第25話 死闘⑤
ロジナスとアーマーの凄まじい大爆笑の嵐が吹き荒れてから数分。
ようやく二人は呼吸を整え、笑い疲れて痙攣していた腹筋を落ち着かせた。
「あはー、やべー。ガチで笑い死ぬところだった。おじさん達のその頭、今までのどんな攻撃よりもロジナスに効いたわ。マジで草」
ロジナスは目尻に浮かんだ涙を指先で拭いながら、未だにクスクスと肩を揺らす。
「ふぅ……。おいホワイト、もしオレが笑いすぎて職務中に死んだ場合、ガーディアンズの労災はちゃんと下りるのだろうな?」
アーマーが真面目な顔で、まだゼェゼェと息を荒くしながら尋ねる。
「知るかァッ!! 貴様ら全員、いい加減にしろッ!!」
ホワイトは頭頂部にクッキリと刻まれたチ◯ポ型のムチの跡を血管まみれにしながら、未だに収まらない怒りを爆発させて怒鳴り散らした。
エリートの尊厳は完全に消え去っていた。
「あーあ、面白いアンタらと戦うの、なんかもうガチで気が乗らなくなってきたんだけど。……ねえ、まだ戦う? もう良くね?」
ロジナスはジト目をホワイトたちに向け、完全にトーンダウンした声を出す。
しかし、どれだけ恥辱を味わおうとも、二人は国家権力の犬たるガーディアンズだった。
「……そうはいかん。オレたちはガーディアンズだ。異臭テロの首謀者を前に、退くわけにはいかないのだ!」
アーマーとホワイトが同時に身を低くし、再びシリアスな戦闘態勢へと移行して身構える。
「はぁ、仕方ないな。じゃあ、続きね」
ロジナスが冷たく呟いた、その瞬間だった。
シュッ、と静かに空気が裂ける音がしたかと思うと、ロジナスは目にも留まらぬ速さで間合いを詰め、アーマーの懐へと肉薄していた。
ロジナスは一切の容赦なく右腕を突き上げ、アーマーの右目に向けて、鋭い肘を上から強烈に振り下ろした。
ギャリィィィッ!!!
「ぐわぁぁぁッ!?」
肉が削れる凄惨な音が響き、アーマーの右まぶたから鮮血のしぶきが派手に舞い散った。
流れ落ちる大量の血によって、アーマーの右側の視界が一瞬で完全に封じられる。
「貴様ぁぁぁッ!!」
ホワイトが怒りの絶叫とともに、ロジナスを引き剥がすべく鋭い右前蹴りを放った。
しかし、ロジナスは驚異的な体幹と反射速度でその蹴り足を完全に見切り――あろうことか、ホワイトが蹴り上げた右足の甲の上に、フワリと軽やかに飛び乗ってみせたのだ。
「な、何という運動神経だ……ッ!?」
片足立ちのままロジナスをその身に宿す形になったホワイトが、驚愕に目を見開く。
だが、ロジナスは追撃の手を緩めない。
ホワイトの右足を完全な土台として利用し、跳躍。そのまま空中から、ホワイトの顔面を目がけて強烈な膝蹴りを突き出した。
ドゴォッ!!!
「ごふぉっぅぅううッ!?」
ホワイトの鼻に膝がめり込み、まるで赤い大輪の花が咲いたかのように、おびただしい血が前方へと噴き出した。たまらず両手で鼻を完全に押さえて悶絶するホワイト。
ロジナスは着地すると同時に、右目を血で染めて死角となったアーマーの右側へと回り込んだ。
そして、アーマーの無防備な右腹部に向けて、静かに手のひらを添える。
「殺しちゃったらゴメンねぇ、豚さん♡」
ロジナスが可愛い声でそう囁いた刹那、手を添えた部分の頑丈な鋼鉄の鎧ごと、アーマーの右腹部がドプンと不気味に波打った。
――『発勁』における掌打。
それは拳による打撃ではない。
手のひらや指の付け根(掌根)を相手の体に密着させ、全身のバネや床からの反発力を瞬発的に、かつ破壊の波として相手の体内に直接浸透させる中国武術の極みの打撃。
「ア……アーマー……ッ!!」
鼻を押さえ、血塗れの顔を上げたホワイトが悲痛な叫びを上げる。
「が、はっ…………ぅぅううッ!!」
次の瞬間、アーマーの口から噴水のようにおびただしい量の吐血が撒き散らされた。
体内組織を完全に破壊された豚鎧の巨体は、自らが吐き出した真っ赤な血の海のなかへと、そのまま糸の切れた人形のように沈み、ピクリとも動かなくなった。




