第19話 もう一度、お台場へ
満月まで、十五日。
ホワイトボードの数字は、少しずつ小さくなっていく。
十七日。
十六日。
十五日。
数字を書き換えるたびに、佐藤健一は、自分が何かのレースに出ているような気がした。
だが、これはトライアスロンではない。
距離も決まっていない。
コースもない。
エイドもない。
フィニッシュラインも見えない。
ただ、月だけが満ちていく。
ルナは、ホワイトボードの前に立っていた。
青いマグカップを両手に持ち、じっと数字を見ている。
最近、彼女は朝に必ずこの数字を見るようになった。
怖がっているのに、目を逸らさない。
それがルナらしいと、健一は思うようになっていた。
「十五日」
ルナが言った。
「はい」
「少なくなりました」
「そうですね」
「でも、昨日より怖くありません」
健一は少し驚いた。
「そうですか」
「はい。海へ帰りませんでした」
「帰ろうとはしました」
「はい。でも、帰ってきました」
ルナはホワイトボードの下の方を見る。
【勝手に海へ帰らない】
【探さないでと書いても、探す】
【好きは検討中にしない】
陽子が最後の一行を赤で囲んだせいで、そこだけ妙に強い。
健一としては、見るたびに少し落ち着かない。
ルナは、その文字を見て小さく笑った。
「健一」
「はい」
「好きは、まだありますか」
朝から直球だった。
健一は、味噌汁の火を止めながら動きを止めた。
「あります」
言った。
まだ、少し声が硬い。
でも、言えた。
ルナは振り返り、明るく笑った。
「では、今日は大丈夫です」
「今日だけですか」
「毎日、聞きます」
「毎日」
「満月まで」
「……分かりました」
健一は観念した。
検討中はもう使えない。
逃げ道は陽子に封鎖されている。
そして、ルナは一度聞くと忘れない。
人魚の記憶力は、こういう時に容赦がない。
*
朝食のあと、健一は一通のメールを開いた。
大会事務局から届いたものだった。
【お台場トライアスロン大会 再エントリー確認のお知らせ】
健一は画面を見つめた。
数週間前、彼は次の大会への出場登録を済ませていた。
あの時は、前回溺れたことへのリベンジのつもりだった。
お台場の海でリタイアした。
あれは、健一にとって競技者としての傷だった。
だから、もう一度あのコースを泳ぐ。
完走する。
数字で上書きする。
そのつもりだった。
だが今は、意味が変わっている。
お台場は、ルナに助けられた場所だ。
ルナが海から現れ、海へ戻ろうとした場所だ。
健一が初めて彼女を失いたくないと認めた場所でもある。
もう、ただのリベンジではない。
ルナが隣へ来た。
「お台場ですか」
「はい」
「健一が、沈んだ場所」
「沈んだという表現は正確ですが、少し刺さります」
「私が、健一を見つけた場所」
「はい」
ルナは画面を見つめた。
「また、行きますか」
健一はすぐに答えなかった。
出場するべきか。
満月まで十五日。
契約はまだ終わっていない。
ルナの歌も、完成していない。
彼女の不安はまだある。
水への恐怖も消えていない。
この状況で大会に出るのは、合理的ではない。
だが、逃げるのも違った。
お台場は、二人の始まりの場所だ。
あの海を避けたまま満月を迎えることは、たぶんできない。
健一にとっても、ルナにとっても。
「出ます」
健一は言った。
ルナが顔を上げる。
「本当に?」
「はい」
「怖くありませんか」
「怖いです」
「健一も?」
「はい。あそこで溺れていますから」
ルナは、少しだけ目を伏せた。
「私も、少し怖いです」
「無理に来なくていいです」
健一が言うと、ルナはすぐに首を横に振った。
「行きます」
「でも」
「健一が、もう一度お台場へ行くなら、私も行きます」
声は静かだったが、迷いはなかった。
