庫に急行。その時点で時計の針はすべて真上に固まっていた。
それで倉庫についたら明らかに堅気じゃない方々がぞろぞろといたから見なかったことにして帰ろうとしたら、『ねえ有?ここって私たちの縄張りよね?』とかボソッと言いやがって、どこからともなく怖いおっさん達が俺の肩を叩いて『有坊諦めろって』って優しく行ってくれたよ!あまりの優しさについ拳を叩き込んだ俺は悪くないね!
そのあとは、お手製の煙玉を投げて撹乱して何人かを捕まえたけど、まさか檻が空いてるなんて気づくわけないよね!?いつかの動物園騒ぎの時みたいにライオンとかトラの相手したよ!あいつらは遊んでるつもりでもこっちは死を覚悟したね!
何とか、収集が付いたときに今度は警察の皆さんがサイレン鳴らしながらきて事情聴取とかいう名目で連れてかれたときには三時を回ってた。
そこからはどうやって家まで帰れたのかよく覚えていない……。
そういえば枕元に子猫がいたんだけどまさか……ね。本当に自分の頑丈さに惚れ惚れするよ。
「あー空があ「有!酷いじゃん、一緒に行こうって言ったのに!」おいってお前じゃない!」
「何よ!いきなり怒鳴ってビックリするでしょ!」
ビックリしたのはこっちだよ、なんで空を見上げて感傷に浸ろうとしたら話しかけてくんだよ。あれもしかして喧嘩売ってんの?
「ハイハイ。つうか聞いてるわけねぇーだろ!?こっちはクタクタなんだよ!」
「あたしだってそうよ!睡眠不足はお肌の敵なんだから!昨日は五時間しか寝てないのよ!」
「俺は、その五分の一だボケ!」
「怒らない怒らない。後輩達が怯えてるよ?」
確かに、制服の胸に花を付ける後輩達の顔が引きつってるのがわかる……。
てかこの花どっかで見たような?
「あっ有、お花ありがとね?ちょっと折らして貰ったから」
「な、なん、だと、俺の花達を勝手に使った?しかも、そのために育てた奴じゃなく俺が大事に育てた奴らを?葵!」
こいつは、ダメだ今日は許さねぇぞ!
どれほど、俺がこいつらを大事にしてきたか、授業なんてそっちのけで肥料の勉強をし、花それぞれに合った適切なブレンド肥料をまいた俺の苦労が!
「わ、だってどれが使っていいかわからないかったんだもの、仕方ないでしょ!」
「だからって俺に聞かないのは、どーゆうことだ!」
「ちょっと兄さん!どうしたんですか?」
パタパタと受付から駆けて来たのは、制服の左腕に『生徒会長』の腕章をつけた俺の妹の月見楓だ。
見た目は、身内のひいき目を使っても可愛らしく、俺と同じ黒髪の地毛をポニーテールにして肩の辺まで垂らしている、俺の顎の下くらいだから……、一五〇くらいか?小柄で元気いっぱいな少女だ。
「あ?楓か、聞いてくれよ、このクソ野郎が俺の大事な花達を勝手に折りやがったんだよ!」
「え?あれってダメな奴でしたか?わかりやすいとこにあったんで、この前兄さんがそれように育てた奴だと思ったんですけど?」
「犯人はお前か楓!あれは入学式の時に壇上に飾る花なんだよ!今日使うのは屋上!」
「ほら、悪いのは私じゃなかったでしょ?」
「そもそも、お前がきちんと引継ぎしてればこんなことにはならなかったんだよ!」
「「……ゴメンなさい」」
なんで卒業式にこんな問題が起きるかな。後で茜には生徒会をきちんと見張るように言っておこう。やはり、生徒会は放っておくと何をしでかすかわからん。
「あ、あの先輩がた!そろそろ教室に入って待機してもらいたいんですけど……」
受付の後輩が言い争っている俺たちに恐る恐る声をかけてきた。
確かに悪目立ちしてるなこれは。
「は~い、ほら行くよ有」
「仕方ねぇなぁ、いいか楓、帰ったら説教だかんな!」
「そ、そんな~酷いよ兄さん!」
まったく、俺に聞けってんだ!電話くらいは出れるんだから……多分。
出れるよな?そんな毎日毎日、危険なことしてるわけないんだから……きっと、おそらく、ミジンコ程の可能性で!
