其之5 やっぱり白狐なのね
<お知らせ>
初めての方も、いつもの方も、ありがとうございます!
本日8/25(火)12:10に、この連載のプロモーション短編・新作『ヤンデレハイカラ紳士は、いわくつき令嬢を愛でたくて仕方がない』を投稿いたしました。
既知の方はタイトルでもお察しの通り、こちらは8/21(金)に投稿した短編『いわくつき令嬢は連敗中』の続編にあたります。
前作はユキコ視点でしたが、続編はミツオキ視点です。
☆短編『ヤンデレハイカラ紳士は、いわくつき令嬢を愛でたくて仕方がない』
〔https://ncode.syosetu.com/n6593mq/〕
ストーリー自体は、それぞれ独立した感じの構成にしてますので、どちらも「未読/既読」を問いません。
ただ、これら連作短編は、この連載の前日譚にあたるので。中~後半エピソードにちょこっと絡んできたりします。
お気になられた方は、是非々々、こちらも併せてご覧ください!
「待って!」
紫希はスタスタと歩くのが早かったから、わたしも全力で駆けて、お店からだいぶ離れた寂れた路地裏で、ようやく追いついた。
わたしは、ぜいぜいと肩で息をしながら、きゅっと紫希の背広の裾を握り締める。
「待ってください……!」
紫希も不思議そうな顔で振り返った。
「――どうして、ついてきたのかな?」
わたしも自分でなんて答えたら良いか分からなくて、「……ッ!」と言葉に詰まる。わたしは、はにかんだ顔のまま、やおらうつむいた。
「……だって! 気になるじゃないですか」
「そうかね?」
「それに。わたし、誘われてるんです。豪太に。『オレの妾にならないか?』って」
「ほう……」
「ですから! わたしだったら。あの家に簡単に潜り込めるんじゃないかな、って思って!!」
「では、通りすがりの妖狐のために、君はあの不埒で粗忽な男に純潔を捧げると?」
「そんな訳ないじゃないですか! わたし、アイツ、大っ嫌いなんですから!!」
「だけれど、妾になるんだろう? それはつまり、そういう事になると思うが」
冷静に紫希にツッコまれ、わたしも、うぐっと閉口した。
「とにかく、まずは潜り込むことが先決かと! それから、ぬらりくらり、上手く逃げてみせれば……」
「ぬらりくらり、ね……」
懸命に反論しかけるわたしに、紫希は、やや嘲笑めいた態度を見せた。
「確かに、【神力の根源】を取り返し、御社を再建、私の主祭神がお戻りになって、以前を凌ぐほどに【信者】が回復すれば、万事安泰だが。それは、人間の君がやる事ではない。あくまでも、元神使の役目で――」
と、遮るように紫希が言いかけた矢先に、シュンッと、その姿が消えた。
「えっ。うそっ」
わたしは目を白黒させた。
かと思いきや――。
目の前に、ころん、と。
小さな白狐が仰向けに転がっていた。
「アア。ヤッパリ。限界ダッタカ」
「紫希――?」
正直言って、大人じゃなくて子供の狐に見える。なんか、大きさ的には、江戸時代からのお座敷犬として有名な狆みたい。
(あら? でも、最初の――泥だらけだった時は、柴犬より少し大きいくらいだった気がするんだけど)
わたしはその場にしゃがんで、まじまじと仔白狐を見る。
「あの……」
「神使デナクナッテカラ、ドンドン、霊力ガ弱マッテシマッテ。ソレニ比例シテ、私ノ体モ縮ンデシマッタノダヨ」
「それで子供みたいに?」
「子供カ! ナルホド、ナルホド。コレデモ、私ハ平安の世ヨリ、生キテイルノダガネ。マアマア、名ダタルきつね達ヨリハ若輩カ。人間デ言ウナラ、マダマダ、20代ノ青二才サ」
「はあ……?」
確かに、紫希にしろ、瑤子様にしろ、花盛りのお年頃に見える。
それでも15歳のわたしよりは年長であることには変わりないし。そもそも、神格を失ったとはいえ、おキツネ様だから、軽んじてはいけないけれど。
仔白狐は、仰向けでしばしジタバタしていたかと思うと、ぴょんっと跳ねて、普通に四ツ足で煉瓦道に立った。プルルッと、砂利を払い落とすように身震いする。
ちょっとカワイイ。
(……あら?)
