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第62話 酷似


「金だぁぁぁぁぁ!!」


アーマーは、まだ石を抱えていた。


「金塊だぁぁぁ!! これでオレは大金持ちだぁぁぁ!!」


「…………」


誰も何も言わない。


さっきまでボズクとの戦闘が行われていたというのに、今この場で一番楽しそうなのが、ただの石を金塊だと思い込んでいる豚鎧だった。


戦いに勝った達成感とか、仲間が無事だった安心感とか、そういうものを一切感じさせない。


むしろ一人だけ、別の物語を始めている。


「アーマーさん」


レンズが近づく。


「少し失礼しますね」


「触るなァッ!!」


アーマーが石を抱き締めた。


「これはオレの金だ!! 誰にも渡さん!!」


「ただの石ですよ」


「違う!! これは金だ!!」


「石です」


「金だ!!」


「石です」


「金だァァァ!!」


「石です」


「…………」


アーマーがレンズを睨んだ。


その目は、さっきまで幻覚の中で敵を殺しまくっていたボズクよりも怖かった。


「…………」


レンズは無言でアーマーの肩に手を置いた。


「正気に戻りましょう」


「うおおおおおおおおお!!」


アーマーが叫ぶ。


「オレの金を奪うなァァァ!!」


「大丈夫です」


レンズが淡々と答えた。


「最初から金ではありません」


「…………」


アーマーの動きが止まった。


数秒後。


「…………あ?」


ようやく目の焦点が合う。


「ここは……?」


「洞窟です」


「……洞窟?」


アーマーが周囲を見渡す。


そして、自分の腕に抱かれているものを見る。


ただの石だった。


「…………」


アーマーは石を地面に落とした。


コトン。


「…………」


しばらく沈黙した後――


アーマーは、レンズを睨みつけた。


その目はまるで――


親の仇でも見るかのようだった。


「…………」


レンズが困ったように眼鏡を押し上げる。


「なぜでしょう?」


「お前が……」


アーマーが低い声で呟く。


「オレの夢を壊した……」


「夢というか、幻覚ですけどね」


「同じだ!!」


「全然違いますよ」


「オレは金持ちだったんだぞ!!」


「幻覚の中でだけです」


「だからお前が悪い!!」


「理不尽すぎる……」


レンズが小さくため息をついた。


どうやらアーマーの中では、幻覚から目覚めたことよりも、金持ちではなくなったことのほうが重大らしい。


人間、現実に戻れば幸せになれるとは限らない。


時には幻覚のほうが、よほど都合のいい人生を見せてくれる。


アーマーにとっては、まさにそれだった。


「さて」


ボイスが周囲を見渡した。


「ボズクを倒しましたし、絶対虚無機構(アブソリュート・ゼロ)の残りは四人ですね」


「そういうことになるな」


オレは頷いた。


ボズクを倒した。


これで五人いた絶対虚無機構(アブソリュート・ゼロ)のうち、一人を倒したことになる。


つまり残り四人。


数だけ聞けば、順調に敵を減らしている。


ただし。


この洞窟に入ってから、まともな敵に会った記憶があまりない。


人間じゃないと言う狼だったり。


幻覚を見て一人芝居を始める狼だったり。


金塊に見える石を抱えて喜ぶ豚だったり。


……まあ、後半の一匹は敵じゃない。


「先へ進むか」


オレたちは洞窟の奥へ向かって歩き始めた。


その先頭を歩いているのは――


「カクガリクン、頼む」


「お任せくださいィ!」


カクガリクンだった。


頭に火をつけたまま歩いている。


なぜなら、松明代わりだからだ。


「…………」


改めて見ると、ものすごい光景である。


人間が歩いている。


その頭が燃えている。


しかも本人は特に気にしていない。


異世界に来てから、火の使い方がだいぶおかしくなってきた気がする。


「ねえ?」


ロジナスがカクガリクンを見ながら言った。


「イケオジさ、今回はロウソク使わないんだ?」


「はい」


レンズが答える。


「今回はカクガリクンがいますから」


「……松明代わり?」


「はい」


「でもさ」


ロジナスがカクガリクンの頭を見た。