「有君!間にあったんですね!」
「あぁ、なんとかな……」
「ねぇ夏奈、あたしもいるんだけど?」
「あぁ、葵もいたんですか?貴女はどーでもいいです」
「あのね!あたしもクラスメイトなんだけど!」
また、いつものがはじまったよ……。
あいつら、少しは仲良くなれないのかね?これからは、先研校で一緒なんだから。
俺は、いがみ合う二人を眺めてため息をついた。
「おい、有!」
「あ、なんだ?輝虎?」
こいつは大葉輝虎、俺の友人で身長が一八〇センチ近くある。なんでもクウォータだかで少し銀色掛かった髪をオールバックにしている。
俺は、中学生でこいつほどデカい奴は他に見たことはない。
「昨日はどこいってたんだよ?お前が来るまで、夏奈のやつ殺気振りまいてたぞ?」
「あ~そうか、心配させちまったな~昨日はちょっと多摩川まで行ってた」
「多摩川!?」
輝虎はそう言って驚いた。俺も驚いてるよ。
この町での依頼で他県まで行かされることになるなんてな。いや、よく考えたらちょくちょくあるなそれ。
「ちょっとな、迷子のペット探しにな……」
「相変わらずやることがぶっ飛んでなお前は」
「俺じゃなくて、葵だ」
そうやってボヤいていると時間になったらしく、生徒会の人間が呼びにやって来た。
「すみません!そろそろ時間ですので並んで下さい!」
「りょーかい。葵、夏奈騒いでないで並べ入場だ」
「わかったわよ!」
「わかりました」
「やっばり、あいつらのお守りはお前しかできねぇーな!」
「やめてくれよ、俺は来年からスクールライフを楽しむんだから!」
「そういやそうだったな。まぁどーせ、面倒ごとはありそうだけどなー」
そうこの時は、来年のことを考えてウキウキしていた。あんな目にあうなんて思いもよらず……。
檀上では、レディーススーツに身を包んだ理事長が喋っていた。去年までは、飾り気のない髪留めゴムで一つに纏めていた腰までの、シャンプーのCMに出てきそうな黒髪を誕生日に送ったバレッタで後ろに纏めた、俺よりも少し背の小さく、そして少し子供っぽいところが人気の美人。名前は、菊原香苗と言う。見た目と性格からはわからないが、大学を十八になる前に卒業した才女である。
「卒業生代表 月見有」
俺の耳がおかしくなったらしい。
理事長のバカが妙なことを言った気がした。昨日のリハーサルでは、元生徒会長の葵だったから俺の耳がイカれたんだろう。
もしかして水が入ってんのか?
「お、おい有?今お前の名前呼ばれなかったか?」
「ははっ、なにを言ってんだ輝虎、昨日のリハーサルで前生徒会長の葵「早くしなさい有!」なんだって!」
式の最中だが思わず叫んでしまった。俺のせいじゃないよなこれって?なんだかドツボにはまりかけているが気のせいだと信じたい。
「いいから、前に来て喋りなさい!」
「なんで俺なんだよ!葵でいいだろうが!」
思わず立ち上がって叫ぶと壁際で楓が頭を抱えて座り込んでいるのが目に入った。すまん楓!俺は卒業するから後は頼んだ!
こんなことばっかしているから後輩や、教師から変な目で見られるのかね?まあ、俺だけの責任じゃないと信じたいものだ。
「この前、私が勝った時に賞品貰って無かったからね!」
「このアマ、今使うか!この本番で?昨日のリハーサルはなんなんだよ!みんな困るわ、保護者の方々もドン引きだよ!」
「良く見て見なさい。保護者の方々もあれが『揉め事処理班の月見有』かっていう表情よ!」
「あぁん?」
確かに、振り向いて見るとカメラを構えた保護者の方々と、テレビ局の方々が……、テレビ局?
「あっこの卒業式は、リアルタイムで流れてるらしいわよ?良かったわね有、一躍人気者よ?」
「……嘘だろ?」
やはり、ここの理事長はバカだ、どこの世の中に醜態をさらけだして喜ぶ変態がいるのか……あぁ、理事長か。
「有、もう行くしかねぇーって」
「お前も言うか……輝虎~」
確かにこのままだと恥ずかしいだけだな。いいだろう覚悟しろよ、理事長!俺はやられたらやり返すを心情にしてるってことを思い知らせてやるよ!
「え~ご紹介に預かりました月見有と申します。正直自分の様なものが、卒業生の代表としてこのような所に立つことに疑問を覚えてはいましたが、理事長である菊原香苗さんの計らいでこうしたこととなりました」
おいおい、みんなそんなに見るなよ。ってか生徒の連中録画してんじゃねぇよ!携帯しまいやがれ!夏奈はなぜビデオカメラまで持ってるんだよ?