「私は、健一が沈むところだけを覚えていたくありません」
健一は息をのんだ。
「健一が、前に進むところも見たいです」
ルナは胸に手を当てる。
「それを歌に入れたいです」
歌。
健一は、少しだけ分かった。
お台場の大会は、ルナの歌にも必要なのだ。
あの日、健一は沈み、ルナが助けた。
だが、そこで物語を止めてはいけない。
もう一度、お台場へ行く。
今度は、沈むためではなく、進むために。
「分かりました」
健一はうなずいた。
「ただし、安全対策を徹底します」
「はい」
「陽子さんにも来てもらいます」
「はい」
「山下さんにも、可能なら協力を」
「山下も?」
「人手は多い方がいいです」
「ナイス山下」
「今はそれでいいです」
健一はスマホを手に取った。
まず陽子に連絡した。
〈お台場の大会に出ます〉
すぐに既読がついた。
返事も速かった。
〈やっぱり出るんだ〉
少しして、次のメッセージ。
〈話したい。今日、練習場来られる?〉
健一はルナを見た。
「陽子さんが、話したいそうです」
「行きます」
「今日の天気は」
「雨雲レーダー」
「見ます」
二人でスマホを覗き込む。
晴れ。
降水確率は十パーセント。
健一はもう、その数字を信用しきってはいない。
だが、行くことにした。
*
川沿いの練習場に着くと、陽子はすでに待っていた。
腕を組み、ランニングウェア姿で、いつもより少し真面目な顔をしている。
山下はいない。
今日は呼ばれていないらしい。
「おはよう」
「おはようございます」
「おはよう、陽子」
ルナが言うと、陽子は少し表情をゆるめた。
「ルナさん、昨日は眠れた?」
「少し」
「少し?」
「健一に、好きはまだありますか、と朝聞きました」
陽子が健一を見た。
「毎朝確認制になったの?」
「満月までらしいです」
「いいじゃん。逃げ道なし」
「瀬戸さんがそういう文化を作ったんです」
「必要でしょ」
陽子は軽く返した。
だが、すぐに表情を引き締める。
「大会、本当に出るの?」
「出ます」
「お台場だよ」
「はい」
「前に溺れた場所で、ルナさんが海に帰ろうとした場所」
「分かっています」
「分かってて出る?」
「はい」
陽子は黙った。
風が川沿いを抜ける。
水面が少し光る。
ルナは水の方を見ない。
だが、逃げてもいない。
「理由は?」
陽子が聞いた。
健一は少し考えた。
「前は、リベンジのためでした」
「今は?」
「確認のためです」
「何の」
「俺が、お台場の海を怖いだけの場所にしないこと。ルナさんが、あの海を別れの場所にしないこと」
陽子は健一を見た。
少し意外そうだった。
「佐藤さんにしては、かなり言葉がある」
「練習しています」
「いい傾向」
ルナが小さく言った。
「健一は、言葉の練習中です」
「うん、見れば分かる」
陽子はルナに向き直る。
「ルナさんは、本当に行きたい?」
「はい」
「怖いでしょ」
「怖いです」
「また海に引っ張られるかもしれない」
「はい」
「それでも?」
「はい」
ルナは、ゆっくり言った。
「お台場は、私が健一を見つけた場所です。でも、健一が沈んだ場所でもあります。私が海へ帰ろうとした場所でもあります」
「うん」
「このままだと、怖い場所のままです」
ルナは健一を見る。
「私は、健一が前に進むところを見たいです。私も、そこにいたいです」
陽子は、しばらく黙っていた。
それから、短く息を吐いた。
「分かった」
健一が少し驚く。
「反対しないんですか」
「反対したらやめるの?」
「……やめません」
「なら、反対するより準備した方がいい」
陽子は腕をほどいた。
「ただし、条件がある」
「はい」
「ルナさんは、基本的に水辺から距離を取る。大会中は私が付き添う。山下さんにも事情を説明できる範囲で協力してもらう。雨対策、群衆対策、海への接近対策、全部決める」
