毒舌の家政婦 ~ヤシの木~
日本から、18時間ちょっと問題があって時間がかかったけれども6時間くらい誤差だよね?まあ、五体満足でここまで来れたからなんも問題はないっしょ!
「はあ、なんとか無事についたな~」
俺の目の前には、立ち並ぶ高層ビル、家が買える車たちそして、見るからに高級そうな服装をして両手に美女を侍らせるセレブ共。マジでくたばればいいのに俺なんて、片手にボストンバック隣には目つきと口が悪いメイドだぜ?格差ありすぎじゃない?しかもさっきまでは静かだったのに今じゃこっち睨んでるしさ~勘弁してくんねぇかな?
「……貴方はバカですか?どこの世の中に、ハイジャックを食らって『無事』なんて言葉が出る人間がいるんですか?生まれ直した方がいいんじゃないですか?」
「いや、そこまで言います?というかハイジャックくらい経験あるだろ?」
「何処の紛争地域で生まれたんですか!?そんなの一生に一度あるかどうかですよ!」
「マジで!ウチの母校じゃ飛行機使えば八割くらいでジャックされたけど?」
そのおかげで、飛行機の操縦が出来る奴はクラスに一人はいたからな~俺は基本捕縛がメインだったから操縦席には座らなかったけど。……そういえば、クラスの奴ら俺が操縦席に近づくのを全力で防いでいたような気がするんだけどなんでだ?
「……そこは日本ですか?」
確かに最近あの町が異常だと思いはじめたけど……あそこってきちんと日本だよ!……多分。
近づいて来るタクシー視界に入れながら俺は地元の異常性にため息を着いた。
「……なんかとんでもないとこに来たけどホントに此処でいいのか?場違いな雰囲気バリバリなんだけど?」
「そうですね、あなたのような田舎者はアスファルトなんて知りませんものね」
「そこ!?いくら田舎だからってアスファルトぐらいあるわ!俺が言いたいのはこんな超高級住宅街に俺たちみたいなガキがいていいのかってことだよ!」
俺たちは、ドバイの海に浮かぶ人工島『パーム・ジュメイラ』に足を踏み入れてそんな会話をした。というか、なんなの此処?なんでわざわざ人口島なんて作っちゃたの?金掛けすぎじゃない、よく見ればモノレール通ってるしさ!バカなの?津波来たら一発アウトだけどここ?あれ、目の前にいるのハリウッドスターじゃね!?こんなとこ絶対、高校生の来るとこじゃねえよ!依頼主とかものすげえアホなんじゃね?ここに住める金あるならメイドでもなんでも雇い放題だろ!こんな目つきの悪い奴雇うとかよっぽどの変態なんじゃね?
「編入生さん、今失礼な事考えましたね?ちょっとそこのスポーツカーに轢かれてみません?カラスのエサくらいにはなれると思いますよ?」
「……なにも考えてないし、ひき肉にもなりたくない!つうかお前俺に対してあたりが強くなってない?」
「あら、ミジンコに対する評価としては貴方は最上位にいますけど?不満ですか」
「不満しかねぇよ!人扱いしろや!」
なんなの、この女?葵とは違う方向性で厄介なんだけど。俺の周りには、まともな女がいないんですけどこれは何かの呪い?あ、楓は別だけどね。わが妹は荒む社会における癒しだと思ってるから。たまに暴走するのは愛嬌ですから!
「あら、無駄話をしてる間に到着しましたよ。貴方のような田舎者はきちんと挨拶できないかと思うのでわたくしの後に続いてお願いしますね」
「できるけどね!バカにすんな!」
これが、豪華な門の前についたときの会話である。そして、屋敷の主人に会ったときは……
「すみません、わたくし達は屋敷のお手伝いに来たのですが?なぜ家畜である豚が目の前にいるんですか?」
「ねぇ!ちょっと前の会話思い出して!誰が挨拶できないって!?いくら目の前にいるのが悪臭ふりまくクソデブ野郎でももう少し何とかなったろ!」
「貴様ら、喧嘩を売りに来たんだな……」
俺たちの目の前には、高そうな衣服に身を包んだ依頼人がいた。なんなのマジで、世の中の人が悪そうな金持ちに抱くような偏見の塊みたい奴なんだけど……使用人がいなくなったのは間違えなくこいつのせいだろ!
