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第32話 酒場

泡を吹いてアスファルトに沈没したボイス副隊長が、ゆっくりと意識を取り戻した。


気がつくと、自分はどこかの宿屋のベッドの上で、鎧を着たまま寝かされていた。


窓の外からは眩しい朝日が差し込み、のどかに小鳥がさえずっている。……どうやら、あの地獄の夜からもう朝になっていたらしい。


「おお、ボイス! やっと起きたか!」


ベッドの脇から、ビキニ一丁のホワイトが声をかけてきた。


「まったく、フランクフルト(物理)を見ただけで一晩中泡を吹いて倒れるなんて、お前どんだけ根性がないんだよ」


アーマーがフンと鼻を鳴らして呆れる。


「……いえ、根性の問題ではないと思いますが」


レンズが冷酷に眼鏡のブリッジをクイッと押し上げた。


「ボイスくん、目が覚めたんですね! ちなみにボイスくんはどんな攻め技があるんですか? 神経をベリベリ毟るみたいなやつを今すぐオレのケツに希望しますぅぅっ♡」


下半身丸出しのカクガリクンが、ベッドの足元から身を乗り出してヨダレを垂らす。


「あ、ボイスくん起きた! ずっと寝顔見てたけど超可愛かったよ♡」


華奢なロジナスがジト目を輝かせ、だるそうに手を振った。


ボイスはガバッと布団を跳ね除け、頭を押さえながら絶叫した。


「待ってくださいアナタ達!! 全員いっぺんに話しすぎです!! 朝一番にしては情報量が多すぎて脳がバグりそうです!!」


「あはは、怒った顔もマジで可愛いじゃん。ねえボイスくんさ、そんなに可愛いならいっそのことロジナスの後輩として男の娘にならない? 絶対ナンバーツーにしてあげるし♡」


ロジナスがベッドの縁に腰掛け、上目遣いでスカウトしてきた。


「絶対になりませんッ!! 『男は男らしく、硬派に生きる』が僕の絶対のポリシーですから!!」


ボイスが顔を真っ赤にして全力で拒絶する。


「ふん。どこをどう見ても、男らしさのカケラもないただのショタじゃねえか」


アーマーが鼻で笑う。


「……人間らしさのカケラもない、ただのブタな隊長にだけは言われたくないです」


ボイスが冷ややかな目をアーマーに向け、不躾に言い放った。


「何だとコラァッ!! 階級はオレが上だぞ!!」


「やりますか、上の階級のブタさま?」


「まあまあ、2人とも朝から醜い喧嘩はよしてください」


青筋を立てて掴みかかろうとするアーマーを、レンズがやれやれと手でなだめる。


ボイスは深くため息をつき、ようやく呼吸を整えると、ホワイトたちを見つめた。


「……ところで皆さんは、なぜ我がミーナミのトップであるホワイト隊長と知り合ったのですか? 経緯がさっぱり分かりません」


「実は、かくかくじかじかという経緯がありましてね」


レンズがこれまでのギルド酒場の全滅から、おしっこの虹での大移動までの流れを大急ぎで説明した。


「なるほど、そういう経緯でしたか……」


ボイスは納得したように頷いた。だが、ふと何かを思い出したように顎に手を当て、怪訝な顔をした。


「……ですが、最初にアーマーさんとレンズさんが行ったという、キータの街のあのギルド酒場。アレ、元々は女子供を平気で殺すような凶悪犯罪者しか集まらない、最悪の無法地帯の酒場だったんですが……お二人とも気づかなかったんですか?」


「え? いや、受付に可愛いお姉さんが店員として立っていたぞ?」


アーマーが真顔で、とんでもなく呑気な回答を口にした。


「見た目のビジュだけで善悪を判断してるんですか…。女店員もすべて凶悪犯ですよ、呆れて物も言えませんね。」


ボイスが心底ゴミを見るような目を向ける。


「……いえ、オレはアーマーさんに『可愛い子がたくさんいるぞ』と誘われて初めて行ったら、到着した時点ですでに全員死んでいましたから」


レンズが静かに答えた。だが、レンズはその瞬間、ハッとした表情を浮かべて眼鏡の奥の目を鋭く見開いた。


「……待てよ。思い返せば、あの現場にいた大便まさるたよりさん。彼は『オレが来た時には全員死んでた。』とやってないと言ってましたが……。もしかして彼は、あの酒場が凶悪犯の巣窟だと最初からすべて知っていて、正義のために悪党を全滅させたのではないですか……?」


「いやいや、大便は『オレはただ偶然立ち寄っただけのチェリーボーイだ』って必死に言ってたぞ?」


アーマーが不思議そうに首を傾げる。


「あんな1秒で分かるウソをよく本気で信じましたね、アーマーさん…。」


レンズが心底憐れむようなため息を吐いた。


「カフェの戦いに決着がついたら、容疑者として本部に連行しようとしていましたが……。ロジナスさんと同じく、裏で悪事を働いていた悪党どもを殲滅したのだとすれば、この国の法律上、何ひとつ罪には問われませんね。むしろ表彰されるレベルです」


「確かに、この世界は殺人を楽しんでいるようなガチの悪党は、殺しても完全に無罪ですからねえ」


ボイスも腕を組んで、ふむふむと頷いた。しかし、ボイスはそこで急に顔を引きつらせ、驚愕の声を上げた。


「えっ!? 待ってください!! その大便って人は……あの屈強な凶悪テロリストが集まるギルド酒場の人達を、たった1人で全滅させたんですか……!?」


「うん。なんか、もの凄い最悪の異臭で全員気絶させて倒していたぞ」


アーマーとレンズが揃って頷く。


「えー、でもあのイケメン、クワカブトみたいなカブトムシの体臭なんかミリもしなかったじゃん。むしろいい匂いでビジュ良かったし」


ロジナスが不思議そうにジト目を瞬かせる。


「ああ、体臭じゃないんだ。クソ臭いウンコを新聞紙にくるんでたモノを持っていた。」

とアーマーが言うと


「……なんですか、その小さい男の子が嫌がらせでやりそうな最悪の武器は。」


ボイス副隊長は、あまりの小学生レベルの低次元な真実に、今度こそ完全に呆れ果てて言葉を失ったのだった。

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