第31話 晩餐会の幕開け
再構築の修行は、佳境を迎えていた。
アルスが仲間たちの魔力特性を分解し、自身の血肉として編み直そうとしたその時、穏やかだった小屋の結界が、ガラスが割れるような音を立てて崩壊した。
「――お食事の時間だ。不浄なる旧世界の残党諸君」
煤けた煙の中から現れたのは、真っ白な法衣に身を包んだ、異様なほどに細長い男だった。男の背後には、リオネイルを『新世界の神』と仰ぐ狂信教団――『晩餐会』の紋章が刻まれた旗がなびいている。
「……何者だ」
アルスが鋭い視線を向けるが、男は答えず、手に持った黒い教典を開いた。
「私は晩餐会の給仕係。神《リオ様》が気まぐれに残した『食べ残し』を片付けに来た。……さあ、【静寂なる晩餐】」
男が叫ぶと同時に、大地から無数の黒い杭が突き出し、小屋全体を覆う巨大な魔法陣を形成した。瞬間、周囲の魔圧が消失した。いや、違う。空間そのものが「魔力の行使を禁じられた」のだ。
「ぐっ……魔力が、練れない……!?」
アルベラが顔を青くして膝をつき、ルーシェも弓を構えようとしてその場に頽れた。魔力の供給を断たれた二人は、ただの弱弱しい乙女と化してしまう。
そして何より、最も深刻な影響を受けたのは師匠だった。
「ぬ……これは、因果を断つ封印か……!」
数千年の時を魔力で維持してきた師匠にとって、魔力の封印は死を意味する。老人の肌は瞬時に枯れ木のようになり、杖を突くことすらままならない。
「老い先短いゴミに、神の言葉は不要。……死ね」
男の手から放たれたのは、魔法ではない。高速で射出された物理的な鋼の針。魔力を封じられ、反応すら遅れた師匠の胸を、その針が無慈悲に貫いた。
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「師匠!!」
「……ふん、まずは一人。さて、次は……魔力無しで何ができるというのかね?」
男は冷酷に笑い、絶命した師匠を蹴り飛ばした。
「……貴様ぁッ!!」
咆哮したのはオルクスだった。魔力など最初から期待していないオーガの怪力。彼は巨大な斧を振り回し、男に肉薄する。だが、男は針を操り、オルクスの巨体を巧みに翻弄する。
アルスは、倒れ伏した師匠の亡骸を一瞬だけ見つめた。怒りで視界が真っ赤に染まる。だが、彼の内側では、師匠が最期に授けた言葉が響いていた。
――『奪った火で薪を燃やすのではない。火そのものを喰らい、自らが太陽となれ』
「……そうだ。俺の力は、世界から『借りる』ものじゃない」
アルスは自身の胸に深く指を突き立てた。
封印術が支配するこの空間で、アルスだけは例外だった。彼の【神簒者】は、外部の魔素を必要としない。
略奪し、解体し、自分の中で「製造」した魔力を爆発させる、閉鎖型の回路。
「【概念再編】……出力全開」
アルスの右腕から、封印を焼き切るほどの銀色の閃光が溢れ出す。魔力を封じられた絶望の檻の中で、ただ一人、自らの魂を燃料に『神を喰らう堕天使』が覚醒した。
「な……馬鹿な! この空間で魔法を使えるはずが……!」
「……魔法じゃない。これは、お前から奪う『絶望』の形だ」
アルスは、魔力を失い震えるアルベラとルーシェを背に庇い、冷徹な死神の如く一歩を踏み出した。




