第64話 焦燥
「大便も『神威閃衝』とか、技名つけてたじゃないかッ!人のこと言えないだろがッ!」
ホワイトが噛みついてくる。
オレは無視した。
言い返す価値もない。
「ボイスさんの仇ィィィ!!」
叫んだのはカクガリクンだった。
頭は、まだ燃えている。
その全身を松明のようにしながら、ボワイドーへと突撃していく。
「気絶しただけだろ。勝手に殺すな!」
アーマーが冷静にツッコむ。誰も聞いていない。
「『体内爆縮』」
ボワイドーの尻から、閃光が迸る。
轟音。
衝撃。
だがカクガリクンは怯まない。
「もっと燃えてくださいっすぅ! 倍返しですぅ!」
炎まみれのまま、抱きついた。
「屁は燃えますよ!」
レンズが、他人事のように呟いた。
ボッ、と音がした。
「オレの技パクんじゃねえ! ホワイトじゃねえんだから!」
アーマーが横から怒鳴る。
「私が、パクる人間みたいに言うなッッ!」
ホワイトの拳が、アーマーの顔面に炸裂した。
「殴ったなッ!」
蹴りが返る。
醜い、仲間割れが始まった。
「お二人はほっといて、カクガリクンに加勢しますね!!」
レンズが火炎瓶を放った。
炎が爆ぜる。
カクガリクンとボワイドーが、二人まとめて業火に呑まれた。
「なかなか酷いことするな……」
バウンスが引いた声で呟く。
「うっわぁ……」
ロジナスも同じく、顔を歪めた。
「流石にカクガリクンとボワイドー、死んだんじゃ……」
オレがそう口にした、その時だった。
「『体内爆縮』ォォォ!!」
叫び。
爆発。
炎の中心が、一瞬で膨れ上がった。
「離れろ!」
ガーディアンズたちが、慌てて距離を取る。
「強力な放屁で爆発を起こして、火を消したんですか……」
レンズが感心したように呟いた、次の瞬間。
火の消えたカクガリクンが、勢いよく飛んできた。
レンズに直撃する。
レンズが、声もなく崩れ落ちた。
炎を全身に浴びたはずのボワイドーは、平然と立っていた。
肌も焼けていない。ダメージらしいダメージも無かった。
「ワシに、傷一つついておらんがな」
ボワイドーが低く笑った。
三半規管ごと揺さぶるような哄笑だった。
だが、次の瞬間には真顔に戻る。
「……マジかよ」
オレは思わず声を漏らした。
炎。
爆発。
まともに直撃していた。
それでも、肌一つ焼けていない。
「防御力、バグってね?」
ロジナスが顔をしかめる。
「自分の歳を数える知能はないくせに、耐久力だけは規格外だな…!」
オレは腕を組んだ。
若い年齢と見合ってない老けた容姿の気味が悪い男。
なのに、体だけはまともに動いている理不尽。
そのアンバランスさが、逆に不気味だった。
「俺が倒す」
バウンスが静かに前へ出た。
「跳躍偏向でいくのか?」
オレが尋ねると、バウンスは頷いた。
その時、オレはふと気づいてしまった。
「待て。アイツの攻撃、オナラだぞ」
「……あ」
バウンスの表情が固まった。
「跳躍偏向、受けた攻撃を倍にして返す技だよな」
オレが確認する。
「そうだ」
バウンスが頷く。
「ということは…」
オレはゆっくりと告げた。
「オマエも、屁をこくことになるが。」
「――は?」
バウンスが固まる。
「オナラを受けて、オナラを倍にして返す。理屈で言えばそうなるだろ?」
オレは淡々と説明した。
「待て!もしかして、屁で戦う流れ!?」
バウンスの声が裏返った。
「俺は屁で戦うと言ってない!屁で戦うのは嫌だぞ!」
「え〜!屁で戦うバウンスくんとか、正直見たくないんだけど!」
ロジナスが顔をしかめながら口を挟んできた。
「私を苦しめた、あの跳躍偏向ッ!! 盛大な放屁で、私の猿真似野郎を屠ってくれると期待してるぞッ!」
殴り合いが終わったらしい、目を腫らしたホワイトが煽る。
「なんかもう、俺が屁で戦わないといけないみたいな流れになってきてないか!?」
バウンスの声が更に裏返った。
そこへ、さっきの殴り合いで頬を大きく腫らしたアーマーが、のっそりと割り込んできた。
「別に、屁で戦わなくてもいいだろ。殴る蹴るをカウンターすればいい。」
「……そうか!」
バウンスの顔が、一瞬でぱっと明るくなった。
「ありがとう!」
感激した様子で、腫れた顔のアーマーへと手を差し出す。
握手を求めるその手を、アーマーは無言でしかめっ面のまま、うっとうしそうに払いのけた。




