第3話 野生の勘
ギギギ……と開いた扉から入ってきたのは、ガチャガチャとやかしい金属音を響かせる集団だった。
「おい、ギルドの中で妙な騒ぎが――って、なんだあぁぁ、この死体の山はァ!?」
自らを『ガーディアンズ』と名乗る、この街の治安部隊がやってきた。
要するに異世界版の警察だ。剣や鎧でガチガチに武装した、いかにも強そうな連中である。
(……って、待てよ!? なんでこいつら、ギルドに入ってきたのに普通に生きてるんだ!?)
オレは驚愕した。さっきまで酒を飲んでいたベテラン共が、入店しただけのオレの目の前で一瞬にして泡を吹いて即死したのだ。この最悪な現場の空気を前にして、こいつらは鼻をひくつかせながらも平然と立っていやがる。
オレの疑問を察したのか、先頭に立つ鎧豚がふんぞり返ってドヤ顔を決めた。
「フハハ、驚いたか! オレたちガーディアンズはな、日頃から毒ガスやあらゆる劣悪な環境を生き抜くための狂った『耐臭訓練』を毎日欠かさず受けているのだ! 致死の臭さだろうがオレたちエリートには一切通用せんわ!」
頼んでもいないのに、もの凄い勢いで自分語りをして設定を説明してくれた。どうやらこの現場が全滅した原因は『致死の悪臭』によるものらしい。無駄にハイスペックで汗臭いエリート集団だな。
「おい貴様ッ! ここで一体何が起きた! オレたちはちょうどパトロールの帰り、一杯引っ掛けようと酒場に来ただけなんだぞ! ……というか、なぜ一般人の貴様だけがこの悪臭の中でピンピン生きていやがる!?」
鎧豚隊長が鼻の穴をフガフガさせながらオレに怒鳴り散らす。
厳しい尋問だが、オレは前世からの自分の体質を思い出し、あえて大真面目なトーンで言い返した。
「――オレか? オレは重度の鼻詰まりのせいで嗅覚が完全に死んでるんだ。だから生きてる」
「な、何だと……!? エリートのオレたちが血の滲むような『耐臭訓練』の末に手に入れた抗体を、ただの体質一つで無効化して生存しているというのか……っ!」
鎧豚がガタガタと震え出した。どうやらオレの五感のバグは、エリート部隊のプライドを粉々に打ち砕いてしまったらしい。
それにしても、男。男。男。どこを見ても、汗臭そうなむさ苦しい男しかいない。
異世界の治安部隊といえば、普通は露出度の高いエロい軽装鎧を着た美少女騎士とか、ミニスカの可愛いエルフの魔法使いとかが一人くらい混ざっているもんだろ!?
ファンタジーの義務教育をナメるな。男ばかりのピチピチ鎧集団なんか見せられて、オレのイライラは最高潮に達していた。
しかし、オレはイラつきながらも、脳内にある一介の剣士としての野生の勘が、かつてない最大の警鐘を鳴らしているのを感じていた。
(待てよ……相手はブタ、あるいはブタ的な生物だぞ……?)
ここで恐ろしい事実がオレの脳裏をよぎる。
ブタという生き物は、雑食だ。それも、種類によっては他人の糞尿を喜んで喰らうという悪食の生態を持っている。
つまり――オレが今たまたま持っているこの新聞紙の塊(※さっきケツから出たてホヤホヤ)は、こいつらには「ただの美味しそうなエサ」として認識される可能性がある。
攻撃が、効かないかもしれない。
ただの「おやつ」に成り下がる致命的な相性の悪さ。
「チッ……まさか、これほど早くオレの天敵が現れるとはな」
最強の武器(仮)の弱点を見抜き、冷や汗を流しながら次の戦術を練る。
フッ、このギリギリの極限状態での冷静な状況分析……。どうやらオレは、自覚のないうちに『本物の一介の剣士』へと成長してしまっていたらしい。




