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NTR勇者、我が道を征く〜闇に堕ちた英雄は、復讐を誓う。〜  作者: アルファベータ
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第34話 不吉

 

 死の色に染まった黒い太陽が、アルスの眼前まで迫る。概念再編の反動で動けないアルス、瀕死のルーシェとオルクス。万策尽きたかと思われたその時、アリウベラ洞窟の空気が「不滅」を超えた、異質な熱量に震えた。


「……私の、名前の……本当の意味を……教えてあげるわ」


 地の底から響くような声と共に、壁際に倒れていたアルベラが、ゆっくりと立ち上がる。


 彼女の身体からは、これまでの澄んだ魔力ではなく、どす黒い紫と銀色が混ざり合う、おぞましくも美しい「混沌の魔力カオス・マナ」が噴き出していた。


「……アル、ベラ……? その姿は……」


 アルスの問いに答える暇もなく、アルベラの右目――千里眼の瞳が、血の赤へと染まる。彼女の周囲に立ち昇る魔力は、触れるものすべてを腐らせるナルクの瘴気さえも「侵食」し、逆に自らのエネルギーへと変換し始めていた。


「アリウベラ洞窟は、腐敗しないんじゃない。……あらゆる腐敗を飲み込んで、自らの『混沌』に変えてしまう場所よ。私の名は、その『飲み込む闇』の象徴……!」


 アルベラが右手をかざすと、迫りくるナルクの黒い太陽に、網目状の魔障が絡みついた。


「【覚醒:千里アビス深淵アイ】。……ナルク、あなたの絶望なんて、私の混沌に比べれば、ただの薄っぺらな毒に過ぎないわ」


――バキィィィィン!!


 空間が割れるような音を立てて、ナルクの放った必殺の黒い太陽が、内側から押し潰されるように霧散した。


「……何だと? 私の絶対腐敗を、物理的に『噛み砕いた』というのか……!?」


初めてナルクの顔に驚愕が走る。


 アルベラが纏うのは、魔族の理を超えた『魔障』。それは神が創った世界の法則さえも歪め、存在しないはずの事象を現実に固定する、真の混沌の力だった。アルベラの両親はアルベラに魔力を預けていた。もしもの時のために。


「アルス、力を貸して。あんたの【神簒者】で、私のこの溢れ出した魔力を……新しい『一撃』に編み直して!」


 アルベラがアルスの隣に降り立つ。彼女の身体から溢れ出す混沌の奔流に触れた瞬間、アルスの右腕の回路が歓喜するように咆哮した。


「……ああ、やってやる。……俺たちの絶望を全部混ぜ合わせて、そいつを消し飛ばす力に変えてやる!」


 アルスの銀色の術式と、アルベラの紫黒の魔障が混ざり合い、洞窟内は「白と黒」が螺旋を描く特異点へと変わる。


きっと大丈夫。


 最強の盾であり、無限の燃料となったアルベラの覚醒により、アルス一行の反撃が、今まさに幕を開ける。



◇◆◇


「……そんな簡単にいくと思うのかね。私の『不滅』の領域で」


 ナルクの冷徹な声が響いた瞬間、勝利の予兆は無残に切り裂かれた。覚醒したアルベラが混沌の魔力を放とうとしたその刹那、ナルクが指をスナップさせる。


――ドォォォォォン!!


 物理的な予兆も魔力の機動も一切なく、アルベラの胸が内側から爆ぜるように穿たれた。


「……あ、……ぁ…………」


 漆黒の魔障が霧散し、アルベラの身体が糸の切れた人形のように崩れ落ちる。ナルクの権能は「腐敗」だけではない。彼は不滅の地であるこのアリウベラ洞窟そのものを、自らの「臓器」として支配していたのだ。


「アリウベラ洞窟も、もう終わりだな」


「……ッ、アルベラ!!」


 アルスが叫ぶと同時に、洞窟全体が激しく鳴動し始めた。不滅を誇った岩壁に巨大な亀裂が走り、天井から数トンの岩塊が次々と降り注ぐ。


「……これ、は……どう…して……」


 血を吐きながら倒れたアルベラは、薄れゆく意識の中でナルクを見上げ、戦慄した。そこにいたのは、魔王でも、ただの魔族でもない。


 世界を構成する法則そのものを歪め、破壊を呼吸のように行う存在。


「……あいつは……ただの魔術師じゃない……。本物の、……真の『魔人』だわ……」


「終わりにしよう。この場所ごと、君たちの無価値な歴史を埋葬してあげるよ」


 ナルクが両手を広げ、洞窟の全エネルギーを一点に凝縮し、回避不能の死の奔流として解き放った。崩落する岩、唸る重圧、そして絶対的な死。


「……させる、かぁぁぁッ!!」


 アルスは動かない身体を無理やり突き動かした。【神簒者】の回路を暴走させ、全神経を右腕に集中させる。だが、ナルクの放つ「魔人」の力は、アルスの銀色の術式さえも容易く圧砕していく。


ギチ、ギチ、と嫌な音が鳴り響く。


「う、おおおおおおお!!」


 アルスは身を挺して、倒れたアルベラと仲間たちを庇うように立ち塞がった。次の瞬間、凄まじい衝撃がアルスを襲う。


――ブチッ、という生々しい断絶の音。


「が、はぁぁッ!!」


 アルスの右腕が、肩の付け根から弾け飛んだ。自らの肉体を「盾」として再編し、腕一本を代償にすることで、アルスはナルクの必殺の一撃を、文字通りギリギリのところで受け流したのだ。


 激しい爆煙と崩落の土煙の中、アルスは左手でアルベラを抱き寄せ、片腕を失った肩から大量の血を流しながら、死神のような形相でナルクを睨みつけた。


「……腕一本だ。それで……お前の底は、今ので見えたぞ……魔人」


崩れゆくアリウベラ洞窟。


「なめるな、たかが一発だ。」


 腕を失い、絶望的な状況に追い込まれながらも、アルスの瞳にある「復讐の炎」だけは、かつてないほどに激しく燃え上がっていた。




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