第39話 防具
「おい貴様らッ! いい加減にしろ…!!!ナニの皮がカブっている、カブってないで人間の価値は決まらんッ!!」
ミーナミの地を揺るがす勢いでホワイトが、顔にド派手な青筋を立てて怒鳴り散らした。
そんな大真面目にキレ散らかすホワイトを見て、ロジナスが、クスクスと意地の悪い笑みを浮かべながら人差し指を突きつけた。
「えー? 何それ、ホワイトも皮カブってるからそうやって擁護してんの? ウケるんだけど」
「なっ……!? ち、違うわ! だ、大体貴様、私のを見たこともないくせに勝手なことを言うな……!」
ホワイトはフンと鼻の穴を広げて反論した。――が、その瞬間だった。
ホワイトの脳裏に、かつて男の娘カフェ『プリティ・ボム』の店内で繰り広げられた、あの凄惨な「絶望のボロン(サイズ見せ合い)」の記憶が鮮烈に蘇ってしまったらしい。
(……あ。そういえばあの時、アーマー隊長のドングリサイズと一緒に、オレのやつも全員に思いっきり見せてたな……)
事実を思い出した瞬間、ホワイトの黒糖パン肌が、一瞬にして夕焼けのように真っ赤に染まった。
ビキニパンツ一丁で堂々と街を歩く露出狂のくせに、急に両手で顔を覆ってモジモジとし始めたのだ。
「……って、おい。何むさ苦しい思い出に浸って急に照れてんだよ。キモ。マジで引くんだけど」
ロジナスがゴミを見るような冷徹な視線を投げかける。
ここで、ボイスが、パンと手を叩いて割って入った。
「皆さん、そんな下品な話をして盛り上がっているヒマはありませんよ!ヒガーシ遠征に向けて、お二人の防具を作る人間をすでにここに呼んでいます!」
「えっ、はやっ! さすがボイス、相変わらずしごでき(仕事ができる)じゃん!」
ロジナスがパッと目を輝かせてボイスを褒めちぎる。
ボイスはフッと有能そうな笑みを浮かべると、部屋の入り口に向かって声を張り上げた。
「おーい! モブオ、入ってきなさい!」
「へへぇっ……! お呼びでございますか、ボイス副隊長殿ぉ!」
ガラガラと扉が開いたかと思うと、頭をこれでもかと低く下げ、信じられないほどの揉み手でペコペコしながら、一人の冴えない男が入ってきた。名前はモブオ。見た目通りのモブである。
オレは思わず、その圧倒的な低姿勢にツッコミを入れざるを得なかった。
(おいおいなんだコイツ。無双の剣客が、上役に気に入られるための処世術みてえな挨拶だな……!)
ボイスが笑顔のまま、信じられないほどの毒舌でモブオを紹介し始めた。
「このモブオはですね、戦闘訓練では信じられないほど弱すぎて、ぶっちゃけ我が部隊の完全な『給料泥棒』なのですが……裁縫と細工の技術に関しては、ちょっと引くレベルで天才的なのですよ。なので、なんとかクビにならずに給料を貰えています!」
「……ねえボイス、地味に言い方キツくね? アイツ普通に傷ついてる顔してんだけど?」
ロジナスが苦笑いしながらツッコむ。確かにモブオの顔は土気色になっていたが、彼はすぐにプロの顔(※へへぇの顔)に戻り、オレたちに向かって胸を張った。
「へへ、お二方! 新しい防具のイメージを伝えてくれたら、アタシの技術ですぐに作ってみせますぜ!」
「よし、ならオレからだ! とにかく、誰が見てもめちゃくちゃカッコいい鎧を頼む!」
オレは脳内コンピューターを一切稼働させず、IQ2の語彙力でオーダーした。
続いてロジナスが、身を乗り出して注文をつける。
「ロジナスはねー、もうめちゃくちゃ鬼かわいいデザインの服!よろ!」
「……はぁ。2人とも、驚くほど語彙力がなさすぎますね。5歳児ですか?」
横からレンズがメガネのブリッジを押し上げながら、冷酷なトーンでツッコミを入れてくる。
だが、プロの給料泥棒(天才職人)であるモブオは違った。
「わかりましたッ!! そのイメージ、確かに受信いたしましたぜぇっ!」
モブオが叫ぶと同時に、作業台の右側に【頑丈な金属板】を、左側に【最高級の布地】をドンと配置した。
次の瞬間、モブオの姿が消えた――いや、違う。
「な,、何だあの動きは……!? 両手を別々に、目にも留まらない神速のスピードで動かしていやがる……っ!」
ホワイトが驚愕の声をあげる。
モブオは右手のハンマーで金属を叩き、左手の針で布を縫うという、聖徳太子もびっくりの「二刀流超高速職人技」を披露していたのだ。
そして、わずか数秒後。
「へへぇ! できましたよ!」
モブオがパッと手を止めると、そこにはすでに完成した2着の防具が並んでいた。
「「はやっ!!!」」
オレとロジナスの息の合った完璧なハモりツッコミが室内に響き渡る。
よし、まずはオレの鎧だ。どんなカッコいい鎧ができたのかと、オレはワクワクしながらモブオから手渡された金属の防具を身に纏った。
ガチャン。
――沈黙が流れた。
オレの体に装着されたのは、四角い、あまりにも綺麗な立方体の金属の塊だった。前後左右、どこからどう見ても、黒い丸がポツポツと刻まれている。
「……って、おい。これ完全に【サイコロ】じゃねえかァァァッ!!!」
「ぶふっ!?」
「ギャハハハハ!! サイコロじゃん! 何それ、歩く双六!?」
アーマー隊長やロジナスたちが床を叩いて爆笑し始めた。
これのどこが「とにかくカッコいい鎧」なのか?