「ロウソクのほうが普通じゃね?」


「カクガリクンのほうが大きいので」


「…………」


ロジナスが黙った。


「そっち?」


そこを理由にするのか。


確かにカクガリクンの頭の炎は、ロウソクよりはるかに大きい。


大きいというか、人間一人を燃料にしている時点で規模がおかしい。


「レンズさん」


ボイスが真面目な顔で尋ねる。


「カクガリクンの頭は、燃え続けても大丈夫なんですか?」


「本人が大丈夫と言っていますから」


「ありがとうございますぅ!」


カクガリクンが嬉しそうに返事をする。


「何に対してのありがとうだよ!」


オレはツッコんだ。


自分の頭が燃えていることに感謝するな。


そんな奴、世界中探してもそう何人もいないだろ。


……いや。


このパーティーなら、あと二、三人くらいいそうだ。


そんなことを考えながら歩いていると――


「……あれ?」


ボイスが足を止めた。


「どうしました?」


「洞窟の奥が、明るくなってきています」


「出口か?」


オレたちは前を見る。


確かに、奥のほうが明るい。


最初は薄暗かった洞窟が、少しずつ明るくなっている。


これはもしや、ようやく洞窟を抜け――


「…………」


天井を見上げる。


「…………」


そこには。


電球がついていた。


しかも一個ではない。


二個。


三個。


四個。


一定間隔で、ずらりと天井に並んでいる。


「…………」


誰も喋らない。


「……電球?」


ロジナスが呟いた。


「電球だな」


オレも答える。


「洞窟に?」


「洞窟に」


「…………」


なんでだよ。


誰が設置した。


洞窟の天井に電球を等間隔で設置する工事業者って何だ。


ここまで来ると、敵組織よりも施工業者のほうが気になってくる。


「松明、いらないな」


バウンスが冷静に言った。


「そうだな」


オレも頷く。


俺たちは、カクガリクンを見る。


カクガリクンの頭は、まだ燃えている。


「…………」


「…………」


「…………」


カクガリクンが笑顔でこちらを見る。


「どうしました?」


「いや……」


俺は言葉を失った。


電球が等間隔についている明るい洞窟で、一人だけ頭を燃やして歩いている。


もはや松明としての役割すら失っている。


ただ燃えている。


「カクガリクン」


「はい!」


「もう消していいぞ…」


「分かりました!」


カクガリクンが頭を振る。


「ボッ!」


炎がさらに燃え上がった。


「消せてねえじゃねえか!」


「すみませんですぅ!」


「謝るところそこじゃねえ!」


そもそも頭に火をつけて歩いている時点で、謝罪の方向性がおかしい。


そんな俺たちの前に――


人影が現れた。


「…………」


奥から、誰かが歩いてくる。


大きな身体。


太い腕。


筋肉。


そして――


スキンヘッド。


さらに、顔には大きな傷。


上半身は裸。


下半身にはビキニパンツ。


「…………」


俺はその姿を見た瞬間、頭の中に一人の男が浮かんだ。


「……大便くん」


ロジナスが隣で呟く。


「ああ」


俺も頷いた。


「マッチョでハゲでビキニのおっさんは、ホワイトだけで充分だ」


奥から現れた男――ホワイトが怒鳴った。


「私も!そう思うッッ!」


「お前が言うな!」


ホワイトが傷面のスキンヘッドを指差す。


「完全にカブってるぞッッ!」


「…………」


確かに。


ホワイトと同じ系統だ。


マッチョ。


ハゲ。


ビキニ。


見た目だけなら、兄弟と言われても納得してしまう。


いや、納得したくはない。


「ほう」


傷面の男がこちらを見る。


「ここまで来たと言うことは、ボズクを倒してきたんだな……」


男が腕を組む。


「なかなかやるではないか…」


「…………」


こういうタイプか。


見た目は変態なのに、喋り方だけ妙に威厳がある。


そのアンバランスさが、余計に腹立つ。


「もしかして」


ボイスが尋ねた。


「あなたも絶対虚無機構(アブソリュート・ゼロ)ですか?」


「それ、いちいち聞かなくてもよくないか?」


バウンスが呟く。


「ここまで来て、こんな見た目の奴が敵じゃなかったら逆に困るだろ」


