第31話 真相
燃え盛る男の娘カフェ『プリティ・ボム』の前で、オレたちがそんなくだらない不毛なやり取りを繰り広げていると、いつの間にか周囲にはすさまじい人だかりができていた。
「はあ、繁華街ミーナミでこれだけ派手に火災が起きればさ、野次馬が集まるのは当然か。マジで煙くさいんだけど。」
華奢なロジナスが煙を避けるように手で顔を仰ぎながら、冷めたジト目で周囲を見渡す。
すると、その人だかりを割って、アーマーが着ているような頑丈な鎧を身にまとった数名の屈強な男たちが、バタバタと足音を響かせてこちらへと走ってきた。
「ホワイト隊長ぉぉぉーーーッ!!! ご無事ですかァッ!!」
先頭の男が、繁華街中に響き渡るような大声で叫ぶ。
「ミーナミのガーディアンズ達か! 繁華街とはいえ、もう夜中だぞ! 大声を出すなボイス副隊長ッ!!」
ビキニ一丁で鼻血まみれのホワイトが、部下であるボイスの頭を容赦なくガシッと叩いた。
「スンマセンでしたァァァーーーッ!!!」
叩かれたボイス副隊長は、さっき注意されたばかりだというのに、再び肺活量の限界に挑むような大声で平謝りした。
「貴様は一秒前に私が言ったことを忘れたのかッ!! 脳みその容量が鳩並みか貴様はッ!」
ホワイトの怒声が夜空に響く。
「ハッ! さすがはホワイト隊長ですね!」
ボイスが何故か誇らしげに胸を張る。
「……どういう意味だ?」
不審そうに眉をひそめるホワイトに、ボイスは目を輝かせながら熱弁を振るい始めた。
「またまた〜! とぼけちゃって! ホワイト隊長は、この男の娘カフェが裏で色々と黒い噂のある場所だってことを事前に知っていて、あえて直々に燃やしたんですよね!? まァ、街中で放火するのはいささかやりすぎな部分はありますが! 店を丸ごと燃やされても文句は言えないような、とんでもない悪党の集まりでしたからね、この店は!」
「……え?」
ホワイトは何のことかさっぱり分かっていなかったが、そこはガバガバな倫理観を持つ男だ。秒速で偉そうに胸を張り、手柄を自分のものにした。
「ま、まあな……! 治安維持のトップとして、その黒い噂を嗅ぎつけたからこそ、オレ自らが乗り込んでド派手に暴れてやったというわけだ!」
「嘘つけえええーーーッ!!」
横から、完治したばかりのアーマーが凄まじい勢いでツッコミを入れた。
「オマエさっきロジナスに一方的にボコボコにされて、鼻血まみれになって泣きそうになってただろうがッ! 何が自ら乗り込んでやっただッ!」
「豚ァッ!! 余計なことを言うなッ!!」
ホワイトが顔を真っ赤にしてアーマーに怒鳴る。
「……ボイスさん。その『黒い噂』とやらについて、詳しく聞かせてもらえませんか?」
ここで、レンズが懐の黒い筒からガーディアンズの正式な身分証を厳かに取り出して提示した。
「オレたちもキータの街のガーディアンズですから。この事件の背景を知る権利があります」
「おお、キータのガーディアンズの方でしたか!」
ボイスは敬礼すると、燃える店舗を振り返りながら神妙な面持ちで語り出した。
「実は、この店は表向きはただのコンセプトカフェですが、裏ではキャストの男の娘たちを使って悪質な美人局を働いていたんですよ。カモにした客から金を毟るだけ毟り取り、完全に金が無くなった客には多額の保険金をかけ、事故に見せかけて殺害して保険金を巻き上げる……。そんな、血も涙もない殺人テロ組織の集まりだったんです!」
「……ロジナスさん。あなたは、この事実を知っていたんですか?」
レンズが鋭い目をロジナスへと向けた。ロジナスはジト目のまま、チッと舌打ちをしてそっぽを向いた。
「……そうだよ。ロジナスは最初から全部知ってたし。クワカブトの店で仲良くなった友達がさァ、何人もこの店のキャストに美人局されて、挙句の果てに保険金殺人されて死んだのを知ってさ。だから、あいつと組んで、その保険金殺人を主導してたゴミキャストどもを、カブトムシ臭のバイオテロで全員始末してあげたんだよね」
「そんな理由があったのに、なぜ今までオレたちに嘘を吐いていたんですか!」
レンズの追及に、ロジナスは面倒くさそうに髪をかき上げた。
「は? だってさァ、ロジナスもただの正義の味方ってわけじゃないし。ゴミどもを掃除したあと、自分の息のかかった可愛い後輩男の娘たちを大量に仕入れて、健全な店としてここを丸ごと乗っ取ろうとしてたわけ。だから、アンタらに褒められたもんじゃないよ」
可愛い顔の下に隠された、あまりにも冷徹なエゴと野望。しかし、それを聞いたボイス副隊長は、感動のあまりその場に震え上がっていた。
「なるほど……!! つまり、この美少女がわざわざ男の娘に化けて、悪の組織に潜入して内部から殲滅させたというわけですね……! なんて健気で、勇敢な美少女なんだ……!!」
「いやコイツ、普通に中身は男だぞ?」
アーマーが真顔で、勘違いしているボイスに事実を突きつけた。するとボイスは、冷ややかな目をアーマーに向け、不躾に言い放った。
「……何ですか、この不躾に喋るブタは」
「誰がブタだァッ!! オレはキータのガーディアンズのトップ、アーマー隊長だッ!!」
アーマーが顔に青筋を立てて激怒する。
「これは大変失礼いたしました!! 階級が上の高貴なブタさまでしたか!!」
ボイスは流れるような動作で、アスファルトの上できれいな土下座を披露した。
「人間だッ!! さらっと高貴なブタ扱いしてディスるんじゃねえッ!!」
アーマーが土下座するボイスの頭を全力ではたいた。
「いや、しかしですよアーマー隊長」
ボイスは頭をさすりながら立ち上がり、確信に満ちた目でロジナスを見つめた。
「こんな非の打ち所がない美少女が、男の娘なわけがないでしょう? 目の錯覚ですよ」
「あはは! 美少女って言ってくれてマジ嬉しい! ボイスくん、ちょっと可愛いショタ顔だからさ。じゃあ、ロジナスが本当に男の子だって証拠、今ここで見せてあげるね♡」
ロジナスはジト目を妖しく輝かせると、地雷系のスカートを片手で大胆にたくし上げ、もう片手でレースの黒ショーツを下げた。
その中からボロン……と、あってはならない規格外の物体を解禁した。
そこに現れたのは――コンビニの増量セールキャンペーンの時くらい、無駄に太くてデカい、天を衝くようなフランクフルト並みのアレだった。
「え……ッ? あ、あ……ぶふぉっぅぅううッ!!」
あまりの圧倒的かつ現実的な絶望の破壊力を脳面から直撃されたボイス副隊長は、白目を剥き、口元から大量の泡をブクブクと吹き出しながら、そのままアスファルトの上へとパタリと倒れ込んで沈黙した。




