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大家さんの『サウダージ』 その8

 アルバイトから帰って来た所をメティに呼び止められた大平は、部屋に帰る事無く、そのままの足で『一緒に来てほしい』という所まで案内されていた。


 そこは草木が生い茂った原っぱを抜けた先にある洞窟で、如何にも熊やら毒蛇やらが住んでいそうな場所だった。


 入り口を前に、大平はメティに尋ねる。


 「この中に大五郎が?」


 「うん。どうやらここ数日、バイトにも行かずに通っているみたいなんだ。」


 「えっ!?」


 メティの返しに、大平が目を見開く。


 「バイト行ってないの!?いつから!?」


 「君んとこの亀が出て行った、あの日からだよ。」


 「何だって・・・!?」


 イスチィが出て行った日・・・・・・それは、小源の復讐を阻止した日でもあり、彼から絶交を告げられた日でもある。


 恐らくあの後、一人きりになれる場所でも探して彷徨(さまよ)っている内に、たまたまこの洞窟を見つけたのだろう。


 だが、ずっとこの中にいるならまだしも、何故アルバイトに行く感覚で毎日通い続けたのか。


 大平は、そこに疑問を抱いた。


 と同時に、どことなく嫌な予感もした。


 「オイラもついさっき、突然やって来たバイト先の奥さんにその事を聞かされて知ったんだ・・・びっくりだよホント。出掛ける時、いつもと全く変わらなかったのに・・・・・・それで王国中探し回りーの、聞き回りーのして、ようやく此処を突き止めたんだ。単身で乗り込んでも良かったんだけど、場合によっちゃあ親友である君もいた方が良いから、一旦戻って今に至るって訳なんだ。」


 「そっか・・・」


 どうやらメティは、大平と小源が絶交している事を知らないらしい。


 まあ、『俺、あいつと絶交したから』と、小源が一々報告するとは思えないので、これは仕方ないだろう。


 大平もその事は黙っておく事にし、


 「(ごめん、メティ・・・僕、もう大五郎の親友じゃあないんだ。)」


 心の中で謝罪した。


 その際、当時の事を思い出してしまい、胸がチクリと痛んだ。


 一方、そんな彼をよそに、メティは自身の体をまさぐっていた。


 体毛に埋もれさせていた懐中電灯を取り出す為である。


 メタリーやイスチィといった亀が甲羅の中に道具を入れて持ち運ぶように、どうやらメティは体毛に道具を埋もれさせて持ち運ぶらしい。


 それはさておき、やっとの事で取り出したそれを大平に渡し、進行先を照らさせたメティは、洞窟内に右前脚を一歩踏み入れる。


 「じゃあ、行こう。」


 「あ、うん・・・」


 いよいよ探索開始・・・!!


 洞窟内は意外にも涼しく、まるで真夏にクーラーの効いた部屋で過ごしているかのような快適さだった。


 ジメジメ且つねっとりとした生温かい空間を想像していた大平にとっては、嬉しい誤算だ。


 道は、今のところ何の変哲も無い一本道。


 どんなに方向音痴な人間でも、まず迷う事は無い構造をしている。


 はぐれる事も無い。


 そんな事を話している内に、懐中電灯が進行方向にある何かを照らした。


 「あれは・・・」


 人だ・・・


 人が倒れている・・・


 大平は、その人の元へ急いで駆け寄った。


 「大丈夫ですか!?」


 そして、気付く・・・


 「えっ・・・」


 倒れているのが、『コワレ荘』の大家・日輪だという事に!!


 「なっ・・・何でこんな所に大家さんが・・・・・・しっかりしてく !?」


 彼女の肩を揺さぶった瞬間に生じた違和感・・・!!