葵のやろうは、知ってやがったな!笑いをこらえてやがる。楓は?うん、知らされてなかったみたいだ。目を丸くしてやがるよ……。
「私は、この学校の風紀委員会というところに所属することでこの学校の風紀を守ることを心情としてきました。ただ今日のことで本当にしなくてはいけないことを知りました」
ここで、理事長に笑いかける。おい、なぜ顔を赤らめる?男子ども舌打ちするな、葵と夏奈は冷めた目で見るなよ!
なぜだろう、体育館の空気が悪くなったぞ。ホームグラウンドのはずが一転してアウェイになったんですけど?
「こちらをご覧下さい」
そう言って風紀委員を使いスクリーンを下げさせる。お前らも嫌そうな顔するなって。というか、こんなに統率のとれた委員会はなかなか存在しないと思う。
「これは、私と理事長の話し合いの場面です」
「ちょ、何やってんのよ、あなた!」
理事長が騒ぐが関係ない。すぐさま風紀委員が取り押さえる。だから嫌々やるなよ!俺か?俺のせいなのか!
風紀委員の男子生徒は、檀上の俺をまるで親の仇を見るかの目つきで睨み、女子生徒は、頬を染めて目を逸らす。
『ちょっと理事長仕事してくださいよ!なんで俺が学校の資料まとめなきゃならんのですか!』
『いいじゃない、得意でしょ?そういうこと』
『得意とかじゃなくてあんたの仕事でしょうに…』
『いーのよ、私の仕事はこの学校運営。そのためにあなたが必要なのよ』
『はぁ、じゃあわかったんで離れて貰っていいですか?ってかなんで抱きついてんだよ?』
『え~だって、遊んでくれないじゃないのよ~』
『ガキかあんたは……。この場面が知られたらあんたどーすんだよ、教え子に手ぇ出そうとしてるようにしか見えねぇぞ?』
『な~に手ぇ出して欲しいの~あなたはエッチね~』
「以上です。ご覧の通り風紀を乱す輩はそこの理事長だと実感しました。って皆さん顔を赤らめてどうしました?おい!男どもイスを振りかぶるな!なんで泣く理事長!」
マズイ!このままじゃいけない!どうにかしてフォローをしないと!
俺の悪い癖だ、慌てるとよくない、まずは深呼吸。
解決策は……、これしかないな!
そうして、考えた素晴らしいセリフをマイクに向けて大声で叫んだ。
「落ち着いて下さい!理事長は処女です!」
これでいいだろう!完璧な回避だ。うむ、自身の才能に惚れ惚れするね!
「有のバカ!」
「うぇー?そんなガチ泣きされても……つか、皆さんイスは武器じゃありません下ろしてください!保護者のかたも携帯を離して!カメラマンさん壁殴らない!」
や、ヤバイカオスだ……何がやばいって葵がニコニコ笑いながらハリセンを持ってるし、夏奈なんて木刀を手にしてこっちを睨んでるし!どっから出したんだよお前ら!
こういうときの以心伝心、頼む我が妹よ!
期待を込めた視線を俺は楓に向けた。
「ハイ、皆さん『ドッキリ大成功』です!」
やっぱり、我が妹よそれを持っていたか!
俺は、壇上に上がってきた楓の手にあるプレートを見てそう思った。
まさか、こんな場面に遭遇するなんて思っていなかったから、この場にそれがあったことに、日ごろの行いの良さを感じる。
「どうでした?正直私はかしこまった挨拶なんて出来ないので、こうやってお茶を濁してみました。理事長には先ほどの映像を作るために演技をしていただきありがとうございました。さらには生徒の皆さん台本通りの演技ありがとうございます。以上を持ちまして私の挨拶とさせて頂きます」
そう言って、保護者とカメラマンに牽制を打ち壇上を後にする。
「……兄さん、貸しですかね?」
「すまない楓よ、だかよく俺が望んだものがあったな」
「私が使うつもりだったんですよ!どーしてくれんですか!これでパァですよ!」
おいおい楓よ、壇上でドッキリプレート使うって何する気だったんだよ……。いや、俺がそんなこと言えないがな。
まさかと思うが、これが月見家の血なのかと真剣に悩むが、今はそれどころではない。
「すまないな、後でなんか買ってやるから」
「じゃあ、洋服買ってくださいね!」
クソ、高いものを頼むなこいつは。小遣いなんてものはお前と違って貰ってないんだからな!どれだけやりくりに苦しんでいると思ってるんだ。
「……あいよ」
「それじゃあ、我慢します!」
「まぁ頑張れよ?」
「はい!」
壇の下に降りると横から。
「……あなたは!私だって怒るよ、あんな事して。しかもしょ、処女とかみんなの前で言って……」
そうだった、この人のフォローもしなきゃならんのだった!確かにやり過ぎた感はあるからな。今回は、素直に自分の非を認めて謝ろう。
「すみませんでした……。俺に出来る事なら何でもさせて頂きますので許してください」
そう言って、珍しく他人に頭を下げた。
ここで、理事長から嫌われるわけにはいかないからな。
「……何でも?」
「えぇ、俺に出来る事でしたら」
「じゃあ、誠意を見せなさい!」
「誠意?」
「ほら、こっち来て!」
「え?いや!なにを⁉」
そう言って俺は舞台袖に連れ込まれた。いったいこんな細腕のどこにこんな力があるんだか。
「で、何すりゃいいんすか?理事長?」
「それくらい自分で考えなさいな」
「俺ですか?」
ま~た面倒なことになったぞ、自分からお詫びをする時って毎回碌なことにならないんだけどそこんとこどうなんだろ?