「はい」
「あと、佐藤さん」
「はい」
「レース中でも、ルナさんに何かあったら順位は捨てる」
健一は即答した。
「捨てます」
陽子の目が少しだけ動いた。
「即答なんだ」
「はい」
「前の佐藤さんなら、たぶん少し考えた」
「今は考える必要がありません」
陽子は、少し笑った。
痛みを隠すような笑いではなかった。
どちらかと言えば、納得した笑いだった。
「そっか」
ルナが健一を見る。
「健一は、順位を捨てますか」
「必要なら」
「私のために?」
「はい」
ルナは少し困った顔をした。
「嬉しいです。でも、健一の完走も見たいです」
「俺も完走したいです」
「では、私は何も起こらないようにします」
「それは一人で背負わないでください」
陽子が言った。
「何か起きないようにするのは、みんなでやる」
「みんな」
「そう。私も、佐藤さんも、山下さんも」
「山下も」
「たぶん笑いながら手伝う」
「ナイス山下」
「それはもう少し後で使おうか」
ルナは少し笑った。
その笑顔に、練習場の空気が少し軽くなる。
*
その日は、三人で軽い確認をした。
健一はランニングコースを走り、ルナは陽子と一緒に歩いた。
水辺には近づかない。
途中で風が川の匂いを運んできたが、ルナは足を止めなかった。
「大丈夫?」
陽子が聞く。
「少し怖いです」
「止まる?」
「歩きます」
「無理しない」
「無理ではありません。怖いだけです」
陽子は頷いた。
「その違い、大事だね」
「健一も、そう言いました」
「うん。佐藤さん、最近たまにいいこと言う」
ルナは嬉しそうにした。
「健一は、言葉が上手になっています」
「まだまだだけどね」
「でも、好きは言えます」
「それは大進歩」
健一は少し離れたところを走っていたが、なぜかその会話だけは聞こえた。
聞こえないふりをした。
陽子はそれに気づいて、少し笑った。
「聞こえてるね」
「はい」
「耳が赤いです」
「見なくていいです」
健一はペースを上げた。
山下がいれば、絶対に「ナイス健一」と言っただろう。
いなくてよかった。
少なくとも今日は。
数周したあと、健一は二人のところへ戻った。
息を整える。
時計を見る。
いつもならタイムと心拍を確認するところだが、今日は自然にルナの足元を見た。
足は安定している。
鱗の光もない。
「大丈夫そうですね」
「はい」
ルナは少し誇らしげだった。
「川の匂いがしました。でも、歩けました」
「前進です」
「前進」
ルナはその言葉を繰り返す。
「歌に入れます」
陽子が言った。
「お台場の歌?」
「はい」
「今、どこまでできてるの?」
ルナは少し恥ずかしそうにメモ帳を取り出した。
月の柄のメモ帳。
そこに、たどたどしい字で歌詞が書かれている。
沈むあなたを見つけた海で
私は初めて陸を見た
怖い水が呼ぶ日にも
あなたの声が岸になる
陽子は静かに読んだ。
健一も横から見た。
ルナはページをめくる。
もう一度、同じ場所へ
沈むためではなく、進むために
あなたが走るその先で
私もここにいると歌う
健一は、息を止めた。
以前の歌詞より、ずっと強くなっている。
HDDの癖はない。
言葉はまだ素朴だが、ルナのものだった。
陽子も、しばらく黙っていた。
「いいと思う」
短く言った。
ルナの顔が明るくなる。
「本当ですか」
「うん。変じゃない」
「裸ではありませんか」
「ちゃんと服着てる」
陽子は少し笑った。
「でも、中は見える」
ルナは嬉しそうに胸に手を当てた。
「では、これは私の言葉です」
「そうだね」
健一は、メモ帳から目を離せなかった。
もう一度、同じ場所へ。
沈むためではなく、進むために。
それは、健一がうまく言葉にできなかった大会出場の理由そのものだった。