 この時彼の脳みそは、もう一つの『事実』に気が付いた。


 「いや、違うッ!!こっ・・・これは・・・」


 不気味な物でも見たかのように、彼の顔がゾッと青ざめる。


 心臓はバクバクと激しく鼓動し、肺は酸素を必要以上に欲しがって呼吸を荒くさせる。


 口は動揺を隠せず、誤魔化すかのようにゴクリと唾を飲み込む。


 台詞の続きは、それから二呼吸くらい開けたところで、ようやく出た。


 「人形だ・・・・・・皺やシミの形に至るまで、本物そっくりに作られた人形だ!!な、何でこんな物が・・・」


 そう、倒れていた日輪は、人形だったのだ。


 しかも、普通に見る分には本物と区別付かない程、髪の毛の先から足の爪先に至るまで、精巧に作られている。


 一体誰がこれを作り、ここに捨てたのか・・・いや、そもそも何故彼女そっくりの人形を作ったのか。


 謎は深まるばかりである。


 そんな中、メティの髭がピクリと小さく揺れ動いた。


 「誰か来る!!早くオイラの後ろへ!!」


 「えっ!?」


 どうやら、何者かが彼等に接近しているらしい。


 よくよく耳を澄ませば、コツコツという靴音が聞こえて来ている。


 日輪人形で不気味な気分になっていた大平は、すぐにメティの後ろへ隠れた後、近付いて来ている者の正体を知る為、懐中電灯を向けた。


 すると次の瞬間、一人の女性が姿を現す。


 「だっ・・・誰!?」


 大平からしてみれば、お初にお目にかかる人。


 ところが、彼女からしてみればそうではないらしく、溜め息混じりにこう言った。


 「騒がしいから様子を見に来てみれば・・・・・・貴方だったのね、大平忠邦。」


 「えっ!?なっ・・・何で僕の名前を知ってるんですか・・・!?」


 「『何で』も何も、今まで散々世話してあげたじゃあないの・・・・・・()()()()()()()()()。」


 「!?」


 女性がそう言って指差したのは、日輪人形。


 この時大平は、彼女の言った事を理解し、時間が止まった感覚を再び味わった。


 そんな彼をよそに、女性は日輪人形を念力か何かで操りながら、自身の口と人形の口を同時に動かす。


 「「そう、『日輪空』なんていうお婆さんは、最初からこの世に存在してないのよ・・・この世界にある彼女の人生の痕跡、周囲の人間が持つ『彼女と関わった記憶』・・・その他諸々ぜ~んぶ、私が目的達成の為に造り上げた『虚構』なんだから。」」


 「・・・・・・!!」


 恐怖と驚きのあまり、大平の体が硬直する。


 体中の血を全て抜かれた気分だった。


 そして同時に、腑にも落ちた。


 何故、自分が日輪に対して、ああも懐疑的であったのかを・・・!!


 初見で見抜いていたのだ・・・彼女の正体を・・・本能がッ!!


 「あ・・・貴女一体・・・・・・一体何者なんですかッ!!」


 「天使だよ。」


 「!?」


 女性の代わりにメティが即答する。


 驚く彼をよそに、メティはこう続けた。


 「他にも候補はあるけど、こんな精密且つ大それた芸当が出来るのは、オイラの知っている種族の中では『天使』くらいしかいない・・・・・・違う?」


 これに対し、女性が鼻で笑い、答える。


 「ええ、そうよ。私は天使・・・・・・丙天使(へいてんし)・ソルシエル。今は御覧の通り、神様の使いを辞めて、この世界で暮らしているわ。」


 「『依願退職してスローライフ送ってる』みたいに言うな。どうせ、神界のお偉いさん怒らせて堕天(とば)されただけでしょ。」


 「ッ!!」


 余裕の表情から、憤怒の表情へと変化。


 どうやら、図星のようだ。


 メティは、そんな彼女を気にする事なく、こう続ける。


 「それより、大五郎はどこ?オイラ達、彼を連れ戻しに来たんだけど。」


 「『連れ戻す』・・・ですって?フフッ。」


 憤怒から、また余裕の表情へと逆戻り。


 ソルシエルの後ろからは、ザッザッと、足音が聞こえて来ている。


 「やれるものなら、やってみなさい。」


 「!!」


 彼女の台詞の後、洞窟の奥から出て来たのは、小源だった。


 パッと見た感じ、どこも怪我はしていないようだし、やつれてもいないようだ。


 何なら、吹っ切れた感じもする。


 彼を見るや否や、大平は絶交の件を忘れ、駆け寄っていった。


 「大五郎!!良かった、無事だっ・・・た・・・」


 瞬間、何かを感じ取った大平の足が止まる。


 表情も、どこか怪しんでいるようだ。


 これに対し、小源は優しくこう言う。


 「どうした、忠邦・・・・・・絶交している事を思い出して、気まずくなったのか?だとしたら、すまん。あの時はつい、その場の勢いで心にも無い事を言ってしまったんだ・・・・・・許してくれ。この通りだ。」


