第34話 再会
「そうと決まれば、まずはその大便という男を見つけ出さないといけませんね」
ベッドの上のボイス副隊長が、ヒガーシの街の平和を取り戻すための第一歩として、真面目な顔でそう宣言した――まさにその時だった。
バタン、と宿屋の部屋の扉が勢いよく開いた。
「ボイス副隊長ッ!!」
入ってきたのは、ミーナミの治安維持部隊の団員
――モブオだった。
「どうした? モブオ」
ボイスが尋ねる。
すると、ビキニパンツ一丁のホワイトが
「待てッ!!」
と大声を上げて前に躍り出た。
「隊長であるこの私を差し置いて、なぜ真っ先にボイスを呼ぶんだッ!! 組織の上下関係をナメるな!」
ホワイトはそう怒鳴りながら、入ってきたモブオの頭をポカポカと小突いた。
「おいホワイト、そんな小さなところを気にして部下を殴るか? オマエ、話が進むごとにだんだん小物っぽくなってきてるぞ」
アーマーが心底呆れたようにツッコミを入れる。
「つうか、マジでダサ。引くわ」
ロジナスからも冷淡なジト目が突き刺さり、ホワイトは「うるさいッ!!」と顔を真っ赤にして涙目になった。
「す、スンマセン! それより報告が……!」
モブオは頭をさすりながら、困惑顔で本題を切り出した。
「実は、キータのガーディアンズの『アーマー氏の知り合いだ』と名乗り、高級中華料理をたらふくドカ食いした挙げ句、アーマーのツケだからと言って一切金を払わずにバックれようとした不届きな男を、店主と一緒に捕まえまして……」
「オレの知り合いだとッ!? しかもオレのツケで高級中華をたらふく食うとは、一体どこのどいつだ、ふざけた奴め!!」
アーマーが顔に青筋を立てて激怒の咆哮を上げる。
「今から連れてきます!」
モブオが廊下に向かって合図をすると、ドアからズルズルと縄でぐるぐる巻きにされた男が引きずり込まれてきた。
大便だった。
そしてその横には、シルクの中華服に身を包んだ、恰幅の良いナマズ髭を蓄えた中年男性が腕を組んで仁王立ちしていた。
「「「大便ーーーーーッ!!!」」」
全員が声を揃えて叫んだ。
「この人が噂の大便さんですか…。」
ボイス副隊長は、大便の横に立つ凄まじい威圧感を放つナマズ髭の中年(店主)を見つめ、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「……なるほど。あの屈強なギルドをたった1人で壊滅させたというのも、何か分かります。まるで一子相伝の中国武術の達人のようなデタラメなオーラを感じますね」
「いやいや、確かに強そうなのはソッチのナマズ髭のおじさんだけだけどさ! つうか、やっぱり大便くん、ビジュめっちゃ良いな♡」
ロジナスはボイスの勘違いを一瞬でスルーすると、縄で縛られた大便に秒速でピトッと抱きついた。
「わっ、ちょっと待て、良い匂いして可愛いけど!お前男だろ! つうかロジナス、お前らなんでそんなに仲良く一緒にいるんだよ?」
大便が縄のなかで戸惑いの声を上げる。
すると、ホワイトが怒りながら大便に詰め寄った。
「料理中の火の不始末で店を大火事にしてバックれた貴様が、どの口で何をしておるんだッ!!」
(……は? 火の不始末ってことになってんの、これ?)
大便のクズの脳内コンピューターが、パチパチパチパチと超高速音を立ててその事実を認識した。
(――なるほど、ならばその便利な状況に全乗っかりして利用させてもらうか)
大便は秒速で話を合わせることにし、わざとらしく神妙な顔をしてガバッと頭を下げた。
「ああ、すまねえ! 火をつけたままのフライパンをすっかり忘れるくらい、裏庭でニワトリを捕まえるのに必死になっちまってな……。やっとの思いでニワトリを捕まえて厨房に戻ろうとしたら、店がすでにもの凄い火の海になってるのが見えて……。オレ、怖くなってそのまま逃げちまったんだ。本当にスマン!」
(本当はカンカンに熱した油を厨房の床にブチまけて、火の海を作ってから、ニワトリなんか一本の羽すら触ることなく秒速でバックくれたけどな!)
心のなかで最悪の捏造を完了させながら、大便は殊勝な態度で頭を下げ続けた。
「……まあ、そんなことよりさ!」
大便は一瞬で反省のポーズを解くと、横に立つ中華服の男を親指で指差した。
「そのアーマーが金を払うからさ、チャンさん! 安心して伝票を渡しちゃってよ!」
「アンタがそのアーマーさんアルか!!」
ナマズ髭の店主――チャンさんが、待ってましたとばかりにアーマーの前に一歩踏み出した。
「この男! 北京ダックにフカヒレ、極上の高級中華をなんと20人前も綺麗にドカ食いしたネ! それ、これ店の代金アル!!」
チャンさんは怒りに髭を震わせながら、あまりにも分厚い伝票をアーマーの胸元にパシィィィンッと叩きつけた。
アーマーはその伝票に記載された桁外れの数字を見た瞬間、白目を剥いてガタガタと震え出した。
「な……何だこの金額はァッ!! オレの給料3か月分くらいの額じゃねえか!! 結婚指輪でも買いやがったのかというレベルで食いやがって、このクソ男がァッ!!」
アーマーは怒り狂い、縄で縛られた大便の頭を全力で何度も小突いた。
「痛っ! 痛てえよアーマー!」
大便が頭を押さえて叫ぶ。
「オレは絶対に払わんからな!! 自分でなんとかしろッ!!」
アーマーが顔を真っ赤にしてキレ散らかす。
「冷たいこと言うなよ、仲間じゃねえか!」
大便が当然のようにクズの理論を主張した。
「都合のよい時だけ仲間いうなッ!仲間なら名前を勝手に騙って、ツケで20人前の高級中華を大食いするような奴があるかッ!!」
アーマーの正論が炸裂する。
「オマエ、支払いしナイなら、ウチの厨房で10年間タダ働きしてもらうアルヨ!!」
チャンさんがバキバキと指の骨を鳴らしながら、ドスの利いた中華訛りで宣告した。
それを聞いたアーマーは、一瞬で手のひらを返し、大便の肩を優しくポンポンと叩いた。
「よし大便、10年間タダ働き頑張れよ。オレは応援しているぞ。」
「おいおい、オレが厨房で10年も働いたら、料理長になっちまうよオレ!」
大便が縄の中で困り顔で言う。
「10年でうちの最高級中華の料理長になれるわけないアルヨ!! 中華料理の4000年の歴史をナメるなッ!!」
チャンさんから、本日一番重みのある至極真っ当な怒声が室内に響き渡るのだった。




