第38話 組織
「これで6日後に死にたくなるような激痛はありません! ……まあ、死んだ後のことについては私にも分かりませんけどね」
レンズは爽やかな笑顔を浮かべたまま、さらりと言った。
「お前、さっきからオレたちを安心させたいのかビビらせたいのか、どっちなんだッ!」
「本当かウソか分からない話はたいがいにしろッ!」
2人が顔を真っ赤にして抗議する。
そんな二人を見ながら、ボイスがふとレンズに尋ねた。
「ところでレンズさん。回復の薬というのは、レンズさんが作れるんですか?」
「ええ、もちろんですよ」
レンズは眼鏡のブリッジをクイッと押し上げた。
「こんなこともあろうかと思いましてね。後日、激痛がくるような副作用のない回復薬を、昨晩のうちに多めに作っておきました」
「……何だと?」
ホワイトの眉がピクリと動く。
「昨日も五つくらいあったのですが、念のため追加で作っておいたんですよ」
「「じゃあ、何で最初からそっちを使わなかったんだァァァッ!!」」
アーマーとホワイトが再びハモった。
「お前、普通に持ってたのかよ!」
「昨晩のうちに作っていたのなら、最初からそれを渡せ!」
二人から猛抗議を受けたレンズは、悪びれる様子もなく首を傾げた。
「いえ、最初は持ち合わせていなかったという設定です」
「設定って何だァッ!!」
「それに……」
レンズはニコッと笑った。
「私は、人が困っている顔を見るのが好きでして」
「……は?」
その場に妙な沈黙が流れた。
「すいません。私の趣味に付き合わせてしまって」
「貴様ァァァッ!!」
「ふざけるなァァァッ!!」
アーマーとホワイトが一斉にレンズへ襲いかかろうとした。
しかし、その二人の前にボイスがサッと立ちはだかった。
「待ってください!!」
「どけボイス!!」
「レンズさんに文句を言うなら、いくらでも後にしてください!」
ボイスは両手を広げ、真剣な表情で二人を制止した。
「その怒りは、ヒガーシで好き勝手に暴れている悪党たちに向けましょう!」
「…………」
「…………」
アーマーとホワイトが、無言でボイスを見る。
「……それ、全然うまくないわ」
「うむ。まったく怒りの収まりどころになっていないぞ」
二人は即座に切り捨てた。
「ええっ!?」
ボイスがショックを受ける。
その横で、レンズは何事もなかったかのように首を傾げた。
「ところで、そのヒガーシで暴れている悪党たちとは、一体どんな連中なんですか?」
「ああ、それはですね」
ボイスは気を取り直し、真面目な顔で説明を始めた。
「奴らは、裏世界を支配する国家レベルの最強非合法組織……その頭領たちが、それぞれの縄張りで最も強い武闘派の構成員を一人ずつ出し合って結成した、裏世界最強の殺しのプロ集団です」
「……殺しのプロ集団?」
レンズが眼鏡の奥の目を細める。
「その名も――」
ボイスが一拍置いた。
「絶対虚無機構」
「父親を探すハンターの話に出てきそうな設定と名前の奴らだな」
大便がボソッとツッコんだ。
「…………」
ボイスは完全に無視した。
「現在ヒガーシで暴れているのは、その非合法組織がさらに縄張りを広げるためです。ところが、現地で与えられた指令をいいことに、構成員たちが好き勝手に暴れ回っているんですよ」
ボイスの表情が険しくなる。
「そして、その強さですが……」
全員がボイスを見る。
「ホワイトさんが十人いたとしても、組織の構成員一人には勝てません」
「……それはヤバい強さだな」
ホワイトが珍しく真剣な顔で呟いた。
すると、横からロジナスがジト目で口を挟んだ。
「それなら、強くなくない?」
「何でだァッ!?」
ホワイトが即座に反応する。
「いや、だってさ。ホワイト十人分でしょ?」
「十人分だぞ!?」
「うん。だから微妙じゃん」
「微妙じゃねえッ!!」
アーマーまで腕を組みながら頷いた。
「まあ、確かにホワイト十人分とは、微妙な……」
「オマエまで言うなァッ!!」
ホワイトがアーマーを指差して怒鳴る。
「強くないオマエに言われたくないわッ!」
「何だと貴様ァッ!」
「まあまあ」
レンズが二人を軽く制した。
「それで、その絶対虚無機構という連中は何人いるんですか?」
ボイスが答える。
「……たった五人です」
「五人?」
アーマーが一瞬きょとんとした。
そして次の瞬間、鼻で笑った。
「たった五人とか! そんな少人数なら、大人数で囲んでボコれば楽勝だろうが!」
「…………」
ボイスが無言でアーマーを見つめる。
「何だ、その目は?」
「……なるほど」
ボイスは深いため息をついた。
「ギルド酒場の美人店員の件みたいに、ビジュだけで善悪を判断しているだけあって、ホント頭が相当悪いんですね」
「誰が頭悪いだァッ!!」
「まあ、人間の皮をカブって、ち◯この皮もカブってるブタだからな」
大便が平然と追撃を入れた。
「ち◯この皮は余計だろッ!!」
アーマーが即座に怒鳴り返す。
するとロジナスが、ふと首を傾げた。
「人間の皮をカブってる事は否定しないんだ」




