其之2 女給仕事もなかなか大変です ~勘違い客って、まったく面倒よね!
<お知らせ>
初めましての方も、いつもの方も、ありがとうございます。
いよいよ始まりました新連載ですが――。
同日8/21(金)に、このプロモーションのための短編も投稿しております。
(短編といいつつ、15,000文字近くありますが……)
スピンオフというよりは、この中編連載の前日譚のような位置づけです。
既にお読みの方もいらっしゃるかもしれませんが、まだ未読で、お気になられた方は、是非とも、こちらをご覧ください。
『いわくつき令嬢は連敗中』(https://ncode.syosetu.com/n2941mq/)
※この短編では、主人公が別キャラに替わっています。
(本作のおキツネ様がチョイ役で出ています)
どうやら、こちらの短編、なんと、本日、8/22(土)のランキング
04:00-07:00更新[日間]現実世界〔恋愛〕57位
11:00-12:00更新[日間]現実世界〔恋愛〕59位
に入っていたようです!
私はこれまで、これほどの順位でランクインできたことが無いので、本当にびっくりしました。
ご評価くださった方、心より御礼申し上げます!!
こういったことは、本当に励みになりますので、この連載の方も、一生懸命頑張って、しっかり完結まで執筆しようと思います。
翌日、女学校はお休みの日だった。
という訳で、わたしは、純喫茶「ともしび亭」で女給仕事にあくせく励む。
着物にフリルのついた白エプロンを重ねると、なんともハイカラで可愛らしいので、わたしも気に入っている。でも、この装いのために、風俗喫茶の女給と同列視してくる失礼な男性客もたまにいるので、それが頭が痛いというか。
そうはいっても、純喫茶「ともしび亭」は、店主こだわりの珈琲と美味しい軽食が楽しめるので、なかなかの繁盛店だと思う。だって、ひっきりなしにお客さんが訪れるもの。
女将の千代子さんの旦那さんで初代店主の、松吉さんは既に他界しているので、現在の店主は2代目。千代子さんのご長男、長雄さんが務めている。その奥様のアサさんは、現在、身重だ。3人目のお子さんが臨月に差し掛かっている――ので、お店の手伝いが難しい。
わたしが住み込みで純喫茶「ともしび亭」に雇われることになったのも、この家族経営のお店で、アサさんという貴重な戦力が不在になったから、という天運の巡りがあったともいえる。
だって、厨房助手さん、給仕さんは、男性ばかりだし。
道重家には、店主のお子さん達を看る女中さんも1人だけいるんだけれど。その女中さんもまあまあのご高齢で、もう1人ぐらい、若手のお手伝いが欲しかった、って感じだったんじゃないかな?
そして、千代子さんには、次男さんと三男さんもいらっしゃるけど。
2人とも既に独立して、別の家で暮らしている。
次男の嚴助さんは、銀座の外れに進出した純喫茶「ともしび亭」の2号店を任されていて。三男の仁志さんは、著名な彫刻家に弟子入りしているらしい。
ともあれ、わたしがせっせとお客様のテーブルへ、ご注文の御品を運んでいると、カランカラン、とお店の出入口の鐘が鳴った。
「いらっしゃいませ」
反射的に、一番戸口に近かったわたしが、お出迎えにいったのだけれど。
来店したのは、容姿は悪くないものの、傲慢なバンカラ青年だった。
(……嫌なお客に当たってしまった)
初めてではない。いつも、だいたい決まった時間に来店する人。
そして、わたしはこの人が苦手だった。
「どうぞ、お席へご案内いたします」
「うむ!」
鼻息荒く頷く様に、わたしはげんなりして、「これはお仕事だもの」と思考を切り替え、女給らしく頭を下げた。このバンカラ青年のお気に入りの席へと案内する。
予約している訳ではない。けれど、いつも同じ時間帯、同じ場所に座るので、お店側も常連さんも、自然とその席を空けるようになった。
だって、前に、この人、違う席になって大暴れしたことがあるから。
「それでは、ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください」
給仕の定型文を述べて、わたしが待機所へ戻ろうとすると。
バンカラ青年は、ぐいと、わたしの手首をつかみ、強引に引き寄せた上でわたしの顎を持ち上げた。
「おいおい。逃げるなよ! 紗江」
「別に逃げてません」
「それより、おまえ、今日こそ、オレのものになる気になったか?」
「おっしゃっている意味が分かりません。あなた、どこぞの華族様のご令嬢とご婚約なさっているんですよね?」
「だから何だ? せっかく、見目だけは良い、貧しい家の出のおまえを、このオレが囲ってやろうと言ってやってるんじゃないか」
「お妾制度は、とうの昔に廃止されたはずですよ?」
「名家の跡取りは、実質、黙認されてるだろ。嫁に子が出来ないと御家の大問題だからな」
こんな風に偉そうに口説いてくるのは、羽振りの良い呉服商、酉田屋の跡取り息子、坪井豪太だ。
酉田屋は、元は呉服だけを取り扱っていたが、時流に乗って、洋服の仕入れも増やしたから、ハイカラを気取りたい顧客の人気を得て、莫大な利益を築いたらしい。
とはいえ、自分で「名家」って言う辺り、いけすかない。
本当に歴史ある御家ならいざ知らず、千代子さん達によると、この人、ただの成金のワガママお坊ちゃまだから。
(一代で華族様並みの資産を築いたのはすごいけれど。それ、アンタの功績じゃないでしょ!)