尻尾が三又に分かれている。最初は泥がべっとりついていたから、それすらも分からなかった。人型では、尻尾は、大きくフサフサした1本の塊に見えたけれど。水干姿だったから、着衣の邪魔にならないようにしていたのかしら。
わたしがふんふんと観察するのも厭わず、仔白狐は真剣な眼差しで私を見上げる。
「ソウシテ、私モ、『モウスグ消エテシマウ』ト危ブンテイタトコロ、君ガ現レタ」
「わたし? でも、わたし。神職でもなければ、陰陽師でもありませんし。修験道とも無縁ですよ??」
「ソウダナ。ダガ、君ハ、私ヲ、私ノ訴エル通リ、【稲荷神の神使】ト認識シタ。ダカラ、私ハ、ソノ姿ヲ維持デキタ。タダ、【言霊】ノ呪力ハ、信ズル者ノ【数】ト【強さ】ニ依存スルカラ」
「それは、つまり……わたし1人が信じるだけじゃ、足りないって事ですか?」
「平タク言エバ」
仔白狐は開き直ったように言うけれど。
これって、なかなか大変なことじゃないかしら。
(だいたい神様がいない状態で、御社も無いのに、どうやって信者を増やせば良いっていうの?)
そして、たぶん、わたしが見捨てれば、「このヒト」は消える。
(それもなんか可哀想……)
迷った挙句、わたしは、おそるおそる訊いた。
「とりあえず、消えないようにする応急処置のようなものはあるんですか?」
「……。アルニハ、アル」
「それは、どんな!?」
「……」
ちょっと仔白狐は躊躇していた。
わたしは、ずずいっと身を乗り出して、再び尋ねた。
「ほら。何を遠慮してらっしゃるんです? わたしがあなたを見捨てても良いんですか!?」
「デハ……」
仔白狐は、カッ! と全身から閃光を放って、瞬く間に、しゅうう、とハツカネズミくらいの大きさに縮む。
「コレカラ、君ハ、【私】ヲ肌身離サズ伴ウコト。タダ、【私】ハ【穢れ】ニ触レルト、【悪鬼化】ガ進ムノデ、【私】ノ為ノ【宿】が必要。『ご不浄』ニハ連レテ行カナクテ良イ。ダガ、代ワリニ、毎日の【禊】ハ欠カサヌヨウニ。休ム時ハ、【私】ト同ジ【床】ニ就クコト」
「え!?」
わたしはうろたえた。
この大きさだと、完全に手乗り白狐だから、あの時みたいに犬と間違われて周囲から白い目で見られることはないけれど。
それにしても、四六時中、一緒だなんて。
一見簡単そうで、なんだかトンデモナイ事をお願いされてない!?
「……ちなみに、【宿】っていうのは?」
「満月ノ光ヲ1晩浴ビセテ浄化サセタ竹筒。モシクハ、純銀ノ小筒」
「満月までには、まだ7日あるし。わたし、純銀の御品なんて買えません」
「デハ、君ハ、【私】ヲ、襦袢ノ間ニ隠シテ、養ワナケレバナラナイ」
「襦袢って! 素肌じゃありませんけど、それに近いじゃありませんか」
和装は、素肌に下着としての肌襦袢を身に着け、その上に、長襦袢を重ねてから、着物を重ねる。でも、「襦袢の間」ということは、つまり、下着と中衣の間ということ?
「帯の間や袖の袂じゃ、ダメなんですか?」
「私ハ霊力ガ尽キカカッテイルノデ。人間カラ補充スルナラ、人間ノ氣ノ出入口ニ近イ方ガ効果的ダ」
「そんな……」
わたしは困ってしまった。
現在の姿は、小動物だし、廃神社では、女性だった。その姿だけ見ているなら、別段、気にならなかったかもしれないけれど。
今しがた、立派な偉丈夫の紫希の姿から変化したので、どうしても、「異性」の認識が拭い去れなくて。
「……」
すると、ハツカネズミみたいな手乗り白狐は、ぴょーいっ、とわたしの懐に飛び込んできた。けれど、モソモソと入り込んだのは、着物と長襦袢の間に挟んでいた懐紙入れの中――。
「仕方ガナイカラ。君ガ正シキ【宿】ヲ用意デキルマデハ、これデ我慢シヨウ。ダガ、ソノ代ワリ、『ご不浄』以外デハ、先ノ言いつけ通リ【私】ヲ離サヌヨウニ」
「わ……分かりました」
わたしは少しほっとしたのだった。
<執筆後記>
変幻自在なおキツネ様は、さしずめ「1粒で3度おいしい」状態でしょうか。
そういえば、「1粒で2度おいしい」って表現、慣用句じゃなくて、実は、江崎グリコ株式会社さんのキャラメル「アーモンドグリコ」の昔のCMキャッチコピーだったんですね~。
なんか普通に社会に定着してる感があったので、ちょっとビックリしました。
メディアの影響力がすごいのはいわずもがななんですが、このフレーズを考えられた方は、本当にすごい! だって、ものすごくイメージしやすい言葉ですもんね。まったく尊敬します!!
さてさて。ここから、巻き込まれ型ヒロイン・紗江の本領発揮というところでしょうか。いえ、酉田屋(悪の根城)潜入までは、もうちょっとかかりますけど。
次回からは、紗江とおキツネ様の奇妙な共同生活がスタートします!




