第52話 頸飾
白パーカーは気絶していたが、息はまだあった。ピクリとも動かない体を見下ろしながら、レンズがふむ、と何かを思いついたように顎に手を当てる。
「白パーカーの能力は使えるので、仲間にしましょう」
「「「仲間になるわけないだろ!」」」
全員の声が、見事なまでに綺麗にハモった。
だがレンズはそんな反応など聞こえていないとばかりに、倒れている白パーカーの腕へ、躊躇なく注射器を突き刺した。
「ぐっ……ぐああああッ……! 痛い……! 死ぬ……!」
白パーカーが白目を剥きながら激しく痙攣し、地面を掻きむしる。あまりの苦しみように、周囲の空気が一瞬にして凍りついた。
「死なないように、回復薬も混ぜてありますよ。仲間になっていただければ、この激痛を取る薬も差し上げます」
レンズは注射器を片付けながら、事もなげに続ける。恩着せがましさすら感じさせない、あくまで業務連絡のような口調だった。
「本当、レンズは鬼畜だな…」
オレは半ば呆れ、半ば感心しながら呟いた。ここまでくると、もはや敵よりレンズの方が恐ろしい。
「イケオジ、ちょっといいなと思ってたけど、性格ヤバすぎだからナシだわ…」
ロジナスがドン引きした様子で、さりげなく一歩距離を取った。
「な、仲間に……なりますッ……!」
白パーカーが涙と脂汗をだらだらと流しながら、震える声で叫んだ。もはや誇りも矜持もない、ただ痛みから解放されたい一心の懇願だった。
「羨ましいです、ボクにも注射くださいィィ!!」
カクガリクンが目を輝かせながら食いついてくる。
「久しぶりに話したと思えば、またソレですか……」
ボイスが額を押さえて、深いため息をついた。
レンズは満足げに頷くと、約束通り白パーカーへ回復薬を注射する。青白かった顔色にわずかに赤みが戻ったのを確認すると、続けてその首に、ずしりと重そうな金のネックレスをかけた。
「ダッセー、ネックレスだな!」
オレが率直な感想を漏らすと、それを聞いていたアーマーが目の色を変えた。
「大便は分かってないな! 金ネックレス、かっこいいからオレにもくれ!」
アーマーが両手を差し出しながらせがむと、レンズはあっさりとその首にも同じ輪を通した。
「これは知り合いに作らせた爆弾ネックレスです。一度つけたら外せません」
レンズが笑顔のまま、さらりと恐ろしい情報を付け加える。
「裏切れば、僕が爆破スイッチを押します。無理やり外そうとしても、爆弾が作動して頭が吹き飛びますよ」
「ふざけるな!!」
アーマーが自分の首元を両手で押さえながら泣き叫んだ。ついさっきまで浮かれていた顔が、一瞬で絶望に染まる。
「アーマー、せっかく生き延びたのに踏んだり蹴ったりだな」
ホワイトが同情するように、その肩をぽんぽんと叩いた。
「今ならションベンあげようか?」
ロジナスが優しい声で申し出る。
「今、ションベン飲んで楽しめる気分じゃねえわ!」
アーマーが涙ながらに絶叫した。
「今、ションベン飲んで楽しめたら、逆に凄いわな」
オレが冷静にツッコむと、レンズはそんなやり取りを尻目に、改めて白パーカーへと向き直った。
「白パーカーはコードネームでしょう? 本当の名前は?」
問われた白パーカーは、少し躊躇うように間を置いてから、ゆっくりとフードに手をかけた。
黒い布が滑り落ちると、そこにあったのは意外にも若い顔だった。引き締まった筋肉、短く刈り込まれた黒髪、そして目鼻立ちの整った、まだあどけなさの残る端正な顔立ちの少年。
「バウンス」
短く、静かにそう名乗った。
「バウンスくん、メチャクチャかっこいいじゃん! 中性的なイケメンの大便くんと真逆で、男らしくてイケメン!」
ロジナスが両手を組み、目をキラキラさせながらテンションを上げる。
「フン、でも私の方が強いからな!」
ホワイトがすかさず割り込み、念を押すように胸を張った。誰も聞いていない張り合いだった。
こうして、バウンスはなし崩し的にガーディアンズの一員となった。
「ガーディアンズの一員となった。
じゃねえ! 俺を忘れて盛り上がるな!」
置き去りにされていた黒パーカーが、涙目で必死に叫ぶ。
「なあ、誰かネックレス外してくれ……!」
アーマーもまた、首元を両手で押さえたまま、涙を流しながら訴え続けていた。
誰もその声に、まともに取り合おうとはしなかった。




