其之23 銀の筒
同級生らがいなくなったので、わたしも帰ろうかな、と思ったんだけど。
瑤子様が、どうしても「もう少し、お店を見たい」とせがんでくるので、わたしも出ていくのをやめた。
ただ、ともしび亭の女給仕事のこともあったから。
蘇芳屋の店員さんに、事情を話して、お店の電話をお借りして、ひとまず、「遅れます」と、ともしび亭に一報を入れた。
すると、女将の千代子さんは、「今日はお客さんも少ないから、休んでいいよ」と優しく言ってくれた。
わたしは誰とは言わず、「友達と一緒で」と話してしまったので、もしかしたら、あの子爵令嬢・神宮寺夕紀子さんにお誘いを受けた、と勘違いしたのかもしれない。
そうして、わたしは、きらびやかな御品がずらりと並ぶ、蘇芳屋さんの店内を見て回ったんだけど。どれもこれも、素晴らしい逸品揃いな反面、わたしみたいな貧乏女学生には、とても買える値段ではなくて。
(これじゃ、ただの冷やかしだわ)
なんて、気になりながら、ふと見た雑貨棚に、わたしは釘付けとなった。
だって。
(うわぁ。すごい綺麗でカワイイ銀の筒!)
そこには、銀の筒型ロケット・ペンダントが売っていた。
それも色々な種類がある。普通にまっすぐな筒もあれば、唐草模様みたいな彫刻が入ったものもあり、宝石か何か象嵌されたものまであって。
だから、わたしは見るなり思い出したのだ。
あの時、琥狐が「必要だ」と言ったアヤカシの【宿】は、「満月の光を一晩浴びた竹筒、もしくは、純銀の筒」だった、と。
「これ、お素敵ですね!」
わたしが褒めると、蘇芳屋の店員さんが見に来てくれた。
「ああ。メモリアル・ペンダントですね。亡くなったご家族や想い人などのご遺骨やご遺髪などを入れて持ち歩く――」
「えっ」
わたしはガンッと固まった。
(こんなに綺麗な見た目なのに。案外、縁起でもない御品だったわ)
冷や汗ダラダラのわたしに、店員さんも気づいたらしく。
店員さんは悲しそうにクスと苦笑した。
「このところ、我が国だけでなく、世界でも戦争続きでしたからね。ゆえに、亡くなられた大切な御方と、どんな形でも良いから一緒に在りたい、とお考えになるご遺族様がいらっしゃるんですよ」
「はあ……なるほど」
そう考えると、「縁起でもない」どころか、すごく「尊い」ものだったわ。
わたしは、一瞬でも、忌避感おぼえた自分が少し恥ずかしくなった。
そして、値段を尋ねてみると、純銀製だから、やっぱり、なかなかのもので。
(これなら、『もしかしたらピッタリかも』って思ったんだけど。今のわたしには、到底、即座に買えないお値段……)
少なくとも、1~2年くらいは貯金しないと。
そんな風に、しょぼん、としていると。
なにやら、お店の奥から、また別のお店の人がやってきて、わたしに接客してくれていた店員さんに、ぽそ、と何か耳打ちしていた。
店員さんは、「えっ」と驚いたように、わたしと瑤子様を見て、まもなく、ニコと微笑んだ。
「どうやら、社長がお2人にお会いしたい、と」
「ええっ!? 社長さん、お出掛けだったんじゃないんですかっ??」
わたしが驚いていると、意外にも瑤子様は落ち着いていて。
「馬鹿ね。あんなの真に受ける子がどこにいるの。お店の車庫には、お車があったし。物見遊山気分の年若いお嬢さんがたのお相手をするほど、社長さんも暇じゃないのよ」
「えええっ!? じゃ、最初から居留守って分かってたんですかっ」
飄々と言われ、わたしも唖然とする。
だから、「まだ店を見たい」ってごねたのか。
ともあれ、わたしとモガな瑤子様は、最初の店員さんでなく、連絡にきた社員さんに連れられて、3階にある社長室へと案内された。
蘇芳屋は、店内も立派だったけれど、その裏側も、なんだか華族様のお屋敷みたいに見事な調度品が備えられた洋館で。昔ながらの日本の商家そのものだった、あの酉田屋とは大違い。
まもなく立派な紫檀色の洋扉が現れて、その上に、「社長室」と室札が。
社員さんは、コンコン、と洋扉をノックする。
「失礼いたします。社長。お2人をお連れいたしました」
「ああ。入ってもらってくれ」
低く張りのある威厳に満ちた声が扉の向こうから返ってきた。
わたし達は、扉を開けて誘導してくれる社員さんに「ありがとうございます」と会釈して、案内されるまま、応接セットの下座、見事な革張りのソファーへと移動する。
まもなく、立派な欧風紳士も役員デスクから応接セットの上座にやって来た。
だから、わたし達も、ご挨拶が終わるまでは座らない。
(ホントに昨日会った人だ)
わたしはごくりと息を呑む。
そして、明るい照明の下で改めて見ると、この人は、見た目は日本人なのに、まるで西洋人のような体格の美丈夫さんだと思った。
たぶん、紫希より背が高い。6尺5寸*(:*約197cm)くらいはあるんじゃないかしら。顔の掘りも深いし。東北地方には、【白子】という、白人との混血児が住んでいる、という噂も聞いたことがあるし。そういう感じの人なのかも。
「ようこそ。お美しいお嬢さんがた。私は、蘇芳屋社長、九鬼庚興と申します」
ニッコリと握手を求められ、わたしも慌てて応じる。
「あっ。はいっ。その節はどうも。わたしは、明惠女学校に通っております、神谷紗江と申します」
ガッシリとした手はすごく大きくて強くて。
わたしは、ときめくというよりは、ちょっと恐いと感じて、ドキリとした。
そうして、九鬼さんは、モガな瑤子様にも握手を求めた。
「やあ。こんな風に、ここで君とお会いするとは思わなかったよ」
「そうですね。本当に、ご宣言通り、この日本橋にこれだけの規模のお店を構えられますとは。頭が下がります」
どっちも笑顔なんだけど、2人とも腹に一物ある感じ。
(っていうか。知り合いだったのっ!?)
むしろ、わたしはそっちの方にビックリした。
<執筆後記>
はい。例によって文字数の関係で、
「ファースト・コンタクト(?) → つづく」になってしまいました。
なんだか申し訳ございません。
旧連載(代表作)の反省から、新連載の方は、1話あたり、極力、2,000~4,000字前後に抑えようと考えてまして。
1話が長すぎるのも倦厭されるのかな、と。
ただ、お話がスローペースすぎるので、1話を読みやすくしても、全体では良くないかも、とか……。
たぶん、読者の皆様に1番好まれるのは、簡潔にサクサク進むチートなスカッとストーリーなんですよね。
そう気になりつつも、タイパを重視しすぎると薄っぺらなストーリーになりかねないので、なかなか上手くいかず……。
さてさて。
既に『ヤンデレハイカラ紳士~』の短編をお読みの方には、「でしょうねww」な「つづく」ですが。
紗江や夕紀子の時とも異なる、おキツネ様とヤンデレ社長のやりとりは、或る意味、必見かもしれません。




