第71話 光刃
博士は忌々しげに顔を歪めると、アーマーの頭めがけてツバを吐きかけた。
粘りのある唾が、頭頂部にべったりと張り付く。
「豚を弟子にしたら、笑われるわ!」
「ですよね!?」
アーマーが愛想笑いを浮かべながら、あっさりと引き下がった。
「いや、そこ食い下がれよ?何のために脱いだんだ。」
オレは思わず突っ込んだ。
せっかく全裸で土下座までしたのに、拒否された瞬間の切り替えの早さが逆に清々しい。
「服を脱いで土下座して、ツバ吐かれてヘラヘラ笑ってるのダッサ…。」
ロジナスも同情とも呆れともつかない目で見ている。
「見てらんねえな…」
「情けないぞッ!」
ガーディアンズの面々が、口々に呆れた声を漏らす中、アーマーだけは何かやり切った顔で、全裸のまま堂々と立っていた。
「せめて、服は着ろッ!粗末なモノが、視界に入って不快で敵わんッ!」
ホワイトが真顔で突っ込んだ。
「博士はそんだけ強いのに、何故ボワイドーを造ったんだ?」
オレは腕を組みながら尋ねた。70話の冒頭でも投げたのと同じ、根本的な疑問だった。
「それだけ、眼鏡鎧を着たレンズは強いということだ。ボワイドーと力を併せて戦う予定だったんだ。」
「じゃあ最初から、二人がかりで来いよ!」
オレは冷静にツッコんだ。
わざわざ一人ずつ順番に現れる律儀さが、この組織には染み付いているらしい。
オレの言葉を遮るように、気絶したままのレンズの体が、勝手に動き出した。
拳が飛ぶ。
蹴りが来る。
意識のないはずのレンズが、感情の一切感じられない無機質な動きで、淡々と連撃を繰り出していく。
「目、閉じたままなんだけど!」
ロジナスが真顔で指摘した。
「寝相の悪さで、戦ってるみたいで怖いな。」
バウンスも引き気味に呟く。
「寝相、悪すぎるだろ!」
オレもその不気味さに思わず声が漏れた。
気絶した状態で淡々と相手を痛めつけている光景は、冷静に見るとかなり異様だった。
博士は防戦一方だった。
筋肉で膨れ上がった体を使っても、両腕をクロスさせて攻撃を受け流すだけで精一杯のようだった。
「鎧着たレンズ。ロジナス程じゃないけど、ロジナスに近い強さじゃないか?」
バウンスが冷静に分析する。
博士が怒りに任せて反撃の剣撃を叩き込むも、鎧はびくともしない。
「イケオジの鎧の硬さ、カクガリクンの防御力じゃね? めちゃくちゃタフだし、アイツ。」
ロジナスが指摘した。
そんな状況に業を煮やしたのか、博士は構えを変えた。
聖剣を両手で握り直し、天へと高く掲げる。
「天を統べる無垢なる光よ、我が白銀の刃に宿りて、一切の闇を払い給え。
原初の星々が瞬きし頃より連綿と受け継がれし、浄化の意志よ、今ここに顕現せよ。
闇に惑いし者どもに救済を与え、迷える魂を浄土へと導く、慈悲深き裁きの光となれ。
かつて賢者が封じし、禁断の輝きよ、再びその封を解き放つ時が来た。
ワシの魂と、この聖剣エクスカリバーに宿りし力を、今、一つに束ねん。
――果てろ、『神聖天光刃』!」
「長っ!!!」
全員の声が綺麗に重なった。
「詠唱、長すぎだろ! いつ終わるかと思ったぞ!」
オレが呆れて叫ぶ。
「途中から賢者とか浄土とか、関係ない単語増えてなかった?」
ロジナスが追い打ちをかける。
「噛んでもないのに、なんでそんな淀みなく喋れんだよ。」
バウンスも困惑気味に呟いた。
「とにかく長いが、普段から練習しているのかッ!?」
ホワイトが、真顔でツッコんだ。
「練習などしておらんわ!」
博士がムキになって否定しながらも、構えだけは崩さずに続けた。
その叫びと同時に、巨大な光の柱が聖剣の刀身を白く輝かせた。
そのまま振り下ろすと、光の刃が洞窟内を一瞬で白く染め上げ、レンズの体を焼き尽くすように一刀両断した。
だが。
光が収まった後も、レンズは何事もなかったかのように、そこに立っていた。
「頑張ってあんだけ長い詠唱したのに、レンズに全く効いてないな…。可哀想に。」
アーマーが全裸のまま、呟いた。
「まだ、服を着ていないッ!風邪を引くだろうッ!」
ホワイトが、風呂上がりの子供を叱るよう母みたいに怒鳴った。
「大便より、ちゃんとした騎士っぽい戦い方してるな…。」
バウンスがぽつりと呟いた。
「オレよりカッコいい戦い方するんじゃねえ!!」
オレは思わず声を荒らげた。
「そもそも、大便くんは今まで出てきた人達のなかで一番カッコ悪い戦い方だし。ソコは気にしなくていいんじゃね?」
ロジナスが冷静に指摘した。