「あ~すみません田舎者なもんで礼儀を知らないんですよー」
「喧嘩なんて売ってません。ただわたくしは事実を述べただけです」
「まったくもってふざけた奴らだな!もうよい!さっさと着替えて仕事をしろ!」
そういうと、豚野郎は怒鳴るだけ怒鳴っておそらく書斎であろう部屋に向かっていった。あれ~普通だったら追い出される気がしたんだけどこれはいったい?
俺の疑問と同じことは、高坂も抱いたようで珍しくキョトンとした表情をしていた。なにこいつこんな顔できんの?初対面で内面を知らなかったら惚れる奴いるんじゃね?……その後、五分以内には冷めると思うけどさ。
「え~と、なんか仕事させてもらえそうだからとりあえず着替えね?」
「……そうですね、正直なところわけがわかりませんけど。やるからには誠心誠意努めますわ。……あなたと違って」
「……最後のがなくちゃ良い事言ってんだけどな~」
自分にあてがわれた部屋に向かって歩いて行った高坂の後ろ姿に向かって呟いた声は、誰もいなくなった玄関ホールに消えていった。
「くっそ、いったいいつから掃除してねえんだよ……」
俺は一人で(ここ重要!)広い屋敷の中を掃除していた。無駄に広いこの屋敷は使っていない部屋が多くあり、本来であれば高坂も一緒にやるはずだったのだが、冷蔵庫の中に食材がまったくないことが判明し買い物に行く必要があり、どちらが観……買い物に行くかを高度な心理戦が絡んだじゃんけんによって決めて、見事俺が負けたのだった。いや、マジであいつの目はやばかった。どんだけ観光したかったんだって話だよ……なんでも初めての海外で楽しみにしていたらしい。
俺の初めての海外はな……悲しくなるから思い出すのはやめておこう。
「それにしても、この服も高そうだよな~」
あてがわれた執事服を摘みながら頭の中で値段を考えてしまうのはある種の職業病と言っても過言ではないだろう。いくら金を稼いだとしても、安くて質がいいものを追い求めるのは『主夫』の生きざまだと俺は考えている。というよりも、ある程度貯めておかないと何が起こるかわからないからな。もしかしたら、いつかの様にイギリスの『じゃじゃ馬姫』にかくまってもらう必要があるかもだしな……
「さって、この部屋も終わったから、後は庭と、ガレージだけか。……やっぱこれだけ広いのは、一人でやるもんじゃねえな、苦痛でしかないわ」
頭に巻いた手拭いを外しながら、肩を落とし新築同様に輝いている部屋を後にしてなんともやりがいがありそうな庭に向かって歩きだした。高坂さん早く帰って来て!もう、僕のライフはゼロよ!
あれ?もしかして俺って社畜なんじないの?最近、遊んでないんだけど高校生ってもっと遊びほうけてるんじゃない?ついこの間なんて他国のスパイと喧嘩したんだけど……
「こんな生活になるなんて、ついこの間までは思ってもみなかったな……高校生になれば平和が訪れると思ってた自分を殴りたいわ」
これはあれだな、葵と一緒の学校に入ったってところから俺の不幸が始まった気がするよ……そういえば、あの先輩たちからも呼び出しがかかってたな~今んところ無視してるけどね。そろそろ教室まで押しかけてきそうだからどうにかしとかないと……
頭の中には、茶色い髪の毛の悪魔の顔が二つ浮かんで邪悪な笑い声まで聞こえてきた。マジでトラウマになってるんですけど!
「……あ~やばい、これ考えると鬱になりそうだからとりあえずガレージの片づけしよう」
「は~、マジでなんなの?」
俺の目の前には、高級車が何台も並んで停まっている光景が現れた。あの豚野郎一人でいったい何台の車運転するつもりだよ!なに?貧乏人の俺に対して喧嘩売ってんの?タイヤパンクさせちまうぞマジで!
こめかみをピクつかせながら車を磨いていると、ポケットの中のスマホが震えた。本来であれば電源を切って仕事に臨むべきなのだが、依頼人が依頼人なので仕方ないよね!
