第66話 武装
「やっぱ、防御力バグってね?」
ロジナスの呆れ声を聞いて、ボワイドーが口の端を吊り上げた。
「タイプではない、と言われたのう…ショックじゃ。」
ゆっくりと首を鳴らしながら、腰を落とす。
「ならば、遠慮する理由もなくなったわい!」
次の瞬間、その巨体が踏み込んだ。
左ジャブ。
ロジナスの顔面が跳ね上がる。
右ストレート。
乾いた破裂音が洞窟に響き、ロジナスの体が後方へ吹き飛んだ。地面を二度、三度と転がって、ようやく止まる。
蹴りが効かなかった衝撃で、ほんの一瞬、反応が遅れた。その一瞬を、あの男は逃さなかったのだ。
「まずいぞ! ロジナスは防御力が低いんだッ! あんな拳をまともに喰らったら――」
ホワイトが顔面蒼白で叫んだ。
「オマエがそれを叫ぶと、敵に丸聞こえなんだよ。」
オレは即座に釘を刺した。少し前、ロジナスに肘鉄を入れられたばかりだというのに、学習能力というものがこの男には備わっていないらしい。
だが、地面に倒れたロジナスは、ぴくりと指を動かした。
そして、むくりと上体を起こす。
「……いったぁ!」
頬をさすりながら、ロジナスは目を丸くした。
「あれ? 思ったより痛くないんだけど!」
口元にうっすら血は滲んでいるが、それだけだった。立ち上がる足取りにも、ふらつきは見られない。
「モブオに強化してもらった服のおかげだな!」
アーマーが興奮して叫ぶ。
「素の防御力だったら、今ので終わってたかもしれんッッ!」
ホワイトが顎をさすりながら呟いた。
「あの変態職人、腕『だけ』は本物じゃん!!」
ロジナスが服の埃を払いながら、悔しそうに認めた。
ナース服を押し付けようとしてきた男の仕事ぶりを、こんな形で認めることになるとは思わなかったのだろう。
そのやり取りを聞いていたアーマーが、ふと何かに気づいたように、オレの黒鎧へ視線を向けた。
「そうか!!だから強くない大便も、ボズクに蹴られて無事だったのか!!」
「強くないは、余計だ。」
オレは腕を組んで言い返した。
「まあ、この鎧のおかげで助かったのは事実だがな。」
悔しいが、否定はできない。あの前蹴りを腹に喰らってなお、こうして立っていられるのは、モブオの腕が確かだったからだ。
「ん、まてよ?ロジナスは顔を殴られてたよな!?
服で覆われていない箇所が、ダメージ少ないのはどういう理論なんだ?」
オレはロジナスに疑問を投げかけた。
「なんか、この服を着てから身体中が薄いオーラみたいな?ヤツで覆われてる!だから顔を殴られても平気だったのかも!」
ロジナスは、感覚で説明した。
「なるほど、オーラで覆われてるのかッ!だから私も攻撃を受けても、紫ビキニパンツのおかけで普段よりダメージが少なかったんだなッ!」
ホワイトは、今さら納得した。
「オーラに覆われてなくても、その前からチ◯ポは皮で覆われていたじゃねえか!」
アーマーが笑いながら指摘する。
「皮に覆われていないが、小ぶりで小さいドングリのオマエに言われたくないわッ!」
ホワイトは、ガーディアンズ最小のブツであるアーマーのサイズを指摘した。
「つうか、ロジナスが真面目に戦ってるときにチ◯コの話をしてる場合か。」
バウンスは真面目に注意した。
「フン!ボワイドーと戦うといって置きながら、アーマーに握手をスルーされ、ボワイドーに攻撃が効かず、ロジナスにすぐバトンタッチした奴に言われたくないわッ!」
「ぐぬぬ…!」
バウンスはホワイトに正論をカマされ、言葉に詰まった。
「ぐぬぬ…!って言うヤツ、生まれて初めて見た…。」
オレはバウンスの情けない反論に反応した。
「じゃ、次はロジナスの番ね!」
うるさいガーディアンズをスルーし、
ロジナスが首をこきりと鳴らすと、ボワイドーの正面に歩み出た。
先ほどまでの軽口は消えている。
目つきが、わずかに鋭くなっていた。
「ほう、まだやる気かの?」
「何いってんの?やるに決まってんじゃん!」
言い終える前に、ロジナスの姿がブレた。
三日月蹴り。
鋭く弧を描いた足先が、ボワイドーの腹部へと深々とめり込む。
手応えは、確かにあった。
「いい蹴りじゃが、ワシには通らんのう。」
そして間髪入れず、拳が走る。
顎先を狙って掠める、あの一撃。
カクガリクンを沈めた、脳を揺らす技だ。
だが。
ボワイドーが、顎を引いた。
ただ、それだけだった。
拳は虚しく空を切る。
「え、今の避けんの?」
ロジナスが目を見開いた。
「顎を狙うのは、喧嘩の基本じゃろうが!」
ボワイドーが、当たり前のように答える。
右肩が、突き出された。
踏み込み。
衝撃。
ショルダータックルがロジナスの体を正面から捉え、その体が洞窟の壁際まで吹き飛んでいく。
「あの傷顔ジジイ、私の技をまたパクりおって!肩から突っ込むのは、私の専売特許だぞッ!」
ホワイトが悲鳴のような声を上げた。
「専売特許って、ショルダータックルを使うヤツいっぱいいるだろ!?」
アーマーが呆れ顔でツッコんだ。
土煙が舞う。
その向こうで、ロジナスがゆっくりと体を起こした。口元の血を、手の甲で乱暴にぬぐう。
「……ふぅん」
低い声だった。
いつもの軽さが、そこにはない。
「防御力バグってるヤツ相手にさ…。」
ロジナスは、静かにボワイドーを見据えた。
「もう、マジ殺す気でやんないと勝てないってことだよね?」
オレは息を呑んだ。
そういえば、ロジナスは以前、ホワイトに発勁を打つ時に言っていた。
死なない程度には加減してあげる、と。
その加減を外したら、どうなるのか。
洞窟の空気が、ピンと張り詰めた。




