第37話 回復
「ロジナスさんの防具についてですが……」
ボイスは用意された装備品を眺めながら、ロジナスの華奢な身体を見つめた。
「普通の鎧ではなく、軽くて丈夫な服にしましょう。それなら可愛いデザインも作りやすいでしょうし」
「やった!」
ロジナスのジト目が、一瞬でキラキラと輝いた。
「それならデザインはロジナスがする! せっかくなら、めちゃくちゃ可愛い服にしてよ!」
「デザインなら、オレが考えてもいいがな?」
ホワイトが腕を組み、妙に自信ありげな顔で口を挟む。
「いや、アンタが考えたらビキニパンツ一丁になるし」
「オレは考えてビキニパンツではないわッ!!」
ホワイトが顔を真っ赤にして怒鳴った。
「オレみたいなセンスのある男なら――」
「ブタが考えたら牧草や野草で作りそうでヤダ」
アーマーが語り始めた瞬間、ロジナスが食い気味に遮った。
「それは放牧飼育のブタが食べるエサじゃねえかッ!!」
アーマーが即座にツッコミを入れる。
「そもそも、なんでオレが服を作る話でブタ扱いされなきゃならんのだ!」
レンズが眼鏡のブリッジをクイッと押し上げた。
「私から一つ提案するとすれば……ロジナスさんは防御力が低いですから、頑丈なワニ皮のジャケットと、ワニ皮のズボンなどはいかがでしょう?」
「それ、若作りしようとして若作りできてないオッサンが着てる服じゃん!」
ロジナスが即座に拒絶する。
「ダサくてイヤだし」
「そうですか……。残念ですね」
レンズは特に気にした様子もなく肩をすくめた。
「まあ、素材については頑丈なものを使えますから。デザインをロジナスさんが決めていただければ、それに合わせて仕立てますよ」
「マジ!? ありがとう、ボイスくん!」
ロジナスは嬉しそうにボイスへ抱きついた。
「えっ!?」
突然のことにボイスの身体がビクッと跳ねる。
「ロジナスさん、いい匂いがします……」
思わずボイスがそう呟くと、ロジナスは嬉しそうにジト目を細めた。
「でしょ? ロジナス、結構いい匂いするんだよね♡」
「ちょ、ちょっと恥ずかしいです……」
ボイスは顔を赤くしながら、ロジナスから視線を逸らした。
「アーーーーーッ!!」
突然、ホワイトが叫んだ。
「そうだ! 回復する薬を準備する話で、思い出した!」
「どうしたんですか、突然」
ボイスが驚いて尋ねる。
「六日後だ!」
ホワイトの顔から、みるみる血の気が引いていく。
「六日後には、オレとアーマーに死にたくなるような激痛が襲ってくるではないかッ!!」
「……あ」
アーマーも同時に思い出した。
「そういやそうだったな……」
二人の顔が一気に青ざめる。
「死にたくなるような激痛だからといって、実際に死ぬわけではありませんからセーフです!」
レンズは笑顔でサラッと言いのけた。
「アウトだろオォー!何とかならんのか!?」
「頼む! オレたちを助けてくれ!」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
二人はそのままボイスに抱きついた。
「えっ!? 僕ですか!?」
ボイスは左右から身体を挟まれ、困惑した表情を浮かべる。
「何ですか、このクサい匂いは……!」
「仕方ねえだろ! オレだって必死なんだ!」
「オレも死にたくないんだよッ!」
二人が必死にボイスへ縋りつく。
「ロジナスさんからは、あんなにいい匂いがしたのに……!」
ボイスが涙目になりながら、鼻をつまんだ。
「この二人はクサすぎます! 吐きそうです!」
「誰がクサいだッ!!」
「オレたちは生きるために必死なんだぞッ!!」
「生きるなら、まず匂いから必死になんとかしてください!」
ボイスが必死に二人を引き剥がそうとする。
「それに僕は医療の専門家じゃありませんから! そういうことはレンズさんに聞いてください!」
「そうです」
レンズは爽やかな笑顔で眼鏡を押し上げた。
「医療に関しては私の専門分野です」
「だったら何とかしてくれッ!!」
「頼むッ!!」
ホワイトとアーマーが再びレンズへ向かおうとする。
「大丈夫ですよ」
レンズは二人を見て、ニッコリと微笑んだ。
「昨日の夜、こういう事もあろうかと、実は激痛を消す薬を作っておいたんですよ」
「本当かッ!?」
「マジかよッ!?」
ホワイトとアーマーの目が一瞬で輝いた。
「ありがとうございます、レンズ様ぁぁぁッ!!」
「これで六日後も安心だァァァッ!!」
二人は涙を流しながら喜んだ。
しかし、しばらくすると――。
「……待て」
ホワイトが急に真顔になった。
「何です?」
「そんな都合のいい薬を、レンズが何の副作用もなく作るとは思えん」
「確かに……」
アーマーも疑いの目を向ける。
「激痛がなくなる代わりに、別のとんでもねえ副作用があるんじゃねえだろうな?」
「ありませんから、安心してください」
レンズは爽やかな笑顔のまま、二つの小さな薬を差し出した。
「これは純粋に痛みを消す薬です」
「本当だろうな……?」
「信じていいんだな……?」
二人は疑心暗鬼になりながらも、飲み薬を受け取った。
そして――。
「ええい! こうなったら飲むしかねえッ!」
「オレもだッ!」
ゴクッ!
二人は同時に薬を一気に飲み干した。
「やったぁぁぁッ!!」
「これで六日後は安心だァァァッ!!」
抱き合って喜ぶ二人。
そんな二人を、レンズは相変わらず爽やかな笑顔で眺めていた。
「これで六日後に死にたくなるような激痛はありません!」
「よっしゃあああッ!!」
「助かったァァァッ!!」
二人が歓喜の声を上げる。
だが、レンズは眼鏡をクイッと押し上げ、爽やかに続けた。
「ただし――」
レンズが親指を下に向けた。
「死んだ時に魂が地獄へ行くだけです!死んだ後のことだから、副作用ではないです!」
「「エエエエエエエエエエッ!!?」」
宿屋の一室に、ホワイトとアーマーの絶叫が響き渡った。




