第67話 本気
「じゃあ、ワシも本気で戦うとするかのう」
ボワイドーの声が、一段低くなった。
「子供かよ!って、11歳だから子供か!!」
アーマーが即座にツッコんだ。
今さら「本気を出す」などと言い出すあたり、
やはりどこか幼稚さが抜けきっていない。
だが、その空気は一瞬で消えた。
踏み込み。
拳が、ロジナスの顎を狙って突き出される。
紙一重で、避けた。
「おっ、見切ったか!」
アーマーが身を乗り出す。
だが、その隙を狙っていたかのように、リバーブローが腹部へと突き刺さる。
「――ッ!」
息が詰まる。ロジナスの体が、
わずかに前へと折れた。
「甘い!」
ホワイトが思わず声を上げた。
フォームだけは妙に評論家じみている。
隙だらけの顔面へ、続けざまに前蹴りが放たれる。
だが。
その一瞬で、ロジナスの姿がブレた。
風圧だけを残して、蹴りは空を切る。
「はえっ……」
オレは思わず声を漏らした。目で追うことすら、ままならない。
「くっ……」
ボワイドーが舌打ちした。
「『体内爆縮』」
尻から放たれた緑の奔流が、直前までロジナスがいた場所を薙ぎ払う。
だが、そこにはもう誰もいなかった。
超スピードで距離を取ったロジナスが、遠く離れた位置から、腹を押さえたまま低く笑った。
「最悪、オナラかましてきたし。絶対殺すから。」
その声には、もう軽さのかけらもなかった。
「ロジナス、すげえ怒ってやがる…。」
アーマーが思わず後ずさった。
「防御力バグってても…」
ロジナスの目が、すっと細まる。
「鍛えられない場所は、絶対あるっしょ?」
「まさか、あそこか……?」
オレはその視線の先を追って、嫌な予感がした。
言うが早いか、その姿が消えた。
ボワイドーの股間へ、発勁が炸裂する。
「――ッッッッ!!!!!!」
声にならない絶叫。
「オレの股間が、あんな目にあったら死ぬ自信あるな……」
アーマーが真顔で呟き、無意識に自分の股間を両手で庇った。
ボワイドーは両手で股間を押さえ、涙を噴き出しながら、赤子の様に泣き叫ぶとその巨体を大きく折り曲げた。
前かがみになった、その頭部。
「背、デカすぎだしさ」
ロジナスがボワイドーの頭を見下ろしながら、ぽつりと呟いた。
「普段ならこの技、デカい奴だと屈んでもらわないと届かないんだけど」
「勝手に屈んでくれて助かったし。」
無防備に晒された両耳へ、ロジナスの両手がそっと添えられる。
「『両耳旋風』」
無防備に晒された両耳へ、ロジナスの両手がそっと添えられる。
静かな呟き。
「新技だ! 名前まで考えてる余裕あるとか、強すぎるだろ……」
ホワイトが戦慄した声を漏らした。
そして、その両手から同時に発勁が放たれた。
衝撃波が、頭蓋の内側を左右から挟み撃ちにする。
「グ、ゴ、ォォ……ッ」
ボワイドーの目から、口から、耳から、血が噴き出した。
その巨体が、ゆっくりと地面に崩れ落ちる。
自らの体から溢れ出た血の海に、ボワイドーは静かに沈んでいった。
「オレら、ロジナスの味方でよかったな…。」
オレは心の底からそう思った。




