↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/78

第55話 看破

「『深淵速度(アビス・ベロシティ)』を見破るヒント、何かねえかな」


オレは腕を組み、目まぐるしく攻防が続く戦場の中心で、静かに思考を巡らせていた。


がむしゃらに向かっていっても、あの速さの前では意味がない。

何か突破口となる糸口があるはずだ。


そうしてオレが考えを巡らせている間にも、アーマーとホワイトは律儀に前線へと躍り出て、黒パーカーの攻撃を一身に受け続けていた。


黒パーカーの拳がアーマーの脇腹に沈み込んだかと思うと、間髪入れずに繰り出された回し蹴りがホワイトの側頭部を捉える。

二人はほぼ同時に地面へと叩きつけられた。


「グハッ……!」


「ぐぼおっ……!」


代わる代わる吹き飛ばされ、地面を転がっていく二人。もはや作戦というより、ただの人柱と化していた。


「アーマーさんとホワイトさんが死んだら、カクガリクンを起こして受け役にしましょう」


レンズが未だ気絶したままのカクガリクンを一瞥しながら、事もなげに提案する。


「……オイ、レンズってヤツ。頭おかしいだろ」


黒パーカーが攻撃の手を止めることなく、若干引いた様子でそう漏らした。

敵からドン引きされている時点で、色々と終わっている。


そんな中、ロジナスは戦線から一歩下がった位置で、じっと目を凝らしていた。

地面を蹴る音、空気の揺らぎ、わずかな残像。

その全てを見逃すまいと、瞬きの回数さえ最小限に留めている。


「見えないなら……見えるようになるまで、目を慣らすしかないっしょ」


ロジナスが静かに呟いた。

誰よりも動体視力に優れたロジナスだからこそできる、力技とも言える対策だった。


その傍らでは、ボイスもまた地面に片膝をついたまま、真剣な表情で目を閉じていた。


「僕も、心眼をモノにします」


「「いい加減にしろ!」」


その言葉を聞いた瞬間、吹き飛ばされてきたばかりのアーマーとホワイトが、息も絶え絶えのまま同時に叫んだ。

前回まったく機能しなかったことを、二人ともまだ根に持っているらしい。


一方で、これまで静かに戦況を見守っていたバウンスが、ぽつりと口を開いた。


「俺の力じゃ、黒パーカーの技は跳ね返せない」


「跳躍偏向(カタパルト・バイアス)」は、あくまで受けた攻撃をそのまま返す能力だ。目にも留まらぬ速さの攻撃そのものを捉えられなければ、発動のしようがない。


「だから、アーマーとホワイトが死んだら、俺が盾になる」


「――は?」


「死ぬ前提で話すやつ、多くねえか……?」


アーマーが地面に伏したまま、震える声で抗議する。


「まるで、死んで欲しいみたいだ……」


ホワイトも同じく地面に這いつくばったまま、涙目でそう呟いた。


だがレンズは、二人の悲痛な訴えなど意に介さなかった。


「アーマーさんとホワイトさんが死なないよう、念のため準備しておきますね」


そう言うと、まだ気を失ったままのカクガリクンの体を引きずり寄せ、迷いなく注射器を突き刺した。以前と同じ、後遺症の残る回復薬だ。


「ふげえっ……!」


カクガリクンが飛び起きるように覚醒する。全身に痛みが走っているはずなのに、その顔にはむしろ生気が漲っていた。


「はい、というわけでカクガリクン。黒パーカーさんの攻撃、しばらく一手に引き受けてもらえますか?」


「よろこんでぇっ!」


カクガリクンは満面の笑みで戦線に躍り出ると、黒パーカーの正面に堂々と立ちはだかった。


黒パーカーの拳がその頬を捉え、続く蹴りが腹部にめり込む。だがカクガリクンは、以前のようにあっさり顎を打ち抜かれることはなかった。

しっかりと顎を引き、急所への一撃だけは慎重に避けながら、その体で攻撃を受け止め続けている。


「……何だ、コイツ。前より粘るじゃねえか」


黒パーカーが眉をひそめた。


「砂場で遊んでる子供ぐらいの知能しかないと思ってましたが、カクガリクンにも考える頭があったんですね」


レンズが感心とも侮辱ともつかない口調でしみじみと呟く。


「口悪すぎだろ」


バウンスが思わず引いた声を漏らした。


「頑張れ、頑張れ!」


アーマーがムチを取り出すと、カクガリクンの背中をピシピシと叩きながら声援を送る。


「それ、応援じゃなくて普通に攻撃だろ」


ホワイトが冷静に指摘する。


「いや、コイツにとっては褒美かもしれん」


アーマーが真顔でそう返した。


そんな騒々しいやり取りが続く中、オレはずっと黙って戦場を見つめていた。そして、静かに口を開く。


「黒パーカーの技、見破ったぞ」


「「「本当か!?」」」


その場にいた全員の声が、綺麗に重なった。

黒パーカーがふっと鼻で笑う。


「どうせ、足元が滑るように油でも撒くとか、そんなオチだろ」


「……何で分かった?」


オレが思わず本気で驚いた声を上げると、次の瞬間、周囲から一斉に呆れた声が飛んできた。


「「「アホすぎるだろ!撒く油、どこにあるんだ!」」」


「……まあ、それは冗談として」


オレは咳払いをひとつすると、改めて真剣な顔で告げた。


「本当に、見破った」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。