其之3 油揚げサンド
<ご挨拶>
初めましての方も、いつもの方も、ありがとうございます!
本作の前日譚にあたる短編『いわくつき令嬢は連敗中』が、
昨日8/22(土)のランキング
[日間]現実世界〔恋愛〕短編 18:00-19:00更新 56位に載っていました!
今までランクインした中で一番良かった順位なので、驚いたのと嬉しかったのと両方あったんですが――。どうやら、一度ランクインしたら、そこから最低24時間はランキングに維持されるらしい、とのこと。
そして、拙作の場合は、あっという間にランク外になってしまったので、「私もまだまだだなあ……」と勉強させられた感じです。
常連ランカーさんはすごいですね。どうやったら、あんな風に残れるものやら……。
わたしは、釣り目の美丈夫さんに、
「あのっ……ありがとうございます!」
と、ペコッと、深々、頭を下げた。
釣り目の美丈夫さんは、フッと笑い、山高帽を脱いでスッと胸の前に置き、異人さんみたいな颯爽とした仕草で軽く会釈した。
ちょっと格好良い。
しかして、おもむろにわたしの傍に寄って、帽子で口元を隠すようにして、こんな耳打ちをしてきた。
「……この間の御礼よ」
「!?」
見た目は、体格的にも明らかに男性なのに。
声は、あの涼やかな女性の声だった。
(ヨーコ様ッ……??)
わたしは目を剥いた。
そういえば、あの時、「人間に化けられる」って言ってたっけ?
その反応を面白げに、洋装のヨーコ様(?)は、くいと山高帽を被り直して微笑む。
「では。私も失礼するよ。本当は、ご店主ご自慢の珈琲にも興味があったんだけれどね。魅力的なお品書きばかりだから、すっかり迷ってしまって、なかなか決められなくて」
声は、元の、伸びやかで聴き心地の良い、艶のある程低い男性の声に戻っていた。だから、わたしも、ついつい、さっきの囁きは空耳だったのかしら? とも思ったんだけど。
しかして、洋装のヨーコ様(?)のテーブルには、まだ、飲料水とおしぼりしか置かれていなかった。本当に、まだ何も注文してなかったのだ。
「なんだか、空気を悪くしてしまったみたいだし。こちらへ訪れる道すがら、偶然、あちらの通りで見かけた蕎麦屋の稲荷寿司にも心惹かれてしまっていたから。本日は、諦めてそちらへ足を運んでみようか、と」
洋装のヨーコ様(?)は、立った席から離れ、速やかにお店を出ていこうとする。
すると、不意に、千代子さんが言った。
「あら。おいなりさんはありませんけど。油揚げのサンドでしたら、うちにもありますよ」
「油揚げ!?」
洋装のヨーコ様(?)は、驚きつつも目端がキランと光る。
千代子さんは朗らかに笑う。
「いえね、以前、パンの仕入れが足りなくなってしまって。それでサンドイッチを売り切れにしようとしたら、常連さんがずいぶんと残念そうになさったから。とりあえず、油揚げに具材を挟んで、表面をサッとフライパンで素焼きして、お出ししてみたんです。そうしたら、皆さん、存外『とっても美味しい』とおっしゃってくださって」
わたしは知らなかったけれど、そういう裏メニューがあったみたい。
「面倒な輩を撃退してくださったから、本日は、女将の私がご馳走いたしますよ」
「それは素晴らしい!」
洋装のヨーコ様(?)は、瞳をキラキラ輝かせて、退店するのを止めた。
これに、千代子さんも、うんうんと頷く。
「せっかくですから、どうぞ、お席もお替わりください。あちらのお席の方がゆったり出来ますし。こちらのお席のままでは、ご気分もよろしくないでしょう?」
千代子さんは、奥にあるステンドグラスが美しい窓際の席を勧めた。
先端流行男女にも大人気のテーブルだ。
この時、たまたま、前のお客が帰ったばかりで、ちょうど、その席が空いていた。
ヨーコ様(?)は、千代子さんのご案内に従い、新しい席につく。
千代子さんは、気を利かせてくれたのか、料理が完成したところで、わたしにヨーコ様(?)への配膳を頼んできた。
「イイ男じゃないか。あんなロクデナシに付き纏われるぐらいなら、ああいう御人に、お嫁にもらっていただいたら良いんじゃないかい?」
「はあ……」
それで、お代を無料にして、わざわざ引き留めてくれたのか。
嬉々とする千代子さんに、わたしは苦笑した。
(でも、御社を失くしたおキツネ様だし。女性だったもんね)
ヨーコ様は物凄い美人だけど、わたしはエス*〔:*百合、GL〕ではないし。そもそも、たとえ、異性でも、人間とキツネ(神様の御使い?)って、どうなのかしら??
