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其之7 これはお風呂なの? 禊なの??

 いったいどうしようもなくなって、わたしもこっそり琥狐(ココ)を連れて、お風呂へ行くことになったんだけど――。


 なんてことはない。


 結局、わたしは、(サラシ)行衣(ぎょうい)を着て、五右衛門風呂(ごえもんぶろ)にカポーンと浸かり、その洗い場の方で、琥狐は、水を張った手桶で行水していた。


(えっと……。これって、()()()って呼んでいいのかしら?)


 初めての着衣入浴に、わたしも戸惑ったものの、人前で素裸(すっぱだか)で入るのよりはマシだったから、文句を言うこともできない。


 それというのも。


(みそぎ)ハ、身ヲ清ラカニスルモノダ。ヨッテ、私ニハ、人間ガ先ニ浸カッタ湯ナド意味ガナイ。キチント、井戸デ清水ヲ手桶ニ汲ンデ、君ノ入浴ニ、一緒ニ連レテイクヨウニ!」


 なんて、琥狐が命令してきて、併せて、


「禊ハ白装束ガ基本ダ。ソレハ、私ノ依坐(よりまし)デアル君モ、守ラナケレバナラナイ」


 って、ポムッと、どこからか、わたし用の行衣を出してきた。


 依坐なら、使い古しのお湯じゃなくて、わたしも汲んだばかりの冷たい井戸水を浴びないといけないんじゃないかしら、って思ったんだけど。


 そもそも、「入浴」という慣習そのものが、「禊」に端を発するものだから、それをおこなうことがまず大事で、別に構わないんだって。もちろん、できれば、清水、ないしは、まっさらなお湯の方が好ましいのは確かだけど。


 ただ、それよりも、素肌をさらす行為の方があまり良くないらしくて。

 それで、わたしだけ、こんな中途半端な感じになったという訳で。


 体を洗うのも、行衣を脱いじゃいけないから、(えり)(そで)の隙間からヘチマたわしを差し込んで、素肌が露出しないようにワシワシ洗う状態。

 恥ずかしさは軽減される代わり、なんか、あんまり洗った気がしない。

 わたしは、くすん、と心で泣いた。


「あ。そうだ。琥狐。あなたも体洗わなきゃだよね?」


 わたしは、つい、何も考えずに言った。

 しかも、動物相手だと思って、ものすごく砕けた口調で。

 すると、琥狐は、手桶の中でちょいと首を傾げる。


「ソレハ、ツマリ、君ガ私ノ体ヲ、()()()()、洗浄スルトイウコトカ?」

「え」

「私ノ顔カラ耳、首、背中ニ、腹ノ裏、手足ニ股ニ、尻カラ尻尾ノ裏マデ、ナニカラナニマデ洗ウ、ト……」

「ま、股っ!? いや、シ……っ!!!」


 わたしは思わずギクッと固まった。

 そして、真赤(まっか)になって口をパクパクさせる。


 いや、だって。そうだわ。このコ――じゃない、このヒト、人間でいったら2()0()()()()()、って言ってなかった?


(こんな姿だから錯覚しがちだけど、このヒト、紫希(シキ)瑤子(ヨーコ)様で……)


 あの人型のあられもない姿に、わたしがお背中流す光景が、ぼわんっと脳裏に浮かんでしまって、わたしは、ものすっごく恥ずかしくなる。


 だって、わたしは、ひたすら、自分の裸を見られたくない一心で、逃げ出したくなっていたけれど。()()()()なんて全然考えてなかった。

 むしろ、このヒトの方が羞恥心に駆られてたんじゃあ……。


 そんな心配をしていると。

 

「体クライ、己デ洗エル。気ニスルナ」


 なんて言って、琥狐は、自分が浸かっている手桶の水面をガラガラ沸騰したお湯みたいに、ボココッと泡立たせていた。


 わたしはあんぐりする。


「ええっ!? 何っ……、泡っ??」

「疑似()()()ダ。コレハ、霊力デ起コシタ風ヲ、水中ニ送リ込ンデ、引ッ掻キ回シテダナ……」

「霊力が尽きかけてるのに、そんなコトできるんですかっ?」

「禊ノ際ニ、行使スル霊力ハ、変化(へんげ)程ニハ、食ワレナイ。人間ガ、特ニ意識セズ、立ッタリ歩イタリスルノト、似タヨウナモノダ」

「はあ……」


 要するに、時と場合によっては、燃費の良い使い方が出来る的なこと?

 そして、あの泡のお風呂。なんか気持ちよさそう。

 この五右衛門風呂でやったら、本当に【釜茹で】に見えそうで()()だけど。


「ソレヨリ。モウ4半刻*(:*約30分)ダゾ」

「いっけないっ! トミさん、お待たせしちゃうっ」


 わたしも慌てて出る準備をした。


 この時、わたしの着衣入浴の所為で、お湯が衣に吸われた結果、若干、五右衛門風呂の湯量が減ってしまっていたんだけど。

 なんと、琥狐が霊力で、お湯を満タンに戻してくれた。


 それどころか、お湯から上がったわたしが、脱衣所で体を拭いて、浴衣に着替えていると、脱いで脇に置いておいた、びしょ濡れの行衣まで、いつの間にか、どこかに消してくれていた。


 そのうえ、ブオッと一瞬、暖かい風を起こしてくれて。

 琥狐は、自分の毛を乾かすためとかで、「ついでだ」って言っていたけれど。


 それで、いつもは手ぬぐいで拭き取ってもなかなか乾燥しない、わたしの髪が、あっという間に乾いちゃったのには驚いた。

 実際、温風を当てた後の琥狐の毛は、すっごくフワフワしていて、感動してしまったし。


(会ったときは、人間に化けるのと、狐火を出すくらいしかできない、って言ってたのに)


 あれは謙遜だったのかしら、と思ったけれど。

 元神様の御使いだから、割と何でもありなのかもしれない。

<執筆後記>

 なんとなく察しておられた方もいらっしゃったかもしれませんが。

 やっぱり、全年齢対象(レーティングなし)な結果になりましたねwww


 そして、まさかの霊力泡風呂……。


 当初はそんなの考えてなくて、これが出てきた時には、作者ながらに驚いてしまいました。まあ、拙作(代表作)のあのポンコツ王太子くんなら、まっさきに「ジャグジーなんかーいっ!?」とツッコんでくれそうですが。


 さてさて。

 次回は、ちょっとほのぼのテイストです。

 本当は、本日分に入れようとしてたんですが、少し長くなってしまったので。

 読みやすさ重視で分割しました。

 スローペースな連載で本当に申し訳ないです……。

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