 「・・・・・・」


 深々と頭を下げ、絶交の件を謝罪。


 しかし、それでも大平の表情は変わらなかった。


 寧ろ、違和感が強くなったようだ。


 「(見た目は大五郎・・・声も大五郎・・・・・・だけど・・・!!)くっ・・・」


 歯を噛み締めて俯いた後、目の前にいる小源を睨み付ける。


 「大五郎じゃあない・・・・・・誰ですか・・・貴方・・・!!」


 「ほう・・・」


 声色が変わり、下げた頭を元に戻す。


 その時の小源の顔は、邪悪な笑みを浮かべていた。


 「さすがは彼の『親友』だ・・・・・・私が彼ではない事を、すぐに見破ったか。そうだ、私は大五郎じゃあない。『レイシス・コーマンチキ』・・・かつて一国の王だった幽霊だ。」


 「幽霊・・・?それじゃあ大五郎は今、憑依されてい」


 「違う。」


 しっかりと否定し、大平の台詞を遮断。


 続けてレイシスは、こう言う。


 「『憑依』じゃあない。これは言うなれば、『成り代わり』・・・!!」


 「!?」


 「これからは私が・・・『小源大五郎』だ。」


 「な・・・何を言って・・・」


 力強く放たれたその台詞に、大平が困惑と動揺を見せる。


 だが、そんな彼をよそに、レイシスは話を続けた。


 「実は数日前に彼と初めて会った際、契約を交わしていたのだよ。」


 「!?」


 「『三つだけ君の願いを叶えよう』・・・『その代わり、全て叶えた後は私にその体を明け渡してほしい』・・・とね。自暴自棄だった彼は、すぐに承諾してくれたよ。」


 そうして彼は、右手の人差し指を立てる。


 「彼の一つ目の願いは、『殺された恋人が生前、助けを求めても助けなかった連中に罰を与える事』。だから私は、彼に該当する連中の名前と住所をリストアップさせた後、ソルシエルにそいつ等を一ヵ所に集めるよう指示を出した。後は、害虫の巣に殺虫剤を撒く感覚で毒ガスをブチ込んで終わり。悶え苦しむ様は、正に『害虫』のそれだったよ。死体は、『願いを叶えた証拠』として一度彼に見せた後、ソルシエルに細かく切り刻ませて燃やさせた後、桜の木の下に埋葬させた。今年の桜は例年以上に綺麗な筈だから、楽しみに待っているといい。」


 続いて、右手の中指も立てる。


 「二つ目の願いは、『恋人を殺したストーカーの男を殺す事』・・・こればかりは、未練を残さない為にも本人にやらせた方が良いと思った私は、よく切れる包丁を彼に持たせて山奥に待機させた。後は、ソルシエルがストーカー男をそこまで(おび)き寄せて、一対一の状況を作って終わり。結果は見ての通り、彼の完全勝利。ストーカー男は、凄惨且つ情けない最期を遂げたという訳だ。死体は、そこの地中深くに埋葬させたよ。大規模な土砂崩れや開発で山が削られない限り、二度と誰の目にも触れる事は無い。」


 「フフッ。」


 「・・・・・・」


 言い終わるや否や、失笑したソルシエルを一瞥するレイシス。


 やばいと思った彼女は、咳払いをしてこう言った。


 「ンンッ・・・申し訳ありません。地べたに這いつくばり、涙を流しながら必死に命乞いをするあの男の姿を思い出したら、急に笑いがこみ上げて来てしまいました。」


 それを聞いた後、彼は気を取り直して話を続・・・


 「そして、三つ目は」


 「グオォォォォォォッ!!」


 「メティ!!」


 ・・・けようとしたら、今度はメティが攻撃して来た。


 サイズはさっきより大きくなっており、顔も肉食獣らしい(いか)つい顔になっている。


 彼は小源の体を乗っ取ったレイシスに対し、怒りを露わにして叫ぶ。


 「返せッ!!その体は、お前のような亡霊が入って良いものじゃあないッ!!」


 鋼のように堅く、槍のように鋭い爪が、レイシスに迫る・・・!!


 しかしッ!!


 「がぁッ・・・!!」


 その爪が届く事は無かった。


 右手を振り下ろす前に、ソルシエルが彼の体を剣でズタズタにしたのだ。


 体中から血飛沫を上げながら倒れる彼を見て、大平が叫ぶ。


 「メ・・・メティッ!!」


 一方レイシスは、目の前で倒れたメティに対し、見下ろしながらこう言った。


 「残念だったな、白虎・・・・・・ゆっくり、じっくり、丁寧に熟成させていたんだろうが、お前はあまりにも呑気過ぎた。だから、私達に隙を突かれ、こうなってしまったのだよ。」


