第46話 傀儡
「これは……死んでますね」
レンズが淡々とカクガリクンの様子を確認すると、こちらを振り返ってにこやかに言った。
「大便さん、唐揚げ2個、あとから貰いますね」
オレは慌ててカクガリクンに駆け寄り、その手首に触れた。脈がない。
「……脈がねえ。マジで死んでるじゃねえか」
思わず小声で呟く。
「変態がやっと、くたばったか」
黄パーカーが冷たく言い放つと、そのままボウガンをこちらに向け直した。
「次は黒鎧、貴様だ」
「ヤベえ、完全にロックオンされたじゃねえか……!」
オレは内心で焦りながらも、頭をフル回転させていた。
――このままじゃマズい。時間を稼ぐ必要がある。
オレはとっさに背を向け、死んでいるはずのカクガリクンの声色を真似ながら、腹話術をカマした。
「ボウガンで貫かれるの、クセになりそうですぅ!」
「『電弧流転矢』を食らって生きてるとか……不死身か!?」
黄パーカーが目を見開いて驚愕する。
オレは間髪入れず、続けてカクガリクンの声色を作った。
「『電弧流転矢』を…もう一発……心臓にくださいィ!」
「バレバレな腹話術じゃね? 騙されてる黄パーカー、馬鹿すぎ!」
ロジナスが横で肩を震わせて笑いを堪えている。
「まぐれは2度起きん! 今度こそ死ねェ!」
黄パーカーがボウガンを構え直し、叫んだ。
「『電弧流転矢』!」
その瞬間、オレは猛スピードでカクガリクンの体から飛びのいた。
放たれた矢が、カクガリクンの心臓に直撃する。電気が全身を駆け巡った。
「流石に死んだな」
黄パーカーが確信めいた声で呟いた、その時だった。
「ガハッ!」
カクガリクンが盛大に吐血しながら、うっとりとした表情で目を開けた。
「最高すぎて、あの世にイッてしまいましたぁ……」
「な、なにィ!? あの世って……さっき、本当に死んでたのか!?」
黄パーカーが驚愕の声を上げる。
「心臓に電気通ったら、心臓マッサージみてえに蘇生するんじゃねえかって仮説立ててみたんだが」
オレは腕を組み、満足げに頷いた。
「その通りだったみてえだな」
「謀ったな、黒鎧ェッ!!」
黄パーカーが怒りに顔を歪める。
オレはそんな黄パーカーを見ながら、カクガリクンにこっそりと耳打ちした。
「カクガリクン、黄パーカーにお願いしたら、もっとすごいのくれるかもよ?」
「本当ですかぁ!?」
カクガリクンの目の色が変わった瞬間、その体はあっという間に黄パーカーの間合いへと踏み込んでいた。
「速いッ!?」
黄パーカーが驚愕したその刹那、カクガリクンはすさまじい力で黄パーカーを抱きしめていた。
「もっとすごいのくださいッ!」
万力のようなベアハッグが、黄パーカーの全身を締め上げる。
「なんて馬鹿力でハグしやがる……! ほ、骨が……折れる……!」
黄パーカーの全身から、バキバキッと鈍い音が響き渡った。次第に、その体からみるみる力が抜けていく。
だが、グッタリと弱っていく黄パーカーとは正反対に、カクガリクンの拘束はさらに強くなっていった。
「そんな、面倒くさそうな顔しないでくださいッ! くださいよぉッ!」
一方的に話しかけながら、カクガリクンは腕に力を込め続ける。
やがて、黄パーカーの口から血の泡がブクブクと溢れ出したかと思うと、その首が完全に後ろへ折れ曲がった。全身がタコのようにグニャグニャと脱力し、カクガリクンの腕からずるりとすり抜けて地面に崩れ落ちる。
「あー! ふて寝しないでくださいよぉ!」
すでに息絶えている黄パーカーに向かって、カクガリクンが一方的に文句をぶつけていた。もはや会話としては、まったく成立していない。
「……あの変態、ある意味最強じゃね?」
ロジナスが乾いた声で、静かに呟いた。




