第60話 温存
「私を満足させられる強さを持つ者は、いないのか」
ボズクが退屈そうに呟いた。
「出たよ。バトル漫画で強者を探してる奴のセリフ」
思わずツッコんでしまう。
こういうこと言う奴、だいたい後でボコられるんだよな。
「ロジナスさん」
ボイスが、こっそりロジナスに耳打ちした。
「さっきの戦いを見て、勝てそうですか?」
「全然。ロジナスの方が強いし」
即答だった。
「では、皆がやられたらお願いします!」
「どゆこと?」
ロジナスが首を傾げる。
「ロジナスさんが戦うほどの相手ではない、ということです!」
レンズが普通の声量で言った。
「声おおきいですよ!」
「その少女が……私より強いだと?」
ボズクがロジナスを見る。
そして、
「ハハハハハハ!」
笑い出した。
「バカ言え!」
「……何かムカつく」
ロジナスの目が細くなる。
「見た目で判断して、後で痛い目見る奴が言いそうなこと言ってるな」
「さっきから男のクセにベラベラと……気に入らん!」
ボズクの目がオレを捉えた。
「え?」
次の瞬間。
ドゴォッ!
「ぐおっ!」
前蹴りが腹に突き刺さり、オレの体が宙を舞った。
「大便くん!」
「大丈夫ですよ…!」
ボイスが落ち着き払っている。
「大便さんは強いですから」
「……アイツ、そんなに強そうに見えないけどな」
バウンスが呟く。
「強いんです」
ボイスは真顔だった。
「大便さんだから…」
「説明になってないぞ!」
バウンスのツッコミが飛ぶ。
地面に転がるオレを見下ろし、ボズクが鼻を鳴らした。
「三人目。コイツも大したことなかったな…。」
「見た目で判断したがる犬ですね!」
レンズが言った。
「誰が犬だ!」
ボズクが怒鳴る。
「私は狼だ!」
「犬が狼ぶらないでください…」
「だから狼だと言っている!」
「どっちでもいいだろ……」
オレが地面から起き上がろうとした、その時だった。
ロジナスの姿が消えた。
「え?」
次の瞬間。
ドゴンッ!!
トーキックがボズクの腹にめり込んだ。
「がはっ……!」
ボズクの体がくの字に折れ、そのまま吹き飛ぶ。
「……え?」
バウンスが固まった。
ロジナスは何事もなかったように足を下ろす。
「さっきムカつくこと言ったのと」
ボズクを見る。
「大便くん蹴った分」
もう一度見る。
「まとめて仕返し」
「…………」
強い。
めちゃくちゃ強い。
「この女……メチャクチャ強くないか?」
バウンスが呆然と呟いた。
「そういえば」
ボイスが言う。
「バウンスさんは、ロジナスさんが戦うところを見るの初めてでしたね」
「いや、初めてだけど……」
バウンスがロジナスを見る。
「今まで戦わなかったの?」
「温存してたんです」
レンズが答える。
「最終兵器として」
「最終兵器?」
「はい」
レンズが頷く。
「この先、もっと強い絶対虚無機構が出てくるでしょうから」
「だったら……」
バウンスがボズクを見る。
「犬相手に使う必要なかったんじゃ?」
「また犬と言ったな!」
ボズクが叫ぶ。
「狼だ!」
「はいはい、狼狼」
「貴様ァ!」
「犬がキレましたね」
「狼だと言っている!」
そんな二人のやり取りを眺めながら、レンズが懐から何かを取り出した。
火のついたロウソク。
「……」
ボイスがそれを見る。
「レンズさん」
「はい?」
「それ、ロウソクですよね?」
「そうですが」
「だったら……」
ボイスが、少し離れた場所を見る。
そこではカクガリクンが猛烈な勢いで燃えていた。
「カクガリクンに火をつける必要、なかったんじゃ……」
「…………」
レンズがロウソクを見る。
カクガリクンを見る。
もう一度ロウソクを見る。
「……確かに」
「今気づいたんですか!?」
戦闘中だというのに、誰もまともに戦っていない。
いや。
一人だけ戦っている。
ボズクだ。
ただし、相手が悪い。
「ロジナス……!」
ボズクが腹を押さえながら立ち上がる。
「次は私が――」
「犬がまだ喋ってるし」
ロジナスが呟いた。
「だから狼だァァァ!!」
こうして、ロジナスの温存は――
開始数秒で終了した。




