其之27 口八丁手八丁
<ご挨拶>
初めての方も、いつもの方も、ありがとうございます!
ここまで、毎日、休まず投稿を続けてきた本連載ですが――。
流石に、少しつらくなってきました。
更新しても、さして読まれることもなく、感想もなく、評価もされず、ブクマもつかず……。(それにこだわる訳でもないですが、ポイントがないと一瞬で流れて、読まれないまま埋もれる悪循環は、どうにもならず……)
そのうえ、当方の【代表作】を「ゆるパク」してきた「剽窃者」には、そちら共々、この【新作】まで、「ネタ帳」として狙われている様子。
精神衛生上、まったくよろしくない状態となってきましたので。
自分の力不足も反省してますし、
これまで熱心にお読みくださった皆様には、誠に申し訳ないのですが。
これからは更新ペースを下げようと思います。
この週末からシルバーウィークに入りますし。
予定としては、【週1~2回】くらいで。
【お昼】か【夕方】かに更新できれば良いかと考えておりますが、
その時のコンディションに左右されるので、どちらとも言えません。
なんとも心苦しくあるのですが、当方もメンタルヘルスに気をつけながら、
完結を目指して頑張っておりますので、悪しからず。
「おいっ! 何やってんだよっ、紗江ッ!!」
ぐいっと、突然、乱暴に腕を引かれ、怒鳴られたので、わたしは驚いた。
「オレというものがありながら、こんなにやけたヤツとっ!!」
振り返ると、そこには、あの傲岸不遜なバンカラ男子、酉田屋の跡取り息子、坪井豪太がいた。
というか、よりによって、紫希に向かって「にやけた」だなんて。
〔これより逢魔ヶ刻になるゆえ、若い娘の1人歩きは危険だ〕
そう告げて、蘇芳屋を出た後、瑤子様は、まもなく、人目につかないところで紫希に変身してくれた。ただ宿主を守るためだけに。
けれど、男性なのに綺麗すぎる紫希は、そのままじゃ通行人の注目の的だったから、わたしは「もっと目立たないようにして」とお願いせずにいられなかった。
そうしたら、ちゃんと、丸眼鏡を幻術で出して、掛けてくれて。
そんな紫希を馬鹿にするだなんて。
(紫希は、卑怯で性根の腐った豪太よりもよっぽど漢らしくて素敵ですけど!?)
瑤子様の時でさえ、おきゃんっぽいのに。
見た目が中性的だし、丸眼鏡掛けてるし、偏見でそう罵倒したのかしら。
(あ。でも、『にやける』って『色っぽい』って意味もあるから、そこまで変じゃないか)
そうして、激しく怒り狂う豪太の後ろには、少し狼狽した風の子爵令嬢・神宮寺夕紀子さんがいた。
(……うわぁ。夕紀子さん、また、無理矢理、豪太と逢引させられてるのね。御家のためとはいえ、本当にお気の毒というか、お可哀想)
だって、よりによって、この界隈は、夕紀子さんの想い人、蘇芳屋社長九鬼庚興さんがいらっしゃる場所だもの。
そんな風に、わたしが夕紀子さんのことばかり気にしていると、書生姿の紫希が、冷ややかなまなざしで豪太を見下ろし、このわたしの腕つかむ不埒者を力ずくで振りほどいた。
「ギャッ! 痛てててっ……」
「――私の連れに何か用かな?」
苛立ちを見せながら睥睨する紫希に、豪太は、案の定、ブルッと身をすくめる。
けれども、前とは異なり、それも一瞬で終わり。
たちまち、豪太は、カッとなって反論した。
「お、おまえこそ何だよっ! 紗江は、オレが先に目をつけた女だぞ。横取りすんじゃねえよっ!!」
「……。横取り?」
紫希は腕組みしながら、フンと鼻で嗤った。
「そもそも、女人連れで申す言葉ではないな。それとも何か? そちらのご令嬢は、君の御姉妹だとでも??」
「ご冗談おっしゃらないでくださいな。わたくしと、この御方がそのように見えて? ただの御家同士が決めた許婚ですわ」
豪太より先に、夕紀子さんが怒ったように口を挟んだ。
