第11話 因果の終止符、あるいは偽りの凱旋(がいせん)
パチン、と心地よい音を立ててカクガリクンの卒業証書の筒(消臭機能付き)の蓋が閉まった。
あれほどギルド丸ごと全滅させた最悪の異臭が、嘘のように完全に消え去る。
オレは世界で最もアヴァンギャルドな『鞘』を背中に背負い直すと、ビキニパンツ一丁の黒糖パン男こと、ミーナミのガーディアン・ホワイトに向き直った。
「おい、ホワイト。さっき浪人生メガネから聞いたんだが、南の都市ミーナミで最近ひどい異臭騒ぎがあって、死者まで出たってのは本当なのか?」
オレの質問に、ホワイトはビキニパンツのゴムをパチンと鳴らしながら、大真面目な顔で頷いた。
「ああ、事実だ。ミーナミの街を突如襲った謎の悪臭により、すでに何人もの尊い犠牲者が出ている。我々ミーナミの治安部隊も、総力を挙げてその『異臭魔』を追っている最中だ」
「だったら話は早い!」
オレはガタガタと震えるカクガリクンの肩に手を置きながら、熱弁を振るい始めた。
「いいか、よく聞けホワイト。オレはただ、この全滅したギルドに偶然立ち寄っただけの無辜の市民だ。それなのに、そこにいる鎧豚隊長や浪人生メガネは、オレをギルド大量殺人の現行犯テロリストだと決めつけて、冤罪に掛けようとしてるんだよ! 酷いと思わないか!?」
どの口が言うんだという話だが、自分のケツから出た不祥事を完全に棚に上げ、被害者面を決め込む。
一介の剣士たるもの、このくらいの面の皮の厚さがなければ異世界は生き抜けない。
「ホワイト、そのミーナミの異臭騒ぎが始まったのは、具体的にいつ頃の話だ?」
「……約1週間ほど前だな」ホワイトの答えを聞いた瞬間、オレの脳内コンピューターがパチパチと音を立てて勝利の計算を弾き出した。
「ビンゴだ……! 1週間前なら、日数的にミーナミでバイオテロを起こした後、このギルド酒場に移動して再び犯行に及ぶことは物理的に十分可能! つまり、ミーナミの異臭魔と、このギルドを壊滅させた真犯人は……完全に同一人物だ!!」
オレはビシッと誰もいない虚空を指差した。
完璧だ。
これでこのギルドのベテラン冒険者どもを全滅させた罪は、全て見知らぬ『異臭魔』のせいにできる。
ルパンもびっくりの完全犯罪(2回目)が今ここに成立した。しかし、オレの完璧な論理展開(※大嘘)に対し、ホワイトは冷酷な眼光を向けてきた。
「……なるほど。一理あるな」
「だろ!?」
「だが大便。お前がその真犯人である可能性も、今のところ五分五分だ」
「なんでだよ!?」
「シンプルにお前が一番臭いからだ。容疑者の一人として、お前をミーナミの現場へ連行する」
チッ、やっぱりビキニパンツ一丁の男にまともな話は通じないらしい。
「分かったよ。で、その異臭魔とやらが最初に出没した、ミーナミの具体的な現場はどこなんだ? ギルドか? それとも王宮か?」
オレが尋ねると、ホワイトはフッと切ない表情を浮かべ、遠い目をして呟いた。
「――ミーナミにある、地域密着型の『男の娘カフェ・プリティ・ボム』だ」
「……は?」
一瞬、耳を疑った。男の娘カフェ。
露出度の高い美少女騎士でもなく、ミニスカのエルフでもなく、よりによって「男の娘」だと……?
ファンタジーの義務教育が、
音を立てて崩壊していくのを感じた。
どこまでオレをむさ苦しい男(?)の世界に引きずり込めば気が済むんだこの世界は。
「よし、お前たち! カクガリクンが架けたこのおしっこの虹の橋を使って、今すぐミーナミの男の娘カフェへ突入するぞ! 遅れるな!」
鎧豚隊長がムチをバチンと鳴らして号令をかける。
気絶から覚醒したカクガリクンが「あふぅん!」と奇声を上げ、再び下半身丸出しで虹のハイウェイを滑り始めた。
オレは背中の『ウンコ入りの卒業証書の筒』を強く握り締め、カクガリクンが放出した液体の輝き(汚い虹)に飛び乗った。
目指すは南の都市ミーナミ、そして魅惑?の男の娘カフェ。オレの冤罪を晴らすための(※大嘘)新たな冒険が、いま幕を開ける――。