(ただ、あのモフモフしたお耳と尻尾には、触ってみたいかも)
ハムとキュウリと塩もみキャベツと厚焼き玉子を挟んだ油揚げサンドは、厚揚げに近い分厚さのものを使っていたから、見た目はパンに見えるけれど。味は和風寄りなので、ヨーコ様(?)は珈琲でなく麦茶を頼んでいた。
犬や猫に日本茶を与えてはいけない、と聞いたことがあるので、キツネもきっとそうなんだろう。ただ、このお店の売りは珈琲だから、一旦はヨイショする感じで褒めたのかもしれない。
おキツネ様が人間の通貨を持っているかどうかも怪しいし。
(あの廃神社にお賽銭が残っていたかは分からないけれど。あれは、本来、ご祭神のためのものだから、ご神使が自分のために使うとは考えられない)
だから、唐突に蕎麦屋とか話に出したのも、ホントは、最初から何も頼むつもりがなくて、それとなく帰ろうとしたからだ、という気がする。
わたしは、ヨーコ様(?)のテーブルに、コトッとご注文の御品を静かに置く。
「お待たせいたしました」
「これは実に美味しそうだ」
ヨーコ様(?)は本当に嬉しそうに目を細めて、料理を眺めていた。
一応、「サンド」と銘打っているので、手づかみで食べる料理だけれど。パンと違って、油揚げは油分が手についてしまうので、手で持つ際の更紙が添えられていた。
わたしはその説明を終えて下がろうとすると、ヨーコ様(?)は、
「せっかくだから、君も」
と、一緒に席で食べるように誘ってくる。
「いえ、流石に、お客様のお料理を戴くのは。周囲の目もございますし」
「では、私が食べる間、話し相手になってもらうのは?」
「えっと……」
わたしが戸惑っていると、遠くからこっそり様子を伺っていた千代子さんが、「お受けしなさいよ」みたいな目配せをしてきた。
このお店で一番偉い女将の千代子さんに勧められたら、わたしもお断わり出来ない。
「では、少しだけ」
「ありがとう」
わたしが向かいの椅子に腰掛ける様を見て、ヨーコ様(?)はニッコリと柔和に微笑んだ。
(うわ)
その笑顔は、廃神社で会った狐耳の美女に似てはいたけれど。
男性になると、あどけないイタズラっ子のような印象と、余裕に満ちた紳士の雰囲気が絶妙に混ざり合って、すごくまぶしく見えた。
<執筆後記>
今回は、文字数の関係で、グルメ回みたいな内容になってしまいました……。
自分で書いておきながら、「油揚げサンドって、どんなんだろう……?」と思って、web検索をかけてみたら、普通に低糖質レシピとして、いろんな画像が出てきて、ちょっとビックリしました。
そして、パッと見、本当にサンドイッチに見える……。
美味しそうな見た目ですけど、あれは、はたして主食なのか、副菜なのか……?
ストーリーは、一旦、足踏みした感じですが、次回から、ちょっとずつ物語が動き出します!




