第40話 翌朝
翌朝。
「ヒガーシ遠征ですよ、皆さん! 出発です!」
まだ朝の清々しい空気が残るなか、ボイスがハツラツとした声を張り上げて全員を呼び集めた。
集合した面々のなかに、いつもの黒い地雷系の私服を着たロジナスの姿を見つけ、アーマー隊長が不思議そうに声をかける。
「おいロジナス。お前、結局いつもの服なのか? せっかくモブオに服を頼んだのに、新調しなかったのか?」
「……あいつ、マジで使えない。ロジナスがいろんなデザインを頼んでもさ、モブオのやつが『ナース服の方が絶対にカワイイから作り直したくない』って一点張りでナース服ばっかり推してくるわけ」
ロジナスは思い出すだけでも不愉快といった様子で、ぷくーっと頬を膨らませて不機嫌そうな顔をした。
「だからさ、結局ロジナスが元々着てたこの服を強化する流れで話がついたんだよ」
「なるほどな……。まぁ、アイツは変なところだけは職人として頑固だからな!」
腕を組んでガシガシと頷いたのは、ホワイトだった。 ――が、そのホワイトの股間に目を向けたロジナスが、怪訝そうに眉をひそめた。
「……ねえ、オッサン。パンツの色がいつもの黒から『紫』に変わってるんだけど、それ何か意味あんの?」
「フフン、よくぞ気づいてくれた! これはモブオに作ってもらった最新式の特製ビキニパンツだ! コレを履くと、全身に薄いオーラが纏われることで、防御力が格段に跳ね上がるのだそうだ!」
ビキニパンツのゴムをパチンと鳴らし、胸を張って豪語するホワイト。その言葉を聞いたアーマーが、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべてロジナスを振り返った。
「本当か? なぁロジナス、試しにホワイトに発勁を打ってみてくれんか?」
「あ、いいよー。ねえ、本気で打っていい?」
ロジナスが「ちょっとお散歩行ってくる」くらいの軽いノリで、すっと綺麗な半身の構えを取る。その本気の構えを見たホワイトは、一瞬にして額から滝のような冷や汗を流し、血相を変えて両手を振った。
「おい待てッ! これは防御力が上がるだけで、攻撃が効かなくなるわけではないのだぞ!? 打つなよ? 絶対に打つなよ!?」
「それは打ってください!という前フリですね! 回復薬はたくさん用意してありますから死ななければ回復できますよ」
レンズが笑顔のまま、眼鏡の奥の目をキラリと光らせて冷酷に言い放つ。
「レンズのバカ眼鏡ッ!! 余計なことを言ってロジナスを煽るなッ!!」
「僕もロジナスさんの必殺技がどれほどの威力なのか、ぜひ見てみたいです!」
ボイスまでもが、純粋に目を輝かせてワクワクしながら参戦してきた。周りからの熱烈なリクエストを受け、ロジナスはふっとアイドルさながらの営業スマイルを浮かべた。
「はーい、皆のリクエストに応えて、ロジナス、発勁やりますッ♡」
まるでステージで歌い始めるかのようなノリでウインクを決めると、ロジナスの目が一瞬で武術家のそれに変わった。
「一応、死なない程度には加減してあげるから!」
「ドブシャァッ!!」
ノーモーションから放たれたロジナスの発勁が、ホワイトの腹部へと完璧にめり込んだ。
特製パンツの薄いオーラなど存在しなかったかのように、体内の水分がドプンと波打つ。
「グハッ……ぶふぉぉっぅぅ!!」
ホワイトは盛大に吐血し、そのまま地面に崩れ落ちると、エビのように体を丸めてのたうち回った。
「はい、副作用がない本物の回復薬です!」
レンズが一切の躊躇なく、極太の注射器をのたうち回るホワイトの背中へとブスリと突き刺す。
「……こ、これが発勁……。ロジナスさんが敵じゃなくて、本当に良かったです……」
目の前で繰り広げられた秒速の肉体破壊に、ボイスがガタガタと震えながらドン引きしていた。
「全く同感だな」
ここで、満を持してオレが宿屋の陰から姿を現した。モブオに作り直させた、ボイスと全く同じデザインの、しかし全身を禍々しい漆黒で統一した【黒い鎧】を身に纏って。
オレの姿を見たボイスは、パチパチと瞬きをした後、この世の終わりみたいな迷惑そうな顔でオレを指差した。
「……ちょっと大便さん。何で僕と『色違い』の鎧なんですか? ペアルックみたいで普通に恥ずいんですけど」
「ていうかさ大便くん、何かそれ、すっごい悪い奴が着てそうな色の鎧じゃね?」
ロジナスがナイスなツッコミを入れてくる。ロジナス、実によい着眼点だ。オレは待ってましたとばかりに胸を張り、一介の剣士としての至高オブ至高の美学を力説し始めた。
「フッ、いいことを言ってくれたなロジナス。あえてボイスと同じデザインにしたのはな、色を黒にすることで、周囲の見た人が『もしかして、あの光の騎士と闇の騎士の間には、過去に深い因縁の設定があるんじゃないか……?』って、勝手に想像を膨らませてくれそうだろ!?」
オレの脳内コンピューターが弾き出した、最高にカッコいい「裏設定・匂わせ作戦」である。
だが、オレの熱弁を遮るように、アーマー隊長が冷ややかな視線とともにムチをピシャリと鳴らした。
「……めちゃくちゃ厨二病だな、お前」
「成人病みたいな体型のヤツに言われても、オレの心には響かない」
オレはフンと鼻で笑い、アーマーのツッコミを華麗に跳ね返した。
こうして、ビキニが紫になった露出狂、ガチ武術家男の娘、笑顔のサイコパス、しごできショタ、ブタで甲斐性なしのブタ、そして闇の騎士となったオレ達はヒガーシ遠征に向けて気を引き締めた。