「誰だ?って高坂かよ……いやな予感しかしないんだけど」
こういう時の俺の感はよく当たる。あれだね、ゲームとかでいうとスキル『第六感』て感じかな?けどこれ反応するときは大体面倒ごとに巻き込まれるから正直マジでいらない!はぁ、とりあえず出てみますか。何事もないことを期待して!
「もしもし、どうした?」
『たすけっ』
ブチ、ツーツー
「……はい?」
耳から放して画面を見ると、通話時間1秒と表示されていた。……冗談だと思い掛けなおしても電源が入っていないか、電波の届かないところにいるといったお決まりの音声しか流れてこない。
「あ~今回は、俺じゃなくて他人ってことですか……」
うつむいてため息を一つ。首元のタイを緩めて俺は、自分にあてがわれた部屋に向かって歩き出した。
「あれだな、あんな奴でも一応顔見知りだから仕方ないよな」
思い浮かぶのは、調理実習での勝ち誇った顔から一気に転落した悔しそうな表情、俺を馬鹿にするときのすがすがしい表情、ハイジャックされた飛行機の中で不安そうにしていた表情、そして、初めての海外で、目を輝かせていた年相応に可愛らしい表情。
「マジ勘弁……だな」
俺が動く理由にはなる。いったい何が起きたかなんてのはわからんけれども、助けを求められて動かないってのは俺の流儀に反する。流石に赤の他人を助けるような善人ではないけれども、携帯電話に登録してある人くらいならこんな俺でも助けることはできるだろ?
「取り合えず、外に行くって言って「その必要はない」くるか?」
書斎に行こうと廊下を歩いていると後ろから声をかけられた。当然この屋敷で俺に声をかける人間なんていうのは一人しかいない訳で。
「どういうことっすか?」
「言ったとおりだよ、彼女は中東で広く活動している人身売買組織に捕まったようだ。だから君はおとなしくしてなさい、これはプロの管轄だ」
最初に会ったのと同じ人物かと思う程に豚野郎が発する空気が違う。これはあれだね、そこそこの修羅場を潜り抜けた奴が発するのと一緒だわ。まさか、この豚……いや、おっさんがそうだとは思いもよらなかったけど。
「プロってのはどういうことですかね?」
「……こういうことだよ」
念のため、ポケットの中のナイフを握りながら問いかけると、おっさんは右手を顎にかけ、左手を右肩にかけると勢いよく引いた。え?引いた!?
「……マジかよ、どこの怪盗さんですか?」
「騙したようですまなかったね……これが私の素顔だよ」
現れたのは、剥げた中年ではなく、金髪で青い目をした彫の深いヨーロッパ風のイケメンだった。しかも、それだけではなく肥えた体から引き締まった体に、しかもなぜか背まで高くなっていやがった!なに子のイケメン、喧嘩売ってんの?正直しゃべり方すらキザっぽくて腹立たしいんだけど!
「あ~と、どちらさんですかね~」
「そうだね、挨拶はしておこうか。私はCIAの捜査官、
ヤマナカシンジだよ、よろしく」
「なんで、そんな顔して日本名なんだよふざけてんのか!!」
俺の叫び声が住宅街中に響き渡ったのは言うまでもない。
「いや~良く言われるんだけど、両親が帰化人でね日本で生活するなら日本名のほうがいいだろうってことでこんな名前なんだよ。良い名だろ?」
「子供の顔見て名前つけろや!もうそんなのいつぞやのキラキラネームと変わらんわ!」
敬語なんてものはもう完全に、空のかなたに消えて行ってしまった。
「いや~よく言われるよ」
「褒めてないんですけど!?っつうかこんな事してる暇ないんですけど」
目の前で起きた突然の出来事に動揺して高坂からのSOSを忘れていた。これがバレたら殺されてもおかしくないな……
はぁ、今回は人身売買組織が相手とか、最近俺がちょっと外に出ると危険が多すぎません?役病神さん俺に憑りついているんじゃねえだろうな?