「確かに…!」


ボイスが納得する。


「では、聞く必要はなかったですね!」


「そういうことだ」


いや。


だったら最初から聞くな。


傷面のスキンヘッド男が、堂々と胸を張った。


「いかにも」


やっぱりか。


「ワシは――」


男は、やたらと重々しい声で名乗った。


「絶対虚無機構(アブソリュート・ゼロ)のメンバー、ボワイドーだ」


「…………」


「…………」


「…………」


アーマーが首を傾げる。


「ホワイトと見た目だけじゃなくて、名前も似てるな」


「パクりだッッ!!」


ホワイトが即座に怒鳴った。


「私の名前をパクっただろッ!!」


「待て!!」


ボワイドーが眉をひそめる。


「そっちがオリジナルみたいな言い方をするな!」


「何だとォ!?」


「ボワイドーのほうが、ホワイトより見た目ジジイだ。だからホワイトがパクったんじゃねえか?」


俺が冷静に指摘した。


「おいッ!」


ホワイトが振り返る。


「生まれた早さでパクりにするなッ!」


「いや、普通は先に存在したほうがオリジナルだろ」


俺は客観的な意見を伝えた。


「ふっ」


ボワイドーが鼻で笑った。


「くだらん争いするのう?」


「お前が言うなし」


ロジナスが即座にツッコむ。


「お前の名前が原因だろ」


「ワシの名は由緒ある名だ」


「じゃあ何歳なんだ?」


俺が聞いた。


「年齢か…。」


ボワイドーが顎を上げる。


「ワシか?」


「うん」


「十二歳だ」


「…………」


「…………」


「…………」


全員が固まった。


「12歳ぃぃいー!?」


最初に声を出したのはボイスだった。


「じゅうに…さい…?」


ロジナスも呟く。


「イヤイヤイヤ、12歳て……」


アーマーまで言った。


「12歳には全く見えないですぅ」


カクガリクンも言った。


「嘘つくな!!」


俺は思わず叫んだ。


いや、そりゃそうだろ。


どう見ても十二歳ではない。


スキンヘッド。


筋肉。


傷だらけの顔。


ビキニ。


そして、声。


どう考えても、十二歳の少年から出ていい要素ではない。


「大事な事だから、もっかい言う!嘘つけ!!」


俺は指を突きつけた。


「孫いるだろ!?」


「いるわけなかろう?12歳だからのう」


「待てッ!!」


ホワイトがボワイドーを見る。


「お前、老けすぎだろッ!」


「失礼な!」


「いや、十二歳には見えないって!!」


ロジナスがボワイドーの顔をじっと見る。


そして――


「……プッ」


肩が震えた。


「おい」


ホワイトが嫌な顔をする。


「どうした?」


ロジナスは口元を押さえながら、ついに吹き出した。


「いや……」


「何だよ」


「老けすぎなとこもホワイトと似てるし…」


「…………」


ホワイトが固まる。


「…ウケる!」


ロジナスが腹を抱えて笑い始めた。


「あははははははは!!」


「笑うなァァァ!!」


ホワイトが叫ぶ。


「お前まで私をネタにするな!!」


「だって!」


ロジナスは涙を浮かべながら笑っている。


「マッチョでハゲでビキニで、しかも老けてる!」


「お前、私のこと何だと思ってるんだ!!」


「十二歳のおじいちゃん?」


「そんな奴いねえよ!!」


「目の前にいるぞ」


俺がボワイドーを指差した。


「…………」


ホワイトがボワイドーを見る。


ボワイドーは堂々と立っている。


十二歳とは思えない貫禄。


十二歳とは思えない筋肉。


十二歳とは思えない傷。


そして十二歳とは思えない顔に刻まれたシワ。


「…………」


ホワイトが頭を抱えた。


「なんで私のキャラが、こいつと被るんだ……」


「キャラじゃなくて人生が被ってるんじゃね?」


「余計なこと言うなッ!!」


洞窟の奥。


電球に照らされた場所で、絶対虚無機構(アブソリュート・ゼロ)の新たな刺客が現れた。


その名は、ボワイドー。


十二歳。


そして――


ホワイトとほぼ同じ見た目。(傷以外)


……敵組織の幹部が出てきたはずなのに、どうしてこうなった。

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