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第28話 絶体絶命

カクガリクンの常軌を逸した不滅の変態性に、ロジナスは完全に顔を引きつらせていた。


「チッ……ならさぁ、さっきの意識を完全に断ち切ったやつ、もう一回やるしかないわけ!」


ロジナスは少し本気を出す体勢へと戻り、再び右拳を鋭く引き絞った。

カクガリクンのアゴの先端をかすめるようにして放たれる、神速の速度の右突き。

人体の仕組みを利用し、脳に強烈な回転の振動を与えて意識を強制遮断する右突きが、再びカクガリクンのアゴへと正確無比に炸裂した。


ドンッ……。


「あ、う……」


カクガリクンの白目が剥かれ、その巨体が再び崩れ落ちそうになった、まさにその瞬間だった。


「背中に、かつッッ!!」


背後にスライディングしていたレンズが、倒れかかるカクガリクンの背中へ向けて、容赦のない強烈な膝蹴りをドゴォッ!と叩き込んだ。


「あはぁんッ! 意識がハッキリ戻りましたぁぁぁっ♡」


凄まじい衝撃による外部刺激のゴリ押しで、カクガリクンは遮断されかけた意識を強引に叩き起こされ、ギラついた目を覚醒させた。


「……は? イケオジ眼鏡、これも対策してるとかマジでダルすぎんだけど」


ロジナスはチッと盛大に舌打ちをした。


「もうさぁ、その肉盾じゃなくて本体のイケオジ眼鏡を先に潰すしかないわけ」


ロジナスは標的をレンズへと切り替えると、地雷系スカートを翻し、前蹴りとミドルキックの中間――斜め45度の軌道から、空手の『三日月蹴り』をレンズの脇腹めがけて鋭く放った。


しかし、その一撃がレンズに届く直前、プロレスラー体型の巨大なカクガリクンが自ら滑り込み、身代わりの盾となってその一撃をガシッと肉体で受け止めた。


バキィィィンッ!!!


「うあぁぁぁっ! 横腹への『三日月蹴り』もたまりません女王様ァッ!!」


骨の軋むような衝撃に、カクガリクンはただただ恍惚の絶叫を上げる。


「あー、もう! 弾き返しても弾き返しても突っ込んでくるとか、マジでめんどくさいんだけどッ!!」


どれだけ極上の格闘術を叩き込んでもすべて「ご褒美」に変換されてしまう不条理に、ロジナスはガチでキレ気味の声を上げた。


それを見たレンズは、眼鏡の奥の目を冷酷に光らせ、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。


「フフッ、無駄ですよロジナスさん。カクガリクンがあなたの攻撃をノータイムで受け続けている間に……あなたの体力が、先に尽きてしまうでしょうね」


「……ッ、それが狙いかよ」


ロジナスは激しく上下する自らの肩を睨み、チッと舌打ちをした。


確かに、いくら父親からデタラメな強さを叩き込まれていようとも、ロジナスの肉体はまだ華奢な男の子のものだ。ハイスピードで大技を連発し続けているせいで、流石に体力が持たなくなってきている。


「ロジナスの体力が尽きたらさぁ……。このクソデカ変態に捕まって、詰みじゃん……」


初めて自分の敗北のシナリオが脳裏をよぎり、ロジナスのジト目に焦りの色が混ざる。


「フフッ、自首するなら、今の内ですよ?」


レンズは勝利を確信したように、爽やかな声で投降を勧めた。


「は? 誰が自首なんかするかよッ!」


ロジナスはガチのヤンキーボイスで一蹴すると、あっかんべーと可愛い舌を出してレンズを全力で挑発してみせた。


「なるほど。なら、体力が完全に尽きるまで、カクガリクンと踊って貰いましょうか」


レンズの冷酷なゴーサインとともに、巨大なドMゾンビが再び両手を広げてロジナスへと突撃する。


――しかし、その死闘の結末が訪れるよりも、早く。

ゴォォォォォォッッッ!!!突如として、厨房の奥から、爆発的な音とともに真っ赤なデカい火の手が激しく燃え上がった。


廊下の空気が、一瞬で不気味な熱気へと変貌していく。大便まさるたよりの仕掛けた、完璧な『揚げ物火災(偽装)』が、ついに牙を剥いた瞬間だった。



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