第15話 偽りの幕引き、深淵の果てに響く声
燃え盛るチェックシャツを着たクワカブトが
「熱いでござるぅぅぅ!」
と転げ回り、
国家権力が「やれやれー!」
とムチとロウソクを乱舞させる地獄絵図。
オレはその完全犯罪(4回目)のビッグウェーブを目の前にして、ふと脳裏に浮かんだ、一介 of 一介の剣士としての素朴な疑問を口にすることにした。
「そういやさ、鎧豚隊長と浪人生メガネ。お前らの名前ってまだ聞いてなかったわ。なんて言うんだ?」
ピキッ、と男の娘カフェの空気が凍りついた。
バシィッとムチを振り上げていた鎧豚隊長と、ドロドロのロウソクを構えていた浪人生メガネの手がピタリと止まる。
二人は揃ってオレの方を向き、顔に猛烈な青筋を立ててハモりやがった。
「「このタイミングで聞くのおかしいだろォォォーーーッ!!」」
ごもっともなツッコミだった。
今まさにバイオテロの真犯人(※大嘘)を現行犯でボコボコにしている最中だ。
自己紹介のタイミングとしては世界一間違っている。
だが、鎧豚隊長はフンと鼻の穴をフガフガさせながら、無駄に胸を張って名乗った。
「いいだろう、教えてやる! 私の名前はアーマーだ!」
続いて、浪人生メガネが冷酷な目でメガネのブリッジをクイッと押し上げる。
「……僕の名前はレンズです」
アーマーと、レンズ。
(いやいや、結構そのまんままな!!)
オレの心の中のツッコミが炸裂した。
鎧だからアーマー、メガネだからレンズって、親のネーミングセンスが絶望的に貧困すぎるだろ。
「つうかお前ら、1話から今までの長い会話のなかで、一回も互いの名前を出してないのも普通におかしいだろ! どんなビジネスライクな組織だよガーディアンズ!」
オレの正論の前に、アーマー隊長とレンズは
「それは……まあ……」と言葉を詰まらせた。
ビキニパンツ一丁のホワイト(※黒糖パン)すら、気まずそうに目を逸らしている。
そこへ、店の床に転がっていたプロレスラー体型の巨大な影が、モゾモゾと這い寄ってきた。
蜂に刺されたみたいに顔をパンパンに腫らしたカクガリクンが、下半身丸出しのまま、クワカブトを羨ましそうに見つめてヨダレを垂らしている。
「いいなぁ……クワカブトさんばっかりアーマー隊長のムチとレンズさんの熱いロウソクを独り占めするなんてズルいですぅ……。オレにも、オレの生ケツにももっと激しいお仕置きをくださいぃっ♡」
(入ってくるな変態ッ!!)
オレが心の中で絶叫する中、レンズが燃えるロウソクをクワカブトに向け直しながら、不審そうな目でオレを睨んできた。
「……しかし大便くん。なぜ君は、この世紀の大逮捕劇の真っ最中に、わざわざ僕たちの名前なんて聞いたんですか?」
レンズの鋭い指摘。だが、オレはフッ……と冷たいイケメン風の笑みを浮かべ、あえて哀愁を帯びたトーンで遠い目をしてみせた。
「――なぜ、このタイミングで名前を聞いたかって?」
オレは背中のカクガリクンの筒(アヴァンギャルドな鞘)をポンポンと叩きながら、勝利の脳内コンピューターをパチパチと弾ききって言った。
「この犯人が口を割れば、ミーナミの異臭事件も、最初のギルド全滅事件も、すべて解決してこの物語(オレの冤罪隠蔽工作)は終わるからさ。最後くらい、戦友の名前を知っておきたくてな……」
嘘である。




