其之24 おキツネ様とヤンデレ社長
<ご挨拶>
初めての方も、いつもの方も、ありがとうございます!
満を持しての「彼」の参戦ということで。一応、告知をば。
この庚興がメインの短編を26/08/25(火)に投稿しております。
もし、まだ未読で、お気になられた御方は、併せてご覧ください。
☆短編『ヤンデレハイカラ紳士は、いわくつき令嬢を愛でたくて仕方がない』
〔https://ncode.syosetu.com/n6593mq/〕
※独立したお話ですので、これを読まなくても、本連載に差し支えないですが、おキツネ様達の関係性がうっすら垣間見える感じです。
この挨拶を認めた社員さんは、「では、私はお茶を入れて参ります」と一礼して、速やかに社長室を出ていった。
一方、九鬼さんは、わたし達に「どうぞ」とソファーに掛けるよう、上品に勧めてくれた。
わたしも「ありがとうございます」と返事したついでに、
「あの。これ。昨晩の御礼です」
と、手土産を九鬼さんにお渡しした。
「ほう。これはかたじけない。かえってお気をつかわせてしまって、すまないね」
「あ。いえ。こちらも本当に助かりましたから」
わたしもはにかんでペコペコと頭を下げた。
九鬼さんはクスと小さく笑う。けれど。
「――それで? 君の方は何をしにきたのかな??」
じろ、と九鬼さんはモガな瑤子様を睨む。
「サイカ」
(『サイカ』って……『彩迦』!? じゃあ、九鬼さん、やっぱり……)
ホントは【このヒト】がキツネだって、分かってるんだ――。
思うや、わたしはドキンと緊張した。
しかして、瑤子様は白々しく天女の笑みで返す。
「狐上瑤子です」
「はは……。ヨーコか。なるほど、なるほど」
九鬼さんは少し呆れていた。
「いや。君が、昔から茶目っ気あるのは知っているのだけれどね。どうして、そんな姿をしているのかな? それでは、どうにも調子が狂って仕方ないんだが」
「――調子。お目当ての女性以外、どうでも良い貴方なんですから、私がどのような様子をしていたって構わないじゃありませんか」
「いやいや。確かに君は美しいが。そういう意味でないことは、君にだって分かるだろう?」
「いえ。分かりませんね。恋しさあまりに嫉妬深くなり、想い人にさりげなく奇妙なご監視をつけられる御方のご思考など」
「サイカ」
「瑤子です」
キッパリ切り捨てる瑤子様に、九鬼さんも「……」と癇に障ったみたいだった。
折しも、コンコン、とノック音が鳴り響き、あの社員さんがお茶を運んできた。
途端に、九鬼さんも瑤子様も、何食わぬ笑顔で「ありがとう」と給仕を受ける。
「なんて変わり身の早い人達だ」とわたしだけが呆然としてしまったけれど。
社員さんは何にも気づかないまま、「では」とまた退室した。
すると、九鬼さんがムスッと拗ねたような顔でわたしを見る。
「神谷さん。君からも【彼】に言ってくれないかな? その妙な扮装は早く解いてくれ、と」
「え。彼?」
「狐上さんは、元はそういうヒトでないだろう?」
九鬼さんがこう言うって事は、このおキツネ様、元々は、瑤子じゃなくて紫希だってコト!?
(……それなら、わたしはすっごく嬉しいかも!)
わたしは、話途中ながら、「むふふ」と頬を染めて、にんまりと笑ってしまう。
だって、わたし【エス】じゃないし。
妖艶で綺麗な瑤子様も素敵だし、同性として憧れる感じはあるんだけど。
わたしは、やっぱり格好良くて、どこか気品と野性味併せ持つ、知的で美麗な殿方である、紫希の方が好き。
しかして、ハッと九鬼さんと目が合い、ちょっと呆れられてるみたいなのが恥ずかしかった。
「陰と陽が補完し合ってこそ、中立が保たれ、平穏が訪れる。縁を結んでいる君なら、充分、存じているはずだが」
「え……縁って……!」
「隠していても分かるとも。君の胸に、【彼】との強い繋がりの波動が渦巻いている」
揺るぎない烈火の瞳で言われて、わたしもギクッとする。
そういえば、わたし、今の今まで、全然気にしてなかったけれど。
九鬼さんは、血のように赤い瞳をしていたんだ、って。
(これって、普通に考えたら、【普通じゃない】わよね?)