でも、これは、たぶん、豪太をかばったというよりは、コイツの姉妹扱いされたのが単にご不快だったんだわ。
(わたしでも、そんなのに間違われたら嫌だもの)
そうして、豪太もまた、気まずくなったみたいに「うっ!」と口ごもる。
たぶん、夕紀子さんの怒りを嫉妬と受け取ったらしく、思いっきり及び腰になっていた。
わたし達からすれば、「違う違う。おまえじゃないよ!」って感じなんだけど。
一方、凛とした夕紀子さんは、ジッと紫希の顔を見上げ、「……」と考えた後、
「わたくしは、子爵・神宮寺廣宗の娘、夕紀子と申します」
と、スッと紫希に向かって握手を求めた。
おそらく、訝る雰囲気はありつつも、そこに敵愾心は無かった、というか。
どちらかというと、夕紀子さんとしては、好意的に捉えたいけど、判断に困っている感じ。
紫希はきょとんとするも、すぐにニッコリ微笑んで、
「これはどうも。狐上紫希です」
と、穏やかに握手に応えた。
「貴女が夕紀子さんでしたか。貴女のことは、紗江からよく聞き及んでおります。ご友人なのですよね?」
「ええ。そうです。貴方、狐上さんとおっしゃるの? 珍しいお名前でらっしゃること」
普通に初めてっぽい挨拶をする2人に、わたしも戸惑う。
(というか、紫希も夕紀子さんも、あの神社で一度会っているはずよね? 御守り授与したんだもの。まあ、紫希は知っていても、この状態では、夕紀子さんの方が初対面になるから、気を使っているのかしら??)
すると、夕紀子さんは紫希に尋ねた。
「お2人はお付き合いなさってらっしゃるの?」
「え!」
思わず、わたしの方が変な声が出た。
しかして、紫希は極上の笑みを浮かべて、
「はい」
と。自信満々に答えていた。
途端に、わたしもボッと顔から火が出てしまう。
しかして、豪太は過剰に反応して、わたし達――というか紫希に向かって、さらに激昂して喚いてくる。
「フザケんじゃねえっ! 紗江はオレの女だっつってんだろっ!!」
「ほう……? では、君は1つ褥で彼女と夜語りしたことがあるのかね?」
飄々と訊き返す紫希に、豪太はギクッと怯んだ。
「うぐっ……! それは……っ」
「ちょっと! 紫希! こんな公衆の面前で変なコト言わないでってば!!」
わたしがたまらず声を上げると、紫希はクスクスと目を細めて、そろりとわたしの頬に触れる。
「ああ。すまないね。紗江。こんなに愛らしい女の寝顔は、私だけが堪能すれば良いので、敢えて牽制するのも無粋だったかな?」
「……! だからっ……」
「そうそう。昨夜の君もまこと可愛らしかったよ。月明りの下、瑞々しくもふくいくたる梅の蕾が花開く様を味わうは、鮮やかに生気を呼び覚まされ、幽玄に達する悦び、この上ない。再び、あの迦陵頻伽の声が聴けるかと思うと、たいそう待ち遠しくて、陽竿立てる真鯉の夢より現に酔うて、胸躍る」
って。今、梅の季節じゃないし!
黒い鯉幟とか、もう意味わからない。
それどころか、紫希は、ちゅっと、わたしの頬に軽く接吻までしてきて。
「私の荼枳尼。今宵も夜もすがら熱く語らい合おうとも」
「!???」
なんて、とかくものすごく含みある言い回しばかりする。
こんな悪乗りおキツネ様に、わたしどころか、夕紀子さんまでが唖然として、「あわわわ」って感じに、その顔が真赤になっていた。
対する豪太は、みるみるうちに、その相貌が蒼褪めていって。
「ばっ、ばばばばバカ言うんじゃねえっ! 紗江っ! なんで、おまえ、こんなスカした男にあっさり股開いてやがんだよっ!! おまえの破瓜は、このオレが遂げてやる、って思ってたのに!」
「はっ――……!?」
わたしは絶句した。
いえ。あの忘れ物を届けた時から、豪太にそういう企みがあったのは分かっていたけれど。
よりによって、それを婚約している夕紀子さんの前で口走るの!?
