第2話 無敵の理論
全員死んでる。
右を見ても左を見ても、さっきまで酒を飲んでいたベテラン冒険者たちが、床一面に転がってピクリとも動かない。完全に全滅だ。
だが、オレはハッと気がついて胸をなでおろした。
「良かった……。このの中に、オレの最愛の家族や恋人がいなくて、本当に幸いだ」
……まぁ、オレは天涯孤独の孤児だし、年齢=彼女いない歴の悲しきチェリーボーイだから、そもそも死ぬ家族も恋人もこの世界に存在しないんだけどな。
いないなら死なない。無敵の理論である。最初から孤独で本当に良かったと、これほど心から思った日は他にない。
しかし、自分の身の安全を確認したところで、オレの脳内にふと冷静な疑問が浮かび上がった。
「待てよ……。これ、オレ逮捕されるんじゃね?」
一応言っておくが、オレは異世界転生者だ。
トラックに轢かれたか何かでこの世界に来てから、まだ日が浅い。だからこの世界の社会システムをミリも理解していない。
ぶっちゃけ、この世界に『警察』はいるのだろうか?
もし前世の日本みたいな警察組織や、ガチガチの法律があったら一発でアウトだ。罪名はなんだ? 糞尿遺棄致死罪か? ギルド大量殺人(物理)か? どちらにせよ死刑確定の凶悪犯である。
逆にだ。もしこの世界が法律の通用しない弱肉強食のファンタジー世界で、警察なんて組織が存在しなかったらどうなる?
「……逮捕されないから、セーフじゃん!」
そう、誰もオレを裁けない。
証拠(※聖剣)の隠滅だって簡単だ。その辺の草むらに放り投げて水で流せば、ただの自然に還る有機物である。ルパンもびっくりの完全犯罪が成立してしまう。
よし、まずはこの街の治安維持組織がいるかどうかを確かめるのが先決だ。
オレは新聞紙のグリップを握り直し、死屍累々のギルドからそっと足音を忍ばせて脱出しようとした。
その時である。
ギルドの奥にある頑丈な鉄の扉が、ギギギ……と不気味な音を立てて開き始めた。




