第19話 戦慄の攻防
ロジナスの冷徹な正論ツッコミによって、オレの完璧な捏造工作(※大嘘)が一瞬で拒絶されたその時、ビキニパンツ一丁のライ麦パン男――ホワイトが、床に転がるクワカブトの元へ歩み寄った。
ホワイトは屈み込むと、ピクリとも動かないクワカブトの首筋に手を当てて生存確認を始める。
「……おい大便、勝手にアーマーを草葉の陰に送るな。そこのブタ(アーマー)はただ気絶しているだけだ。それより、この男を本国に連行して、正式な証言を取らなければ法で裁けないからな」
見ると、クワカブトは
「ヒュー……ヒュー……」
と、この世のどんな茄子よりも紫色に変色した顔で、かろうじて哀れな呼吸を繰り返していた。
「良かった、ギリギリ生きているな」
ホワイトが安堵の息を漏らした、その刹那だった。
「チッ、生きてるのかよ。じゃあ、今すぐここでトドメ刺すね♡」
ロジナスが可愛い声を出しながら、のたうち回るクワカブトの喉元へ、再び殺意の塊のようなトーキックを容赦なくブチ込もうとした。
「させるかッ!!」
ホワイトが鋭く叫び、クワカブトの腹筋に向けて、凄まじい速度の過剰防衛キックを叩き込んだ。
その衝撃でクワカブトの巨体がロジナスのつま先から滑り込み、難を逃れる。
「あはあは、おじさん何やってるの? いや、それ普通にトドメ刺してない? ウケる」
ロジナスがそれを見て、お腹を抱えてケラケラと笑う。クワカブトの体は男の娘カフェの頑丈な壁まで一直線に吹き飛び、ドゴォッ!と派手な音を立てて激突した。
するとどうだ。クワカブトは「ゲホゲホッ! ゴハッ!」と激しく咳き込んだ後、虚ろな目のまま虚空を見つめて呟いた。
「……お、おばあちゃん? どこにいくのでござるか……? 川の向こうは綺麗でござるなぁ……」
完全に三途の川の向こう岸で、先祖とのスピリチュアルな対話を果たしてきたらしい。
「フッ、心配ない」
ホワイトは静かに脚を下ろすと、大真面目な顔で胸を張った。
「私は今、蹴りの衝撃でクワカブトの横隔膜を刺激し、呼吸をしやすくする隠されたツボを正確に捉えた。だからコイツは一命を取り留めたのだ」
壁に激突した衝撃で、確実に寿命が数年は縮んでいる気がするが、国家権力の犬が言うならそういうことにしておこう。
「ふーん。じゃあさ、おじさんちょっと邪魔なんだけど」
ロジナスがジト目のまま一歩踏み込んだ。
次の瞬間、ロジナスは目にも留まらぬ速さで右手を鋭く突き出した。
中指の先端をピンと尖らせ、ホワイトの眼球を最短距離で貫こうと放たれたその一撃は――ジークンドーにおける最速の目突き、『ビルジー』だった。
ヒュンッ!と空気を切り裂く凶悪な閃光。
しかし、ホワイトは超至近距離からの目突きを完全に受けるのではなく、自らの腕を電光石火の速度で割り込ませ、武術的な防御によってその軌道を強引に弾き落としてみせた。
バシィッ!と肉と肉がぶつかる鋭い破裂音を店内に響く。
「……ほう」
ホワイトの目が、ライ麦パンのような黒さを一層鋭く光らせる。
「ビルジーを使うとは中々の使い手だな。おいロジナス、貴様、かなりの武術の遣い手だな?」
「へえ、今の目突きを完璧に対処するなんて、おじさん結構強いじゃん」
ロジナスは髪を耳にかけながら、フッと暗い影を落とした笑みを浮かべた。
「ロジナスね、物心ついた時からさぁ、ガチガチの武術家である父親に、やりたくもない武術を朝から晩まで毎日血が出るまで叩き込まれて育ったんだよね。本当に最悪な人生じゃない?」
地雷系男の娘の口から語られる、無駄にヘビーでシリアスすぎる過去。
オレはロジナスの可愛らしい見た目にそぐわない、
デタラメな強さにビビって、新たな聖剣が生まれそうになるのを堪えた。