わたしは、そう軽蔑の眼差しで、この横暴者を見下ろしていたんだけど。
「大口叩いていられるのも今のうちだぞ。オレは、この前、親父から引き継いだ仕事で一山当てたんだ。オレはどんな女も選び放題だが、おまえみたいな辛気臭い女、誰が相手にするっていうんだ」
「辛気臭くて結構です! わたしは女学校で学問を身に着けて、自分自身で進むべき道を選びたいの。あなたみたいなロクでもない男性にすがって生きるなんて、冗談じゃない!!」
わたしが啖呵を切ると、豪太は、一瞬、引き攣った顔で怯んだけれど。
「なんだと! こいつッ……女のくせに!!」
「キャッ」
こめかみに血管を浮かせて、わたしに手を上げようとした。
すると――。
パシッ!
わたしを平手打ちしようとする豪太の腕を、大きく骨ばった手が止めた。
「やれやれ。物騒だね」
「……??」
わたしは、一瞬つむりかけた目を見開く。
なんと、すぐ隣の席に座っていた男性客が、頓に立ち上がって、割って入ってくれていたのだ。
豪太より5寸*(:*約15cm)くらい背が高い。山高帽に三つ揃いを身に着けた、釣り目の美丈夫さん。その眼は日本人には珍しい琥珀色だった。
彼は、不敵な笑みをたたえて豪太の暴挙を制止し、冷ややかに言い放つ。
「いくら社会的地位が高いからといって、安易に婦人に手を挙げるのは、紳士のやることではないな」
「何だよ、おまえ!」
腹立たしげに顔を歪める豪太は、容姿も立ち居振る舞いも、その人に完全に負けているので、たぶん、悔しかったんだと思う。
「ちょっとちょっと、お客さん! うちは、ゆっくりとお茶とお食事を楽しむ店だよ。喧嘩なら余所でやってくんな!!」
女将の千代子さんが豪太らに向かって怒鳴りつけた。
千代子さんは、普段は、純喫茶の女将さんらしく、お洒落で物静かで上品なマダムなんだけれど。根はチャキチャキの江戸っ子なのかしら? ここぞという時は、割と荒い口調になる。
そうして、周囲のお客さんもザワザワしていた。
みんな、よくいらっしゃる方々ばかりなので、豪太の素行が悪いのは周知している。だから、明らかに「またコイツか」という感じ。
それで、釣り目の美丈夫さんは「失敬」と詫びつつも平然としていたけれど。
豪太の方が先に、
「クソッ……!」
と、苦々しく吐き捨てながら、無袖外套を翻し、尻尾を巻いて逃げるように退散した。
<執筆後記>
純喫茶とか、着物+エプロンとか、ロマンがあって良いですよね♪
大正時代って、たった15年しかないのに、なぜか、物凄くキラキラ輝いている気がするというか。
現代でも、レトロブームで、明治~大正はもちろん、昭和~平成まで人気になっていると聞くと、なんとも時代の流れを感じますなぁ……。
さてさて。
第2話にして、早速、短編『いわくつき令嬢~』のクズモブ君(その2)が登場した訳ですが。
次回からは、いよいよ、おキツネ様によるTSラブコメ感マシマシになってくるので、乞うご期待!