 ここでソルシエルが、倒れているメティの体に剣を突き立てようとする。


 トドメを刺すつもりなのだろう。


 大平は阻止する為、彼女に向かって走っていった。


 「やめろォッ!!」


 そして、アメフト選手顔負けのタックルをブチかまし、彼女を弾き飛ばした。


 「くっ・・・このガキィ~~~ッ・・・!!」


 やられた彼女は、怒り心頭な面持ちで大平を睨み、右手を黄緑色に光らせながら勢いよく突き出す。


 すると次の瞬間、大平が勢いよく吹っ飛び、洞窟の壁に激突した。


 「ぐあっ!!」


 背中に強烈な痛みが走り、顔が苦痛に歪む。


 だが、これで終わる彼ではない。


 地面にうつ伏せで倒れた後、『やりやがったな』という気持ちでその辺に落ちてある石ころを拾い、立ち上がった。


 「こっ・・・この」


 そこをすかさず、レイシスが止める。


 「それ以上、敵対行動を取るんじゃあない、忠邦!!お前は、親友の『最後の願い』を無下にするつもりか?」


 「!?」


 彼の言葉に大平がハッとなり、投擲しようと持っていた石ころを地面に落とす。


 「最後の・・・願い・・・?」


 そしてレイシスは頷き、さっきメティのせいで話せなかった内容を話し始めた。


 「さっき言いかけた、大五郎の三つ目の願い・・・・・・それは忠邦、『お前が安全に、何不自由無く天寿を全うする事』だ。」


 「!?」


 「どうやら彼は、お前に絶交を言い渡して傷付けた事をとても後悔していたようでね・・・・・・復讐を果たした後は、お前の事ばかり気にしていたよ。でも、今更どの面下げて会えば良いのか、何て言って詫びれば良いのか分からない。だから彼は、謝罪の気持ちも込めて、お前の将来の安心と安定を私に願ったのだよ。」


 「そんな・・・・・・大五郎・・・」


 ショックのあまり、目に見えて力が抜けていく大平。


 ついさっきまであった闘志はどこへやら、一気に消え失せてしまっている。


 「だから、それ以上私達を攻撃するんじゃあない。もし、お前が私達に向かってそれを投擲したのなら、私は身を護る為にお前を殺さなくてはいけなくなる。例え小さな石ころでも、当たり所が悪ければ死ぬ事もあり得るからな。」


 そして、釘を刺すように、レイシスはこう続けた。


 「私に彼の願いを・・・彼との約束を()(にじ)らせてくれるなよ?忠邦・・・」


 「!!?」


 瞬間、上から押し潰されるかのような重圧を感じ、大平が思わず尻餅をつく。


 何をされたのかは、全く分からない。


 とにかく『これ以上、この二人を攻撃するのはヤバい』と、本能で感じた。


 そんな彼を見て、レイシスは満足そうな顔をする。


 「どうやら、分かってくれたようだな・・・・・・ソルシエル。」


 「はい。」


 「あの家と土地、それからアパートに関わる全ての権利を、彼に譲渡してやれ。」


 「!? お言葉ですが、レイシス様・・・・・・体が手に入った今、次に必要なのは拠点と優秀な駒・・・それ等を手に入れるには莫大な資金が必要になります。こんなガキに渡すより、その辺の不動産屋に高値で売り払って、資金の足しにした方がよろしいのでは。」


 「確かにお前の言う通りではあるが・・・将来の安心と安定にも、それ相応の金がいるのも事実。ずっと支援してやる訳にはいかないのだから、最初に充分な量の財産をドンと渡しておきたいのだよ。」


 「し、しかし、レイシス様・・・貴方様と約束した相手は、既に死界の住人・・・この世界にはもういません。そんなものを律儀に守ってやる必要は」


 「約束は、約束だ。彼からこうして体を貰った以上、最後の願いも叶える義務がある。私は、屁理屈ごねて約束を反故(ほご)にするような『ウマシカのガキ』とは違うんだからな。」


 「失礼しました・・・レイシス様。」


 「いや、良い。あと、今からは『小源様』・・・もしくは『大五郎様』と呼べ。」


 「分かりました、レ・・・小源様。」


 『それで良い』・・・そう言いたげに、レイシスが頷く。


 一方大平は、威圧で押し潰されそうになる中、彼に疑問をぶつけた。


 「ひ・・・一つ・・・聞いても良いですか・・・?」


 「ん?」


 「最初からそのつもりで・・・大五郎や僕にあそこまでしてくれたんですか・・・?」


 「ああ、そうだ。私は生前に出来なかった事、そして復讐を果たす為に、どうしても『(入れ物)』が欲しかった・・・魂のままでは、『ポルターガイスト』程度の事しか出来ないからな。だが、どうせ入るのなら上質で特殊なものが良い。そこで目を付けたのが、お前達『異世界人』という訳だ。」


