第70話 眼鏡
「おかしいだろ。」
オレは思わず声を上げた。
「何故、あまり強くないレンズ相手に、ボワイドーや聖剣なんてご大層なものを用意した?」
「レンズの真の強さを知らないからですよ!!」
ヘリックス博士が興奮気味に叫びながら、聖剣を大きく振りかぶった。
「気絶している、今が聖剣チャンス!!」
「パチンコのリーチみたいに言うな!!」
オレは即座にツッコんだ。期待と緊張感を無駄に煽る言い回しが、妙に様になっているのが腹立たしい。
その瞬間だった。
倒れていたカクガリクンと、その下敷きになっていたレンズの体から、眩い光が放たれた。
「しまった!」
ヘリックス博士が振り上げた剣を止める。
「レンズがピンチを察知すると、自動発動で自己防御装置が作動するんだった!」
「ヤンキー漫画のセリフかよ!」
オレは半笑いでツッコんだ。わざわざカタカナ読みを添えるあたり、どこかで聞いたような必殺技の説明口調である。
「分かりにくい説明だが…」
アーマーが真剣な顔で頷いた。
「なんか、命を守るみたいなのは分かった!」
「間に合うか、分からないが」
ヘリックス博士が覚悟を決めた顔で、聖剣をレンズ目掛けて大きく振り下ろした。
「なんとかなれーッ!」
振り下ろした聖剣の先にレンズの姿はなく、空振りした。
次の瞬間、光が収まった。
そこにあったのは――
全身をびっしりと色んな種類の100個以上の眼鏡で覆った異様な鎧。
その鎧の中に、目を閉じたまま立っているレンズの姿があった。
意識がないのか、ぴくりとも動かない。
「アハハハハハハハハ!!!!!!
つうか、アハハハ、眼鏡ありすぎじゃね!?」
ロジナスが腹を抱えて大笑いした。
「「「「眼鏡ありすぎだろッ!!」」」」
ホワイト、アーマー、バウンス、そしてオレまでもが、見事に声を揃えてツッコんでしまった。
眼鏡だらけの鎧という絵面のインパクトが、あまりにも強すぎた。
「アハハハ、つうか?カクガリクンいなくね??」
ロジナスが涙目で笑いながら、ふと冷静に指摘する。
「カクガリクンが眼鏡鎧になったとか?」
その問いに、真顔で頷いたのはヘリックス博士だけだった。
「その通りです。カクガリクンは、レンズの魔導具なのでね…。」
淡々とした説明が続く。
「レンズが気絶していても、鎧が自動で操縦するようになっているんです。」
だが、ガーディアンズの面々は、眼鏡の鎧を見て笑うのに夢中で、その説明をほとんど聞いていなかった。
「ワハハハッッ!!いちいち説明してくるのは親切だなッ!!」
ホワイトが笑い転げながら、どうでもいい感想を漏らす。
「このままでは勝てないな…。」
ヘリックス博士の目つきが変わった。白衣の内側から、新たな注射器を取り出す。
「『超肉変革』」
そう叫びながら、自らの腕へと迷いなく針を突き立てた。
「注射するだけなら、技名叫ぶのいらなくないか?」
オレは思わずツッコんだ。わざわざ声高に名乗る必要性が、まったく見出せない。
だが次の瞬間、その体に異変が起きた。
ムキムキと音を立てそうな勢いで筋肉が膨れ上がり、着ていた白衣が、ビリビリと音を立てて引き裂かれていく。
「ムキムキすぎて、キモいんですけど!!」
ロジナスが本気で引いた声を漏らした。
「ホワイトの十倍くらいムキムキじゃねえか……」
アーマーが顔を引きつらせる。
「私のは、動ける筋肉だッ!」
ホワイトが即座に声を荒らげた。
「あんな、薬頼りの筋肉ダルマと一緒にするなッ!」
「これを使うのは」
ヘリックス博士が、膨れ上がった筋肉を見せつけるように、ゆっくりと拳を握りしめた。
「ガーディアンズを抜ける時以来……約十一年振りだな」
「何か、殺さない侍の漫画で見たことあるようなセリフだな」
オレは思わずそう呟いた。
そう言うと、ヘリックス博士は近くにあった大きな岩へと近づき、聖剣エクスカリバーを一閃させた。次の瞬間、岩はまるでサイコロステーキのように、細かく刻まれていた。
「あ、アレでも、動けない筋肉か……?」
アーマーがビビりながら呟く。
「た、確かに……ッ」
ホワイトも思わず認めた。
そして、ふと思い出したように付け加える。
「つうかアーマー、お前さっき博士に暴言吐いてたよな?これ、普通に殺されるんじゃあないかッ?」
その指摘を聞いた瞬間、アーマーの動きがぴたりと止まった。
そして――静かに、着ている服を全部脱ぎ始めた。
「え、まって。急に脱ぐとかキモいんだけど!!」
ロジナスが悲鳴に近い声を上げる。
だがアーマーは気にすることなく、脱いだ服を丁寧に畳むと、全裸のまま綺麗な土下座の姿勢を取った。
「どうか…私を弟子にしてください…!」