「……だから、君は大人しくしてるんだ」
イケメンの横を通り過ぎようと足を踏み出すと、今までにこやかに笑っていた人物と同じとは思えない表情をして俺の目の前に銃口を向けることで足止めをされた。
「……これ、下してもらっていいっすか?俺、仲間を助けに行かなきゃいけないんすよ」
「すまないね、君の連れは僕が責任をもって助けるから君はここで待っていてくれ」
確かに、所詮素人に毛が生えた程度の俺じゃあ大したことはできないのはわかってる。それでも……
「俺に助けを求めてきたんだよアイツが。いつも人なんて頼らないアイツがな!」
「申し訳ない……それでも、ここで奴らの組織をまとめて摘発することがこの社会のためになるんだ!」
確かに、目の前で切羽詰まっている表情を見ればここでその組織を潰すのが最善だとは思う。けれども、そのために高坂を……俺の仲間が危険にさらされていいわけがない。それに、俺は正義の味方じゃないからな。多くの人のために大事な人を犠牲にする?冗談じゃない!顔も見たこともない赤の他人よりも仲間の命のが重いに決まってるだろうが!
「……そっすか、あんたと俺の価値観には大きな差があるみたいですわ。ってことで
退けよ、邪魔すんならぶちのめしてでも押し通るぞ!」
向けられた銃を横から左手で掴んで、右手はポケットから抜き出してナイフを握り、驚愕の表情をしたイケメンを睨みつけた。
「そうか、君にも譲れないものはあるんだね……けど、それは僕も同じだ!」
俺に掴まれた銃を躊躇することなく放して、ナイフを弾き飛ばすために右手に向かって上段蹴りを放ってきた。
「チッ」
ナイフが手から離れて後ろに飛んでいったため、思わず舌打ちをして後ろに飛び去った。やべーよ、あの靴鉄板でも仕込んでんじゃね?クッソ痛かったんですけど!
「ヒュー、身のこなしは一級品だね。けど武器はなくなったよ?流石に銃は使ったことないだろう?」
「試してみるか?」
左手に掴んだ銃を一度上に放って向きを変えると、ガンスピンの要領で回してグリップを握りイケメンの顔に照準を合わせた。ナイフは後ろ3メートルの位置か……こんなこったら、投剣の類を仕込んどくんだったぜ。
「まさか!銃まで使えるのか!?」
「俺がいつ銃が使えないんなんて言った?」
引き金に指をかけ、躊躇せず俺はそれを引いた。
バンッ
「……はい?」
イケメンの顔には傷ひとつつかずに、廊下に飾ってあった花瓶が割れた。
俺 の 真 横 に あ る!!
「当たりだよこん畜生!!」
銃を放り投げると、転がっていたナイフを蹴り上げ再び握った。俺はなぜか、自分で投げる以外の飛び道具が全くもって使えない。投げナイフなら百発百中なのにね!このことでどれだけ笑われてきたことか……
ていうか、なんで正面に銃口向けてんのに、真横に向かって玉飛んでんだよ!物理法則無視してんじゃねえか!
「君はいったい何者なんだ?」
驚いているような、呆れているような表情のイケメンがそう問いかけてきた。俺も最近自分がなんだかわかんなくなってきたけど、名乗り口上は決まってる。
「芥川流忍術、裏十段月見有。覚える必要はないから」
握ったナイフ掲げ、いつものように宣言する。あれだよな、やっぱりこういうときって免許皆伝とかの方が絶対カッコいいよな~
ハァ、いつになったら認めてくれるのか……
俺の脳裏には、七十は超えているハズだがいささか元気すぎる、師匠の顔が浮かんでいた。
「WOW!NINJA!まさか実在してたなんてびっくりだよ!」
「言ったろ?俺は正義の味方じゃないって……」
そういった後に、ナイフを投げつけ……
「急に危ないな!ってあれ!?」
「だから、平気で卑怯なこともするんだよ」
「なっ、るほど。流石NINJA……」
バタンと倒れた、イケメンを軽く見やって俺は歩き出した。当然、イケメンの服を探って情報も手に入れたけどな!ってかこれ!
「日本語か……やっぱりいけ好かない野郎だったな」
装備を整え、クソ野郎共が根城としている場所が書かれている紙を握り潰して俺は走り出した。握りつぶした紙には【アトランティス・ザ・パーム】と書かれていた。
ここまで読んでいただきありがとうございました
待っていた人がいたらお待たせしました。
……一応、まだ書き続けていきたいと思います。