ルナは、先に歌にしていた。
「届きましたか」
ルナが聞いた。
健一は、少しだけ笑った。
「まだ本番前ですが、届き始めています」
「届き始め」
「はい」
「では、もっと届くようにします」
「お願いします」
陽子が二人を見て、少しだけ肩をすくめた。
「もう、だいぶ届いてると思うけどね」
健一は聞こえないふりをした。
*
帰り道、陽子は健一だけを少し後ろに呼んだ。
ルナは前を歩いている。
青いヘアゴムが揺れている。
足取りはまだゆっくりだが、昨日より少し安定していた。
「佐藤さん」
「はい」
「大会、たぶん何か起きるよ」
健一は陽子を見た。
「不吉なことを」
「不吉じゃなくて、準備。物語的にも、現実的にも」
「物語的?」
「なんでもない」
陽子は咳払いした。
「ルナさんは、お台場に行くことで前に進めると思ってる。でも、あそこは海だから。マリーンって魔女が何をするかも分からない。満月も近づいてる。感情も揺れる」
「はい」
「佐藤さんは、レース中に全部管理できると思わない方がいい」
健一は少し黙った。
「分かっています」
「本当に?」
「はい」
「前の佐藤さんなら、コース、補給、天候、タイム、全部管理して、リスクを潰せると思ってた」
「今は、無理だと分かっています」
「ならいい」
陽子は、前を歩くルナを見た。
「ルナさん、たぶんまた自分を責めるよ。佐藤さんの邪魔をしたくないって」
「させません」
「させないっていうか、先に言っておいた方がいい」
「何を」
「順位より大事だって」
健一は足を止めかけた。
陽子は横目で見る。
「言ってある?」
「必要なら順位は捨てるとは」
「それは対策。ルナさんに必要なのは、理由」
「理由」
「そう。捨てる理由。責任じゃなくて、好きだからってやつ」
健一は返事に詰まった。
陽子は少し笑った。
「まだ照れる?」
「照れます」
「でも、言えるでしょ」
「……はい」
「なら、大会前に言って。レース中に何か起きてからじゃ遅い」
陽子の声は優しかった。
少しだけ痛かった。
「瀬戸さん」
「何」
「ありがとうございます」
「お礼は優勝してから」
「優勝は無理です」
「じゃあ完走」
「それは目指します」
「違う」
陽子は軽く首を振った。
「三人で完走。意味分かる?」
健一は、少し考えてからうなずいた。
「分かります」
「ならよし」
前で、ルナが振り返った。
「陽子、健一。遅いです」
「はいはい」
陽子が手を振る。
健一も歩き出す。
その時、健一のスマホが震えた。
山下からだった。
〈陽子さんから聞きました。お台場出るんですね。手伝いますよ。車も出せますし、荷物番もできます〉
続けてもう一通。
〈あと、チーム内には“佐藤さんが人魚姫に応援されるらしい”くらいで止めときます〉
健一はすぐに返信した。
〈止めてください〉
山下から返事。
〈無理です。もう半分くらい伝わってます〉
健一は天を仰いだ。
陽子が画面を覗く。
「山下さん?」
「はい」
「手伝ってくれるって?」
「はい。あと、噂が広がっています」
「まあ、あれだけ目立てばね」
「不本意です」
ルナが近づいてきた。
「山下は、来ますか」
「来るようです」
「ナイス山下」
「今回は本当にナイスかもしれません」
ルナは嬉しそうに笑った。
人が増えていく。
健一は、少し前ならそれを面倒だと思っただろう。
今も面倒ではある。
だが、悪くない。
ルナを守るために、ルナを陸に残すために、健一一人では足りない。
それを、ようやく認められるようになっていた。
*
夜、健一の部屋で作戦会議が行われた。
参加者は、健一、ルナ、陽子。
山下はメッセージ参加。
ホワイトボードには、大きく新しい見出しが書かれた。
【お台場大会対策】
