第27話 永久機関
泣き叫んでレンズの足元に縋り付くアーマーと、喉に指を突っ込んで悶絶しているホワイト。
その地獄のような自業自得の光景を見下ろしながら、ロジナスは深くため息をつき、だるそうに髪をかき上げる。
凹むアーマーとホワイトにレンズは説明する。
「安心してください、アーマーさん、ホワイトさん。この秘薬のストックはカバンの中に大量にありますから、何回でもノータイムで全回復できますよ。さあ皆さん、命の心配はありませんから心置きなく戦ってください!」
「戦えるかァッ!!」
アーマーとホワイトが同時にレンズに向かって怒鳴り散らした。
「何回も回復できたところでな、1週間後にくる死んだ方がマシの激痛が待ってるんだぞ!? 未来の激痛に怯えすぎて、もう戦う気力なんてミリも残ってないわ!!」
すっかり萎えきってしまい、子犬のように震え出すエリート2人。
しかし、この最悪の状況を前にして、唯一人だけ、この世の春を迎えたかのように歓喜に打ち震えている男がいた。
プロレスラー体型の巨大な変態――カクガリクンである。
「……素晴らしい。ロジナス女王様に極上の格闘術でボコボコにされて、その直後にクスリを飲んだら、1週間後に死にたくなるほどの激痛が三日三晩も全身を襲うだなんて……。オレへのご褒美がすぎるじゃありませんかァッ!!」
床をゴロゴロと転がりながら、おぞましい笑顔で理解不能な供述を始めるカクガリクン。
「やべー……。コイツにとってだけ、ただの良いことずくめの神システムになってるじゃん……。マジで厄介なんだけど……」
流石のロジナスも、己の格闘術のプライドをドMの狂気で上書きされ、本気で焦りの中声を漏らした。
「フフッ、どうやらカクガリクンが、ロジナスさん完全な天敵みたいですね!」
レンズは軽いノリでカクガリクンを見つめ、さらに恐ろしい情報を付け足した。
「ちなみにこの秘薬、飲めば飲むほど成分が重複して、1週間後にくる激痛の威力が倍々ゲームで跳ね上がっていきますからね」
「ますます戦う気なくしたわボケェッ!!」
アーマーとホワイトが顔を真っ赤にしてキレ散らかした。
「オレたちはガーディアンズのエリートである前に、1人の脆い人間なんだ! 1週間後の自分のために、オレたちはもう絶対に戦わん!!」
堂々と敵の前で職場放棄と戦いへの拒否を宣言する男たち。
「あはあは、ビビって考え変えすぎで草。まぁロジナスは降りかかる火の粉を払うだけだからさぁ、おじさん達が戦わないならどっちでもいいけど」
ロジナスが呆れたようにジト目を向けた。
「ええ、ホワイトさん達が戦わなくても、カクガリクンに盾として頑張ってもらうので全然いいですよ〜」
レンズが相変わらずピクニックにでも行くかのような軽い口調で微笑む。
「ガーディアンズって組織、上から下までいい加減すぎじゃね? 終わってんだろ」
ロジナスが本気でドン引きした、まさにその瞬間だった。
「さあ! ロジナス女王様ァッ!! オレにあの極上の『ドプンと波打つ技』をもう一度くださいぃぃぃッ!!」
カクガリクンが凄まじい地響きを立てながら、ヨダレを撒き散らしてロジナスに向かって猛然と突撃してきた。
「キモいんだけどッ!! そのヤバい頭に一発叩き込んで、少しは正常に戻りなよッ!!」
ロジナスは迎撃の体勢をとると、突撃してきたカクガリクンの額に向けて、カウンターで渾身の『発勁』をブチ込んだ。
ドゴォォォォンッ!!!
「あ、ありがとうございますぅぅぅううッ!!」
カクガリクンは歓喜の絶叫を上げながら、目と口と耳のすべての穴からおびただしい量の血をブシャッと噴き出し、そのまま男の娘カフェの壁まで派手に吹っ飛んで激突した。
しかし、レンズの動きはそれよりも速かった。
「はい、元気になる白い粉を溶かした薬です!」
レンズはカクガリクンが床に倒れ込むよりも先回りしてスライディングし、その口内へノータイムで秘薬を流し込んだ。
「たまらない……ッ! 最高……ッ! 女王様、おかわり、もう一杯おかわりをくださいぃぃぃっ♡」
激痛成分が倍増した状態で、カクガリクンはヨダレをダラダラと垂らしながら、何事もなかったかのように嬉々としてその巨体を復活させた。
「……は? 待って。これ、ロジナスめちゃくちゃピンチじゃね……?」
あれほどおじさん達をザコ扱いして舐めプをかましていた最強のロジナスの顔から、ついに余裕の2文字が完全に消え去った。




