第73話 北風
「よし、オナラで起こすか!」
アーマーがそう言うと、気絶したままのレンズに狙いを定め、思い切り放屁した。
「クッサ!!……毒ガス? あれ?皆さん!またオレ、何かやっちゃいました?」
レンズが目を覚ますなり、間の抜けた声で呟いた。
「気持ち悪い!賢者◯孫みたいなこと言うな!毒ガスじゃなくて、アーマーのオナラだから安心しろ。」
オレは即座にツッコんだ。
「でも、起こし方がオナラって、ワザと一番屈辱的な方法選んでないでしょうか?」
レンズが鼻を押さえながら冷静に指摘する。
「深緑の北風と言ってくれ。」
アーマーが悪びれもせず言い返した。
「何が深緑の北風ですか、硫黄の湯気でしたよ!」
レンズが心底不服そうに言った。
そこから、ホワイトが今までの経緯を一から十まで、かくかくしかじかと説明していった。
ヘリックス博士との戦闘、聖剣エクスカリバー、合体、そして収れん現象による決着まで。
話を聞き終えたレンズは、
涼しい顔のまま首を傾げた。
「ヘリックス博士?……ですか。すみません、まったく記憶にないですね…。」
「かわいそうすぎ、博士……。」
ロジナスが同情しきった顔で呟いた。
「あれだけ熱弁振るって、合体までしたのに、恨んでた相手にすら覚えてもらえてねえとか…。」
オレもしみじみと呟いた。
「レンズにとっての博士は、存在感が黒パーカー並みだったようだな。」
バウンスが過去を思い出すように言う。
「存在感のなさで括られる博士、哀れすぎるだろッ!」
ホワイトが追い打ちをかけた。
「あ、そういえば、ボイスを起こすの忘れてたわ。」
アーマーがそう言うと、未だ地面に倒れたままのボイスに近づき、
深緑の北風
と叫ぶとまたしても容赦なく放屁した。
「クサっ!!毒ガス!?」
ボイスが飛び起きると同時に、素早く剣を抜き放って周囲を警戒する。
「オナラで起こすとか、子供ですか。」
レンズが呆れたように呟いた。
「効果が実証されてんだから、変える必要ねえだろ」
アーマーが堂々と胸を張った。
「実証も何も、ただのオナラです。」
レンズは更に呆れた。
再びホワイトが、同じ説明をかくかくしかじかとボイスに向けて繰り返す。
「ドーピング博士のことより」
説明を聞き終えたボイスが、話を切り上げるように手を叩いた。
「絶対虚無機構は五人だから、あと二人ですね!」
「あと二人殺れば、男の娘カフェのオーナー♪」
ロジナスがウキウキとした様子で歌うように呟いた。
「そういや、動機それだったな。」
オレは思わず呟いた。
「ええ、殺られたガーディアンズたちの仇ですからね」
ボイスも剣を納めながら、改めて意気込みを見せる。
「ロジナスは仇どうでもよくて、オーナーになりたいだけだろ。」
アーマーがぼそりと呟いた。
オレは腰に携えたエクスカリバーを、ゆっくりと前方へ向けた。
「待ってろよ、絶対虚無機構!」
その聖剣を見た瞬間、ボイスの目つきが変わった。
「その聖剣、めちゃくちゃカッコいいじゃないですか!僕にください!」
「欲しいモノをくれとか、お前はドラえもんのジャイアンか。ダメだ、弱いお前には不釣り合いだ。」
オレは即座に断った。
「ボイスも大便も、どっちも弱いだろ…。」
バウンスが冷静に水を差す。
「まったく、コレだから素人は…。オレぐらいになると強さが分かりにくいというか…。」
オレは強さについて分かってないバウンスに説明しようとした瞬間。
「……いいでしょう」
ボイスの目が、妙に据わっていた。
「その聖剣を賭けて、僕と勝負です。」
ボイスが剣を抜いた。
「オマエ、本気で言ってるのか?」
オレも収めていたエクスカリバーを抜いた。
「仲間割れするな!」
アーマーはさっき着たばかりの服すべてを脱いだ。
「え、キモっ!また脱いでるし!!ブタさ、脱ぐのクセになってんじゃね?」
ロジナスは汚物を見るような視線をアーマーに向けた。