 「!!」


 異世界人の中には、ラピスと適合し、人知を超えた力を得る者がいる。


 その事をソルシエルから聞かされたレイシスは、そいつの体を乗っ取り、自分の物にする事を思い付いた。


 ところが、その『適合する者』が中々現れない。


 そもそもやって来た異世界人の殆どが、来た途端に体が破裂したり、衰弱していったりして死んでいく始末。


 『これは他の体を考えた方が良いかもしれない』・・・・・・そう思い始めた矢先、小源が白虎に乗って、この世界に現れた。


 小源は、この世界に来てもピンピンしており、死ぬ気配が全く無かった為、ソルシエルの水晶玉を介して様子を観ていたレイシスは、彼を『適合者』だと断定。


 すぐさまソルシエルに、彼と接触するよう命令した。


 こうして数時間後、小源と日輪が出会い、今に至る。


 大平の面倒を見る事にしたのも、この世界でピンピンしている彼を見て、『適合者』だと思ったから。


 要するに、何かあった時の為の『保険』として、『予備』をキープしておく為だったのだ。


 「・・・以上だ。他に質問があるなら、受け付けるぞ。」


 「じゃ・・・じゃあ、最後にもう一つ・・・」


 恐る恐る右手の人差し指を立て、大平が別の質問をする。


 「大五郎が壊れるきっかけになった、『(あたり)さんのストーカー事件』・・・そして、その顛末・・・・・・あれ、貴方達が仕掛けたんじゃあないですか?中々体を手に入れられないから、痺れを切らして・・・それで・・・!!」


 「違う。」


 「!?」


 斬り捨てるかのような冷たい返し。


 それは、強く否定しているのと同義である。


 「確かにそれがきっかけで、私はこうして体を手に入れられた訳だが・・・・・・あくまでこれは、『偶然の産物』・・・『棚から牡丹餅が落ちて来た』に過ぎない。」


 「嘘だ・・・!!」


 「本当よ。」


 「!?」


 横からソルシエルが割って入り、大平の視線が彼女の方に向く。


 彼女は、そのままこう続けた。


 「遅かれ早かれ壊れる運命にあるものを、無駄な労力使ってわざわざ壊しにいく意味なんて無いもの。」


 「!? なっ、何を根拠に」


 「だって、『猿の進化系』と『泥人形』のカップルだし。」


 「・・・え?」


 「この世界の人間はね、元を辿れば『ある計画』の為に創造神が造り上げて派遣した、数百体の『泥人形』なのよ。その数十体が交尾して量産していった結果出来たのが、『この世界の人間社会』って訳。で、貴方達『異世界人』は、創造神が造ったものではなく、猿が自然に進化してそうなったもの・・・つまり100%、(まご)う事無く『純生物』ッ!!見てくれは同じに見えても、『純生物』と『そうでないもの』のカップルなんて、いつか限界が来て壊れるに決まってるじゃあないの。」


 「・・・・・・!!」 


 本来なら知ることは無い『この世界の真実』を聞かされ、大平は目を見開いたまま、口を手で覆い隠す。


 衝撃のあまり、『嘘だ』、『作り話をするな』等と返す事も、驚きの声を上げる事も出来なかった。


 そんな彼を見て、レイシスは両手を一度叩き、こう言う。


 「・・・さて、質問は以上のようだな。それじゃあ、私達はこれで失礼させて貰うよ。あの家と土地、アパートに関する権利書類といった物は、手続きが終わり次第、お前の部屋に置いておくよ・・・・・・ああ、そうだ。」


 最後に何かを思い出し、大平の近くの壁を指差す。


 そこには、黄色い鉱石が壁から少々突き出ていた。


 「この世界で長く生きたいのなら、大人しくそれを持って帰る事だな。そうすれば、お前が変な考えを起こさない限り、この先ずっと平穏な人生を送れる筈だ。」


 言い終えるや否や、レイシスの体が黄色い光に包まれていく。


 ソルシエルと、何故か瀕死のメティもだ。


 恐らく、どこかに瞬間移動でもする気なのだろう。


 最後にレイシスは、大平に挨拶をした。


 「ではさらばだ、忠邦・・・・・・彼の分まで、良い異世界生活を送ってくれ。」


 すると次の瞬間、洞窟内から二人とメティの姿が消失した。

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