「か、勘違いしないでくださいっ! わたしと紫希は、接吻こそしたことありますけどっ、そんなことまでする間柄では……っ」
「酷いな。紗江。私はいつでも君のことばかり考えて、日ごと、君と繋がらずにいられないのに」
しゅんとして見せる紫希に、わたしは目を白黒させて、口をパクパクさせた。
(おキツネ様が関心あるのは、宿主から、どうやって【氣】を補充するかだけでしょうっ!?)
特に、「繋がる」だなんて。
たぶん、あの膻中に入っている呪術契約印のことを言っているはずなんだけど。
紫希がほんのりと頬を赤らめる所為で、艶話に聞こえる不思議。
同時に、ピトと、このヒトにくっつかれ、たちまち絆されてしまう――わたし。
「君に見捨てられては、私は生きていけない……!」
紫希は、すんすんと、どう見ても嘘泣きで、わたしにすがって甘えてくる。
そして、大の男の嘘泣きなのに、なぜか、その仕種がワンコみたいに可愛く見えて、わたしも、ついつい、いつもの琥狐の感覚で、ヨシヨシしたくなってしまう。
「もうっ。そんなコトおっしゃらないでくださいってば。わたしだって、ようやく貴方に慣れてきたところですし――」
「ああ……。紗江……っ」
熱っぽく見つめ合うわたし達の横で、ギリ、と豪太が歯噛みした。
「ええいっ! クソッ! なんだよっ、このエセおぼこがっ。そこまで馴染むほど、毎晩ソイツとずっこんばっこんヤリまくってんのかよっ!?」
「ヤダ! 変なこと言わないでよっ!!」
いえ。接吻してるのは本当だけど。
ただ、周囲に不純異性交遊だと思われるのは、わたしとしては、恥ずかしい事この上なくて。
「わたしは天に誓って清いカラダです! でなきゃ、依坐なんて……」
言いかけて、わたしは「アッ」とうろたえ、自分の口を手で塞ぐ。
でも、すっかり頭に血が上った豪太の耳に、ソレは残らなかったようだ。
「あーっ。こんちくしょうっ。やってらんねえっ! この売女がっ。覚えてろよっ!!」
豪太は被っていた学生帽をバシッと路面に投げ捨て、許婚の夕紀子さんを置いて、どこかへ行ってしまった。
わたしは、とりあえず、ハッと夕紀子さんを振り返った。
夕紀子さんも拍子抜けしていたものの――。
「い、いえ……そう。あなた達って、そういう……。あ。いえ……。何でもないわ……」
多くは語らなかったけど、その表情を見るに、夕紀子さんには、わたし達が恋人同士とは別のものに見えていたみたい。
「巫女さんなんて。大変ね」
「巫女……」
わたしは目をぱちくりさせる。
そっか。わたし、因果的には、「そう」なっちゃうんだ?
わたしなんて、ただの凡人で、霊感なんてないのに。
そうして、夕紀子さんは、豪太と婚約破棄したがっているだけあって。
当然、しっぽ巻いて逃げる許婚の背を追いかける気なんて、さらさら無かったようだ。
<執筆後記>
まあまあ、少女漫画あるあるな感じというか。
小悪党ってこうだよね、な展開です。
ちなみに、本作は、大正時代が舞台のお話なので、敢えて、ちょいちょい古めかしい言葉を使っています。
いくらファンタジーといっても、あの時代の人が現代語を話しまくるのは、さすがに違和感があるというか。
(現代人が転生しているなら、むしろ、現代語をガンガン入れますが)
なので、死語や「そんな言葉、今頃使う人おらんやろ」と思われるものでも、わざと世界観維持のために使っています。
気になった方はネット検索してみるのも面白いかもしれませんね。
語彙力もつきますし。
さてさて。次回もこの流れを踏襲する感じで。
悪党が去った後は、イケメン・ヒーローの出番だよね、というか。
一応、本作のヒロインは紗江なんですけど、エピソードの都合上、夕紀子にも頑張ってもらわないといけないこともあり。
ダブル・ヒロインとまではいきませんが、ちょこっと「そんな感じ」になりつつある本作です。




