其之28 類は友を呼ぶ
<ご挨拶>
初めての方も、いつもの方も、ありがとうございます!
今回までは、「いちゃラブ」や「プチざまぁ」があったので、ジャンル的にも〔恋愛〕かなと思ったのですが。
この先、ダークでヘビーな群像劇っぽい感じになってくるので、とりあえず、ジャンルを〔ヒューマンドラマ〕に変更いたしました。
また、このシルバーウィークの間に本連載が一時ランクインしていたようです。
・26/9/18(金)4:00-7:00更新 36 位ほか [日間]ヒューマンドラマ〔文芸〕
・26/9/21(月)4:00-7:00更新 97 位 [週間]ヒューマンドラマ〔文芸〕
ご評価くださった方、まことに感謝御礼申し上げます!
ランクイン後にこの勢いを維持できないのは、自分の力不足を如実に感じて、「まだまだ頑張らないといけないなあ」と反省するところではありますが。
それでも、こうしたご反応を戴けるのは本当に励みになります。
皆様、これからも、どうぞよろしくお願い申し上げます。
結局、豪太は、あのまま戻ってきそうもなかったので。
さっきまで、甘えん坊なフリをしていた紫希も、速やかにわたしから離れ、スッと姿勢を正した。嘘泣きだったから、琥珀の瞳も全然濡れてなくて。
夕紀子さんも察したように、わたし達に何も訊いてこなかった。
1人ついていけてない、わたしは、日が傾きつつある路地で、ぽかんと立ち尽くすばかりで――。
「もう……! いったい何だったの……!!」
かたや、紫希は半眼で呆れながら、大きな溜息をついた。
「……やれやれ。あれしきで当たり散らすとは。辛抱足りぬ小僧だ」
そうして、ふと、夕紀子さんに向き直り、
「――豪太が他を気遣えない小者であるのは、大方、想像ついていたが。夕紀子嬢。貴女は、如何様にして、本日はご帰宅されるご予定だったのです?」
と、やんわり尋ねた。
「え」
夕紀子さんも目をぱちくりさせながら、気後れしていた。
「そ、そうですわね……。本日は、あちらの百貨店で、お約束のお時間までご一緒する予定でしたから、午後6時には、我が神宮寺のお迎えのお車が、あちらの駐車場にくる算段で」
「なるほど。6時――まだ小1時間ばかりは空いておりますね」
紫希は、どこから出したのか懐中時計を手にして、「ふむ」と思案巡らせる。
その後、紫希は、ちらと、蘇芳屋さんが建っている方向に目を遣り、じいっと穴が開くくらい遥か先を眺めた。何か、ふつふつと、したたかに訴えるように。
〔-・・・ ・-- ・・・- ---- ・- ・・--・
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わたしには、折り重なる街並みの陰で隠れて、あの建物なんか全然見えてなかったんだけど。紫希はおキツネ様だから、千里眼でも持っているのかしら。
そうしたら、それに呼び寄せられるみたいに、ちょっと間を置いて、九鬼さんが血相を変えた風にバタバタとこちらへ走って来た。
「夕紀子!」
「庚興さんっ!?」
夕紀子さんは驚いていたけれど、瞬時にカアッと恥じらう乙女の顔になった。
九鬼さんはガバッと夕紀子さんを抱き締める。
「ああ。なんと可哀想に! こんな場所にか弱い君を1人、置き去りにするなんて!!」
この場にいなかったのに、九鬼さんは、この状況を悟っているみたいだった。
その九鬼さんの逞しい腕の中で、夕紀子さんは、ドキドキした様子で「はあ」と感嘆を漏らす。照れつつもウットリしているのが一目瞭然だった。
「わ……、わたくしは大丈夫ですわ」
「本当に? ああ。しかし、君も行く宛が無いのだろう?」
「え。ええ……。はい。けれど、庚興さんは、どうしてこちらへ?」
「教えてもらったからさ」
九鬼さんは、戸惑う夕紀子さんをいたわる微笑みを向け、その頬を優しく撫ぜる。
「え?」
夕紀子さんは目を丸くするものの――。
九鬼さんは、キッと鋭い瞳で、ちらと、紫希に一瞥くれた。
すると、紫希もニッコリとやや嘘くさい笑みを返す。
この2人の遣り取りに、夕紀子さんもまた「ああ……」と納得したように頷いた。
「貴方に助けていただくなんて。もう2度目ですわね」
「はい。お役に立てて何より。【縁結び】は私の得意とするところですから」
紫希は酷く愛想のよい感じで相槌を打つ。
ということは、さっきの――。
紫希は、思念波か何か霊的な方法で、九鬼さんに夕紀子さんのことを伝えて、「迎えに来て」って頼んだのかしら?
