第63話 詐称
「ワシの歳は、十二歳だと言って…ん、まてよ?」
先ほどそう名乗ったボワイドーが、ふと何かに気づいたように自分の両手を持ち上げた。
骨ばった指を一本ずつ折り曲げながら、口の中でぶつぶつと数を数え始める。
「一つ、二つ、三つ……」
還暦にしか見えない筋肉とスキンヘッドを持つ男が、幼児のように指折り数える姿は、それだけでもう異様だった。
誰も口を挟めないまま、その様子を見守る。
「…む」
数え終えたボワイドーが、わずかに眉を寄せた。
「十一歳だったわい」
「一歳サバ読んでたのかよ!」
オレは思わず叫んでしまった。
十二歳じゃなくて、十一歳。
大人に見えるから、サバを読まなくていいだろう。
いや、違う。
ただコイツが馬鹿で、自分の年齢も正確に分かってなかっただけだった。
「こんな変な人と話していたら、ボクの頭がおかしくなりそうです!ただちに、排除します!!」
ボイスが静かにそう呟くと、腰の剣を抜き放ち、迷いのない足取りでボワイドーへと斬りかかった。
普段の丁寧な物腰からは想像できないほどの、思い切った踏み込みだった。
だが、その刃がボワイドーへと届くよりも早く。
「――ぬんッ!」
裂帛の気合とともに、ボワイドーの尻から放たれたのは、もはや生理現象とは呼べない代物だった。
緑がかった気体が渦を巻きながら圧縮され、一直線のエネルギー波と化して迸る。
空気を切り裂く轟音とともに、その奔流がボイスの体を正面から呑み込んだ。
剣を振りかぶったまま突っ込んでいたボイスは、まともにその直撃を受け、白目を剥いて糸が切れたようにその場へ崩れ落ちた。
「オナラで瞬殺されてるじゃねえか……」
オレは倒れたボイスを見下ろしながら、乾いた声を漏らすしかなかった。
剣も技も一切関係ない。
ただの一撃で、ガーディアンズ副隊長が沈められている。
「今の技、名付けるなら『体内爆縮』ってとこじゃな」
ボワイドーが満足げに、自らの放った一撃に名をつけた。
「今の……なんか、ホワイトっぽくない?」
ロジナスがボワイドーの様子を眺めながら、ふと思いついたようにそう言った。
悪気のない、純粋な感想といった口調だった。
「はァ!?」
その一言に、ホワイトの顔が一瞬にして赤く染まった。
「私は放屁なんぞで戦わんわッ! 勝手に一緒にするな!」
拳を握りしめ、猛烈な勢いで否定する。
「じゃなくて。その場で勝手に名前までつけちゃうノリがそっくりだって話!」
ロジナスが涼しい顔で追撃した。
技の中身ではなく、繰り出した直後に得意げな顔で命名する、そのメンタリティそのものを指摘されては、ホワイトに反論の余地はほとんど残されていなかった。
「くっ……! それを言うなら、大便の聖剣の方が、ウンコとオナラで似てるだろうがッ!」
ホワイトが苦し紛れに、こちらへと矛先を向けてきた。
「バカだな、論点が違うだろ。」
オレは静かに、しかし堂々と切り返した。
「ロジナスも言ってたが、アホのホワイトにも分かるように再度説明してやる。技を放った後、その場のノリで必殺技名をつける。っていう行為自体が似てるって話だ。確かに、オレの聖剣にオナラみたいにニオイは有る。しかし、オマエらは出した後に名前だけ後付けしてるだけだろうが!」
「ボワイドーの事で、なんで私が怒られなきゃイカンのだッ!!」
ホワイトの絶叫が、洞窟の中に虚しく響き渡った。