完全に宴会芸の着ぐるみである。
「テメエ、クソダセえ鎧作ってんじゃねえよッ!!」
「ゴツッ!!」
「痛っつぅぅぅ! スンマセン! すぐ作り直しますからァ!」
オレは一介の剣士の怒りを拳に込め、モブオの頭頂部を容赦なく殴りつけた。モブオが涙目で頭を押さえる。
その間に、ロジナスは「ロジナスの服は大丈夫だよね……」と呟きながら、完成した布の服を持って別室の着替え室へと入っていった。
数分後、ガラリと着替え室の扉が開く。
「……ねえ、これ一体どういうこと?」
現れたロジナスの姿を見て、今度は男全員の思考が完全に停止した。
そこに立っていたのは、超絶ミニスカに、エロすぎる網タイツ、胸元が大きく開いた【白衣のナース服】を完璧に着こなした地雷系男の娘だった。
鬼かわいいのは事実だが、防具としての機能はミリも存在しない。
ロジナスは完全にブチギレた顔で、モブオをキッと睨みつけた。
「これ、戦闘服じゃなくて完全にテメエの性癖(趣味)じゃねえかァァァッ!!」
――その瞬間だった。
ロジナスの体がブレたかと思うと、モブオの懐へと一瞬で踏み込み、そのみぞおちに向けて、鋭く美しい【三日月蹴り】を完璧な軌道で突き刺した。
「ドブシャァッ!!」
「ひぎぃっ!?」
内臓を激しく揺さぶる肉体破壊の音が室内に響き渡る。
凄まじい衝撃を喰らったモブオが、床を何回転もゴロゴロと転がっていった。
しかし、その超絶格闘シーンを見たボイスは、完全に目の輝かせ方がおかしかった。
「おぉぉっ! 素晴らしい! ロジナスさんの蹴り、速すぎてオレの目でも見えませんでしたよ!ロジナスさん、ヤバいくらい強いです!ヒガーシ遠征が楽しみですね!」
拳を握りしめて純粋に大喜びするボイスに、アーマー隊長がすぐさまムチをバチンと鳴らして怒鳴り散らした。
「おいボイス! 見てるとこ違うだろォォッ!! 今完全に身内の給料泥棒が死にかけてるんだぞ!?」
床に倒れ伏したモブオは、口元からダラダラと鮮血を溢れさせていた。ロジナスの蹴りは、常人なら即死レベルである。
だが、モブオは震える手で地面を這い、血を吐きながらも、ギラギラとした狂気の目でロジナスを見上げて言い放った。
「ごふっ……! す、すいません……。でも、でも、めちゃくちゃ似合ってるから……! アタシの職人としてのプライドにかけて……これだけは、絶対に作り直したくありませんっ……!!」
「いや、そこは命惜しさに引き下がれよ!!」
自身の歪んだ性癖を守るためなら、達人の蹴りで内臓を破裂させられても引かない。
この街の治安部隊は、上から下まで全員が、何かしらの狂気を孕んだ変態たちの集まりだった。
オレは迫り来るヒガーシ遠征に向けて、かつてない不安を覚えるのだった…。