「なんか嫌そうな顔してるわね?」
「流石、付き合いが長いだけのことはあるな、俺のことを良くわかってる」
「そんだけ露骨に嫌そうな顔してれば誰だってわかるわよ!というか、あなたがいけないんだから真剣に考えなさい!」
そういって、理事長は俺の胸ぐらを掴み、睨んできた。
「じゃあ、今度どこか遊びにでも連れて行きましょうか?」
「あのね~、子供じゃないんだからそんなことで喜ぶわけないでしょ?大人の女性に対する誠意を見せなさいよ」
「ほ~う、大人ね~」
「何よ?言いたいことあるならはっきり言いなさいよ」
「いや、片付けはできない、寝相は悪い、酒癖は悪い、子供っぽいと四拍子揃った人が大人なんて笑わせてくれるな~と思って。そんなら俺の方がよっぽど大人だと思ってさ~」
「なんですって~、有!あなたが逃げてきたとき家にかくまってあげてるのは誰だっけ?」
「あん?そん時は大体俺があんたの仕事手伝ってるだろうが!」
「寝落ちしたあなたに布団かけてるのは誰よ!」
「よくいうぜ!布団かけた後にすぐ落ちる癖に!俺が毎回運んでやらなきゃ風邪ひいてんだろうが!」
「なによ!」
「なんだよ!」
俺と理事長がにらみ合っていると、お呼びでない客が現れた。
「チュ~」
「きゃ!」
「バカ!」
足元に出現したネズミにビックリした理事長が躓いたため、頭をぶつけないよう抱き寄せて……俺が下敷きになった。
文句を言おうと口を開こうとしたら、理事長の顔が目の前にあり、何か柔らかく湿ったものに口をふさがれていた。
よし落ち着こう、俺は彼女が頭をぶつけないように慌てて手を引っ張りその反動で俺が下敷きになり、偶
然にも唇が重なったってことか。なんだ大したこと……あるなぁオイ!
「「……ンッ」」
俺たちは慌てて離れた。うわヤバいくらい顔熱いんだけど!
「あの理事長これは事「何してるんですか二人とも?」故……楓さん?」
そこに、楓がいた。
「な、なんでここに?」
「そ、そうよ、挨拶はどーしたの?」
「マイクが入らなくなったから別のを取りにきたの。で、二人はこんなとこで何してたの?」
やばいぞ、俺も理事長もさっきので顔が赤くなってる上に、俺はさっき胸ぐらを掴まれて制服が乱れてるし、理事長も俺が引っ張った時に服装が乱れてる。あれ?これってアウトなんじゃね?
「ち、違うのよ楓ちゃん?」
「そうだぞ楓!何にもないんだ!」
「ふ~んそうなんだ……。どーでもいいけど私がしゃべるから戻ってね」
「「了解です!」」
これはヤバいな、あいつの目がすごい冷たかったぞ?これは後でオハナシが必要になりそうだ……。
「ねえ有?帰っていい?」
「逃がさねぇよ!」
「あっ、兄さん?唇ちゃんと拭いたほうがいいと思いますよ?それと生徒と教師のそういう関係はよくないと思います」
「……え?」
「あ、口紅……」
そっか~、暗がりでわからなかったけど今なら明るいからそんなことまでわかるんだ~
「「待って楓さん!」」
頼むから、そんなゴミを見るような目つきで実の兄を見ないでください!
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