この気まぐれおキツネ様が黄金みたいな琥珀の瞳だから、自然と、なんか「そういう御人もいるのね」みたいな。だって、九鬼さん、西洋人みたいに大柄で、日本人離れしすぎてたし。そういう方面の混血児なのかしら、って勝手に勘違いしてしまって。
(とりあえず、あの眼の色と関係あるかは不明だけれど。九鬼さんは霊能力か何かをお持ちの御方なのね)
わたしは、そう納得して、「うんうん」と1人頷く。
そのまま、チラと、わたしの隣に座る瑤子様を見た。
「ですって! 九鬼さんは、ロマンス目当ての女学生を避けられるほど誠実な御方のようだもの。同性が相席している方が、居心地が良いんじゃないかしら?」
「……やれやれ。君も単純だな。縁を結ぶ私より、こんな男の言いなりになるなんて」
モガな美女姿のまま、瑤子様は、声だけが野太くなる。
ほどなく、ポムッと紫煙が弾け、モガな美女は、黒髪短髪の和洋折衷な書生風の美青年になった。
わたしもきらりんっと目が光った。
(ワッ! 初めて見る格好っ)
詰襟シャツに長着と袴を重ねるのは、あの女タラシのクズ男、酉田屋の坪井豪太もよくやってる着こなしだけど。
やっぱり着る人がちゃんとした男前だと、キュンってくるっていうか。
綺麗で凛々しい紫希には、よく似合っていた。
(っていうか、この姿も素敵!!)
わたしは完全に新鮮な装いの紫希に目が垂れ下がり状態だ。
これだったら、女学生のわたしと並んでも釣り合いがとれるというか。このまま一緒にお外を歩いたら、「学生同士で青春している男女に見えるんじゃないかしら?」ってドキドキしちゃう。
すると、九鬼さんも目を丸くして、ピュゥイッと口笛を吹く。
「やあ。今風も似合うじゃないか。サイカ。いつもの君だと、いったい現在がいつ時代か分からなくなる時があるからね」
「狐上紫希です」
「……シキ? ああ。なるほど。式神か」
九鬼さんは心得たように頷いた。
正直、わたしには、何を言っているのか、さっぱりだったけれど。
「それより。貴方が夕紀子嬢の御身を案じるお気持ちは分かりますけれど。私が彼女に授与した御守りを持ち歩くのに、あんな仕掛けを施した入れ物をお贈りするなんて。少しやりすぎではないですかね?」
紫希が冷たいまなざしで九鬼さんに苦言を呈す。
(えっ? なんで、そこで夕紀子さんっ??)
わたしはますます訳が分からなかったけれど。
九鬼さんは「むう」と仏頂面になる。
「仕方あるまい。彼女が肌身離さず持ち歩くものでなければ、『虫除け』にならない。それに、きちんと『感知』できるようにしておかなければ。いざという時に、私が彼女を助けに行くことができなくなってしまうから」
「ですが。この私が彼女を害することはない、と貴方はご存知のはずですのに」
「どうだかね。【少し前の君】ならそうだろうが。現在は、とてもとても……。それに、その【君】と繋がるものも、一体どういったものなのか、確認しておきたかった。私は、これ以上、夕紀子を悲しませたくないからね」
紫希と九鬼さんは、何か腹の探り合いでもするように睨み合っていた。
わたしは、ゴクンと息を呑んで、おそるおそる口を挟んだ。
「あのう……。九鬼さんは、子爵令嬢、神宮寺夕紀子さんとお知り合いなんですか」
「!」
九鬼さんはきょとんとしたものの――。
紫希はコホンと咳払いする。
「お知り合いも何も」
そのまま、紫希が代わりに言った。
「彼があのご令嬢の想い人だ」
「えっ」
わたしは目を丸くした。
(九鬼さんが夕紀子さんのっ……??)
いえ、あの凛とした夕紀子さんが、撫子みたいに愛らしく恥じらうお相手ってどんなのかしら? とは、気になっていたけれど。
まさか、想像していたよりずっと、立派で眉目秀麗な年長のご紳士さんだったわ。
<執筆後記>
おキツネ様とヤンデレ社長の間には、なんだかんだ言って、友情があるのかもしれませんね。
そして、おキツネ様の通称の秘密――
「ヨーコ」は直球でしたが、実は「シキ」も直球でした。
紗江はその道にサッパリな子だったので、全然気がついてませんが。
お察しだった読者の皆様、その手のジャンルの「通」ですね。(スゴイ!)
次回も、ちょこっとこの流れが続きます。