健一が項目を書いていく。
・ルナは水辺に近づきすぎない
・陽子がルナに付き添う
・山下は荷物・移動補助
・雨雲レーダーを複数確認
・タオル、コート、ポンチョ、小瓶を携帯
・人混みでルナを一人にしない
・異常があれば順位を捨てる
・満月関連の変化に注意
・大会前に歌の確認
陽子が言った。
「もう一個」
「何ですか」
「佐藤さんがルナさんに、ちゃんと言う」
健一はペンを止めた。
ルナが首を傾げる。
「ちゃんと?」
陽子は健一を見る。
「本人から」
健一は、少しだけ息を吸った。
そして、ホワイトボードに書いた。
・順位より、ルナを優先する理由を言う
ルナがその文字を読む。
「理由」
「はい」
「それは、今ですか」
陽子がにやりとした。
「今じゃない?」
「瀬戸さん」
「大会当日に逃げるよりいいでしょ」
ルナは、健一を見ている。
健一は、ペンを置いた。
こういう時、心拍数は役に立たない。
呼吸も整わない。
でも、逃げ道はもうない。
「ルナ」
さんをつけなかった。
ルナの目が少し大きくなる。
「はい」
「大会では、俺は完走を目指します。あの海を、沈んだ場所のままにしたくないので」
「はい」
「でも、もしあなたに何かあったら、順位もタイムも捨てます」
「私は、それが怖いです」
「分かっています」
「健一の大事な競技です」
「大事です」
「私のせいで」
「違います」
健一は、今度はすぐに言った。
「あなたのせいで捨てるのではありません。俺が、あなたを選ぶんです」
部屋が静かになった。
陽子も、何も言わない。
「タイムより、順位より、完走記録より、あなたが大事です」
健一は、ルナを見る。
「好きだからです」
ルナの目が揺れた。
「まだありますか」
「あります」
「大会の日も?」
「あります」
「満月の日も?」
「あります」
ルナは、青いマグカップを両手で握った。
「その言葉は、私を陸に残します」
健一はうなずいた。
「なら、何度でも言います」
陽子が小さく息を吐いた。
「よし。今のは合格」
「瀬戸さん、審査員なんですか」
「見届け人」
ルナは、少し泣きそうな顔で笑った。
「陽子、ありがとう」
「泣く?」
「少し」
「タオル」
健一がすでに差し出していた。
陽子が笑う。
「早い」
「準備しています」
「そういうところは、ほんと佐藤さん」
ルナは涙を少しだけこぼした。
健一が拭いた。
もう、誰も慌てなかった。
*
その夜、ルナは大会用の歌を少しだけ歌った。
「もう一度、同じ海へ――
沈むためではなく、進むために――
あなたが選ぶその道で――
私は岸を、怖がらない――」
声は澄んでいた。
陽子は黙って聞いていた。
健一も、黙って受け取った。
歌が終わると、ルナは言った。
「まだ、途中です」
「いい途中です」
健一が言う。
「届きますか」
「届いています」
「もっと、届かせます」
「はい」
ホワイトボードには、満月まで十五日。
そして、お台場大会対策。
終盤が始まっている。
もう一度、お台場へ。
沈むためではなく、進むために。
健一は、そう思いながら大会事務局のメールを開き、出場確認のボタンを押した。
画面に、短い文字が表示される。
【エントリー確認完了】
健一はそれを見た。
ルナが隣から覗き込む。
「これで、行きますか」
「はい」
「お台場へ」
「お台場へ」
陽子が後ろで言った。
「三人で」
山下から、ちょうどメッセージが来た。
〈当日、車出します。ナイス全員で行きましょう〉
健一は少し笑った。
「四人かもしれません」
ルナは嬉しそうに言った。
「ナイス全員」
健一はもう訂正しなかった。
窓の外には、満ちかけの月があった。
まだ満月ではない。
だが、確実に近づいている。
そして健一たちも、もう一度あの海へ近づいていた。