(紫希はアヤカシだから当然だけど。九鬼さんも、その手の御力、持ってらっしゃるなら、ありえないことではないわ)
わたしも「うんうん」と首を縦に振って、1人納得する。
「さ、早く、我が蘇芳屋に」
「は、はい……!」
九鬼さんに誘われ、夕紀子さんは嬉しそうにはにかんでいた。
紫希はクスと微笑む。
「これで【借り】は返しましたよ。後はどうぞ、お2人で。そちらの事はお任せいたします」
「……」
九鬼さんもペコリと軽く紫希に頭を下げる。
「面目ない」
「いいえ。お互い様ですから」
紫希がスッと瞼を伏せる様に、わたしはわたしで、ドキッとした。
余裕に満ちた姿が、わたしには、すごく頼もしく見えてしまったから。
(なんだかんだ言って、紫希、やっぱり神様の御使いなんだわ)
そうして、わたし達と夕紀子さん達は、「じゃあ、また今度」といった感じにお別れの挨拶をして、この日は、それぞれ、自分の帰るべき場所へと帰っていった。
だけど――。
わたしは、家路の路面電車の中で、紫希に訊いた。
「……ねえ。九鬼さんに言った『借り』って何のこと?」
「ああ。それは」
紫希は、スッと、新たにわたしの首に掛かっている純銀の筒型ロケット・ペンダントを指差した。あの蘇芳屋さんで、24回払いの月賦で買わせていただいた、アレだ。
「どうやら、彼は、君にそれを手渡す際、【オマケ】を付けてくれたみたいでね。【君の懐紙入れ】を【仮の宿】にしていた時より、いくらか【融通】が利くというか。【紫希の姿】を、若干、長く留めることが可能になったようだ。ゆえに、その御礼」
その「オマケ」が何かは、わたしには分からなかったけど。
九鬼さんは、たぶん、その手の呪法を心得てるんだろう。
わたしも嬉々とする。
「そうなの……っ!? じゃあ、今夜は――」
「いいや。今宵ももちろん、【吸わせ】ていただくとも」
「えええっ!?」
一瞬でも安心した、わたしが馬鹿だった。
すると、紫希も、至極残念そうな顔をする。
「なぜ驚く? 考えてもみてくれ。本日は、庚興を呼ぶのに霊力を使ってしまった。無論、きちんと下宿先まで持続できるよう調整しているため、途中で『解けて』大惨事になることはないが。それでも、帰ったら補充せねば。私が私で在ることができなくなってしまう」
紫希の言うことも分かるし、あのまま、夕紀子さんを放置する訳にはいかなかったから、仕方ないのかもしれないけれど。
「そ、それなら、わざわざ、お霊力使わなくても、わたし達で夕紀子さんを蘇芳屋さんにご案内すれば――」
「ほう? では、もし、君が夕紀子嬢だったら、どちらが良いかね?」
「どちら……?」
「ただの友人に付き添われるのと、想い人に迎えに来てもらうの」
「そりゃもちろんっ、想い人――」
「――だろう?」
「……ッ!!」
紫希はクククと笑う。
見透かされた感じのわたしは、思わず紅潮して、拗ねたようにうつむいた。
そうしたら、紫希は、わたしの肩を抱き、その耳元にそっと口寄せ、密やかに囁いた。
「……知っているかね? 荼枳尼とは、密教由来の天*(:*神)だが、我等が稲荷神とも習合していて。我が国では、白狐に乗る天女として描かれるのだ」
「!!?」
わたしはドキンと閉口した。
「フフ。まるで、白狐と巫女のようではないか」
「わ、わたし……っ、は、その……っ! ふ、普通の女学生で……っ!!」
「だが、私の宿主であることに変わるまい? 狐精の白銀の毛並みは、絹の褥にも勝るのだぞ」
「あ、琥狐がモフモフでフワフワなのは、知ってますケド!」
「だが、紫希の尾に包まれたことはないだろう?」
「……っ」
だって、それって、たぶん、「そういうコト」だよね? っていうか。
でも、ここは、額面通り受け取ったらダメなヤツな気がする。
紫希はずっと不敵に笑っている。
「ああ。まったく今宵がまこと楽しみだな」
「……もう!」
このおキツネ様は、本当にひねくれているというか、少しイジワルだ。
でも、そんな彼に惹かれて、うんざりしながらも応えて、かえって求めてしまう、紗江は、結構、イケナイ女の子なのかもしれない。
<執筆後記>
徐々に紗江とおキツネ様の距離が近づいている様子。
また、夕紀子と庚興は幸せな結末を迎えられるのか?
と、いったところでしょうか。
あの一時退却した悪党のことも含め、それぞれの思惑や因果が交錯する中で、「ざまぁ」&「ハッピーエンド」を目指さなければなりませんが。
次回は、ちょこっと女学校ターンです。




