第10話 託されし鞘(さや)
「……おい、貴様」
ビキニパンツ一丁の黒糖パン男、ミーナミのガーディアンであるホワイトが、急に青筋を立ててオレを睨みつけてきた。
「なんだよ、ホワイト。オレはただの不審な物的証拠を拾っただけの、無辜の市民だぞ」
「そんなことはどうでもいい。それより……貴様がさっきから握り締めているその『新聞紙に包まれた物体』、シンプルに臭すぎる。今すぐどうにかしろ」
「え、お前ら耐臭訓練受けてるエリート集団じゃねえの!?」
オレのツッコミに、ホワイトはフンと鼻を鳴らした。
「訓練で耐えられるのにも限度がある。貴様のそれが放つ臭気レベルは、生物の限界を遥かに超越している。これ以上その生剥き出しのバイオテロ兵器を放置するなら、公務執行妨害で貴様もカクガリクンのように骨折させるぞ」
理不尽な脅迫である。さすが過剰防衛の男、目がガチだ。初対面で名前も知らないオレに対して、なんて偉そうな態度をしやがるんだ。
すると、横から浪人生メガネが「あ、それなら良いものがありますよ」と口を開いた。
「オレたちガーディアンズの訓練学校を卒業した際にもらえる『卒業証書兼身分証を入れる黒い筒』があるじゃないですか。あの筒、無駄に魔法の消臭効果がついてるんですよ」
「おお、そういえばそんな便利アイテムもあったな!」
鎧豚隊長が手を叩く。なるほど、ラノベでお馴染みの便利なマジックアイテムというやつか。
「よし、ならお前たちの誰かの筒に、この最重要の物的証拠を一時的に収納させてくれ。捜査のための『鞘』ってやつだな!」
オレが提案した瞬間、その場の空気がピキッと凍りついた。
「断る。私の大切な思い出が詰まった卒業証書の筒を、そんなただの汚物で汚されてたまるか」(ホワイト)
「オレのも絶対に嫌だ。血のにじむような訓練を乗り越えた一生の宝物だぞ」(鎧豚)
`「僕の筒にそんな物を入れたら、末代まで呪われそうなので死んでも拒否します」(浪人生メガネ)`
さっきまでエリート面していた連中が、一斉に手のひらを返して断固拒否しやがった。
全員、自分の所有物だけは汚したくないという強烈なエゴの塊である。特に鎧豚隊長、硬派な口調のまま全力で拒絶するな。
そうなると、残された選択肢(消去法)は一つしかなかった。
オレたちの視線が、床の上で顔をパンパンに腫らし、左腕を折られて「あふぅ、あふぅ」と幸せそうに気絶しているカクガリクンへと集まる。
「……よし、カクガリクンのを使おう」
隊長の一声で、浪人生メガネが気絶したカクガリクンのカバンから厳かに『黒い筒』を抜き取った。
オレは新聞紙のグリップを握り直し、カクガリクンの卒業証書(※中身入り)の筒の中へと、最重要物的証拠を容泄なくブチ込んだ。
パチン、と心地よい音を立てて蓋が閉まる。
――その瞬間、あれほどギルド丸ごと全滅させた最悪の異臭が、嘘のように完全に消え去った。
効果は抜群だ。カクガリクンの青春の思い出と引き換えに、物的証拠は、世界で最もアヴァンギャルドな『鞘』へと大切に保管されたのだった。




