第17話 捏造の連鎖
白目を剥いて綺麗なスライディング土下座の姿勢で気絶したアーマー隊長を見下ろし、オレはフッと冷たい笑みを浮かべた。
男としてのプライドバトルには敗北したが、一介の剣士たるもの、この程度の精神的ダメージで折れるほどタマはヤワじゃない。
オレは自らのブツを静かに収納すると、ロジナスに向かって堂々と言い放った。
「勘違いするなよ、ロジナス。男の真の価値ってのは、そんなナニのデカさなんかで決まる訳じゃない。……器のデカさで決まるのさ」
完璧なイケメン風のフォロー。
我ながら喉が鳴るような名言だ。
だが、地雷系男の娘のロジナスは、フンと鼻で笑って一瞬で切り捨ててきやがった。
「だっさ。それ、中身の無いザコ男が言う定番の常套句じゃん。ウケる。初めてクワカブトに会った時もさ、ナニ見せたら全く同じこと言ってたよ?」
「……あ?」
オレのなかのちっぽけな倫理観がピキッと音を立ててひび割れた。
「おいロジナス、今すぐその言葉を取り消せ。こんな、見るからに中年で、働きもせずに親の財布から抜いた金で男の娘カフェに通いつめてるような白豚オタクと、このオレを同じカテゴリーにするんじゃねえッ!!」
オレがブチギレてクワカブトを指差すと、ハイパー燃え盛っていたクワカブトが、のたうち回りながら驚愕の表情を浮かべた。
「な、何で初めて会ったのに、拙者が無職で親の財布から金を抜いてるってことが分かるのでござるかァッ!?」
「え、マジで当たってんの?」
オレが素でドン引きしていると、横からレンズが冷酷にメガネのブリッジを押し上げた。
「まあ、見たまんまですね。驚くほどのテンプレ無職オタクです」
「ていうか、大便くんに失礼だよ?」
ロジナスが急にトーンを変えて、オレの方を上目遣いでじっと見つめてきた。
「ロジナス、大便くんのことはクワカブトとは全然違うと思ってるよ? だって大便くん、今時のビジュで凄く良いもん。めっちゃロジナスのタイプだし♡」
「……は? お、男の娘にそんなこと言われても、ミリも嬉しくねえわッ!!」
オレはフンとそっぽを向いて怒鳴り散らした。怒鳴り散らした、のだが――。
「おい大便.口では否定してるが、顔がめちゃくちゃニヤケてて気持ち悪いぞ」
ビキニパンツ一丁のホワイトから、容赦のないツッコミが入る。鏡を見るまでもない。オレの勝利の脳内コンピューターは、可愛い(男の)子からの告白に完全にバグを引き起こし、しまりのないニヤケ顔を形成してしまっていた。チェリーボーイの悲しき哀愁である。
「な、何でござると……!? ロジナスたん、拙者という指名客がいながら、そんなぽっと出のわけわからん男がタイプだなんて嘘だと言ってくだされーーーッ!!」
オレのニヤケ顔に、凄まじい精神的ショックを受けたクワカブトが炎のなかで絶叫した。
「拙者は! ロジナスたんに『1ヶ月くらいお風呂に入らないで店に来てくれたら、最高に刺激的で好きになっちゃうかも♡』って言われたから、血のにじむような不潔努力を重ねて店に来たのに! そうしてロジナスたんが嫌がっていた他の男の娘キャストどもを、拙者の聖なるカブトムシ臭で全員始末してあげたのにぃぃぃッ!!」
「ぶふぉっぅぅううッ!?」
静まり返った店内に、クワカブトのまさかの大白状が響き渡った。
カブトムシ臭バイオテロの真の黒幕。
クワカブトにその毒ガスを溜め込ませるよう、裏で悪魔の空気を入れていたのは、目の前の可愛い地雷系男の娘ロジナスだったのだ。
「あーあ、クワカブトのやつ、余計なこと言ってんじゃねえよ」
ロジナスは一瞬で可愛い声を捨てると、
ガチのドス黒いヤンキーボイスで吐き捨て、床に転がるクワカブトの喉元へ容赦のない鋭いトーキックを
ドゴォッ!と叩き込んだ。




