第68話 博士
「ロジナス様、肩を揉みましょうか?」
アーマーが揉み手をしながら、あからさまにへりくだった声を出した。
「急にキモいこと言うなって! ただでさえキモいんだから!」
ロジナスが顔をしかめて後ずさる。
「ロジナスの本気を見て、ビビッて媚びてるんだろ」
オレは冷めた目でアーマーを見た。
「分かりやすい豚だな!」
「コイツ、人によってコロコロ態度を変えるな。」
バウンスが呆れたように呟く。
「アメーバみたいな奴だ。見た目は豚だが。」
「…情けないぞッ!」
ホワイトが厳しい声を飛ばした。
「強いヤツには巻かれて生きて何が悪い!?」
アーマーが胸を張って開き直る。
あまりにも格好悪い反論だった。
そんなくだらないやり取りが続く中、洞窟の奥から人影が現れた。
白衣を纏った、頭の禿げ上がった中年男。
猫背気味の姿勢で、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
「驚異の防御力を持ったボワイドーを倒す奴がいるとは……」
低く呟くその声には、驚きと、どこか嬉しそうな響きが混ざっていた。
「何だ、この町医者みてぇな汚いジジイは?」
アーマーが即座に威嚇するような口調で声を張り上げた。
「オマエも絶対虚無機構か!? 消えろ、ぶっとばされないうちにな!」
「弱そうなヤツには強気な態度に出るとか、お前は本当にガーディアンズか?」
オレは半ば呆れながらツッコんだ。
本気のロジナスを見た時とはまるで違う、この態度の切り替えの早さ。
「ボワイドーの親族か?」
ホワイトが真剣な顔で尋ねる。
「いや」
白衣の男は、静かに首を横に振った。
「ワシはボワイドーを作った、ヘリックス博士と言います……」
そう名乗りながら、その視線がホワイトへと向いた瞬間だった。
「わあああぁぁぁ!!!」
突然の大声に、全員がびくりと肩を跳ねさせる。
「私の顔に何かついてるか?」
ホワイトが困惑した様子で自分の顔を触る。
「急にチ〇コが喋ったとビックリしたんじゃねえか?」
オレは思わず本音を漏らした。
「大便くん、サイテー!」
ロジナスが半眼でツッコむ。
「誰が喋るチ〇コだ!」
ホワイトが怒鳴った。
「ガーディアンズのホワイトさんじゃないか?」
ヘリックス博士は動揺を隠しきれない様子のまま、確認するように尋ねた。
「何で私を知ってるッ?」
ホワイトが怪訝そうに眉をひそめる。
「昔、ミナーミのガーディアンズの科学研究室で、ワシは働いておりました。その頃、見たことがあるんです!」
「私はアンタを知らないし、見たことないぞッ!」
「そりゃそうです」
ヘリックス博士が、苦笑いを浮かべながら説明を続ける。
「ワシはミナーミの研究室におりましたが、キータにも別の科学研究室がありますからな。」
「キータにも別の科学研究室があるのか?」
オレは意外な事実に軽く驚いた。
「ええ。そこの研究室のメンバーは、基本的に研究室に籠りっぱなしですからな。アンタがミナーミからキータのガーディアンズ本部に来た際に、窓から一度見かけただけです」
「まあ、レンズみたいなヤツがいるくらいだし。あって不思議じゃないな。」
「レンズ?」
その名前を聞いた瞬間、ヘリックス博士の表情が一変した。
「アイツと知り合いか?」
「知り合いも何も…」
オレは肩をすくめた。
「一緒にここまで来て、今はボワイドーに気絶させられてるよ。」
「レンズがいるのか、あのクソ野郎……」
ヘリックス博士の顔に、隠しきれない怒りが滲んだ。
「まあ、イケオジって性格アレじゃん? 恨まれてても不思議じゃなくね?」
ロジナスが納得したように頷く。
「そうだ、アイツは性格がアレだ!」
ヘリックス博士の声が、一気に熱を帯びた。
「私は何回も、危ない薬の実験台にされた! アイツを殺すためにガーディアンズを辞めて、絶対虚無機構に入り、ホワイトをモデルにボワイドーを造った。そのボワイドーを使って、レンズのクソ野郎を殺してやろうとしたんだ!」
熱弁が、洞窟中に響き渡った。
「待て」
ホワイトが片手を上げて制止した。
「今、サラッと凄いこと言ってなかったかッ?」
「ああ、レンズを殺してやると言った!」
「いや、そこじゃない! 凄いことはッ!」
「殺してやりたいも、充分凄いこと言ってるがな…」
バウンスが冷静にツッコむ。
「ガーディアンズを辞めて、絶対虚無機構に入ったと言った!」
ヘリックス博士が力説する。
「そこじゃないと思うんだがッ!」
ホワイトが困惑気味に呟く。
「アーマーはキータのガーディアンズなのに、博士知らんの?」
ロジナスが不思議そうに尋ねる。
「科学研究室にいる奴らなんて、さっきジジイが言ってた通り引きこもりだから、まず会わんな…」
アーマーが肩をすくめて答える。
「アンタがガーディアンズか、絶対虚無機構かは、どっちでもいい!」
ホワイトが声を張り上げた。
「どっちでもよくはないだろ。ガーディアンズなら、こっちの仲間になるし」
オレが冷静に指摘する。
「もっと、肝心な事ッッ!」
ホワイトが苛立たしげに続けた。
「肝心なこと??はて…」
ヘリックス博士が首を傾げる。
「ああ! 危ない薬の実験台にされた事か? それなら命がけで、死なないために薬を作って、生き延びたよ!」
「貴様! ワザと肝心な事を避けて話してないかッ!?」
ホワイトが苛立ちを爆発させた。
「私をモデルに、ボワイドーを造ったと言うことだッッ!!」
その一言に、ガーディアンズの面々が一斉に息を呑んだ。
「あー!!」
「だから似てたのか!」
「オマエらも、博士が言ってたのに何で気づかなかったんだッ!」
ホワイトが憤慨した様子で全員を見回す。
「ゴメン。」
オレは正直に答えた。
「ホワイトの事にオレを含めて皆、あんまり興味がないからだと思う…。」
「皆、そうなのかッ?」
ホワイトが縋るように、アーマー、ロジナス、バウンスへと視線を向けた。
三人は同時に、そっと目を逸らした。




