表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/19

第4話 手取り25万円が親会社を買う日 その1

モバイルバッテリーから電力を吸い上げ、すっかり元気を取り戻したオムニアが、スマホの画面で腕組みをした。


『ふぅ……これで一安心ね。でも真一、問題はここからよ』


オムニアは画面の端を指差し、青く揺らめく“次元ポータル”を仰いだ。


『我が神力で固定したけど、この扉を開けっ放しにするには大量の電力が必要なの。スマホの充電どころじゃないわ。ざっくり言えば、現代でいうデータセンターくらいの電源が必要よ』


「データセンターてっ!? 裏山にそんな設備、どうやって用意するんだよ!?」


『だから言ってるでしょうが。このままじゃ電力不足で扉が閉じるわよ』


俺は頭を抱えた。


データセンターレベルの電力を裏山に引き込むなんて、一平社員の俺にできるわけがない。


……いや、待てよ?


俺の勤めているJTTホールディングスって、巨大な通信インフラ会社だ。


自社で発電設備もデータセンターも持っているし、送電設備や大規模電源工事に関わる部門だってある。


「……なぁオムニア。この壁の金、ちょっと換金したら何億どころじゃないよな?」


『“ちょっと”の基準が狂ってるけど、兆単位の資産なのは間違いないわね』


「じゃあ。この金換金して、俺のいる会社の親会社を丸ごと押さえちゃえばよくないか?」


オムニアがじっと俺を見つめた。


『真一。我は万能神だけど、今の発想は流石に頭が痛くなるわ!それだけの金が世の中に出たら、ハイパーインフレで、この国の通貨は紙切れになるわよ!』


「どういうことだ?」


『会社帰りの牛丼が食べられなくなるわよ!』


「それはまずい!!」


『だから、発想が雑すぎるのよ』


「いや、買収して俺が偉くなれば、誰も俺に残業命令を出せなくなると安易に考えた」


『目的が結局そこなのね!?』


画面の中でオムニアが額を押さえる。


だが、次の瞬間――ぴたりと動きが止まった。


『……ちょっと待ちなさい』


「ん?」


オムニアはスマホ内でAIアプリを高速で操作し始めた。


『金融市場、企業買収スキーム、持株会社構造、国際ファンド経由の資金調達……AIに照会中……』


「お前、また勝手にAI使ってるだろ」


『便利なものは使うのが神の流儀よ』


ブツブツと呟きながら操作を続けるオムニア。


やがて、画面の中のポンコツ神様がニヤリと笑った。


『……真一』


「なんだよ。その顔怖いんだけど」


『あんたの雑な思いつき、AIの計算に乗せたら意外と筋が通ったわ』


「マジで!?」


オムニアは得意げに胸を張った。


『これはAIが出した最適解だから市場を荒らさず、当局にも目立ちにくい。しかも最終的には持株会社ごと支配できる可能性があるわ』


「それってつまり……」


『JTTホールディングスを実質的にこちら側で動かせる、ということね』


「どのくらいでできるんだ」


『色々と準備が必要よ、海外の銀行に口座と貸金庫をつくる。そして、そこに少量の実物を転移するのと合わせて、我の神力で残りの金塊の鑑定証明データも送るわ。転移は我の神力とここのポータルを使うわ、あとは、この金を担保に資金を作り。そして急ぎ株式の33.4%以上を確保して、そこから順次買収するのよ』


俺はしばらく地下空間にそびえる黄金の壁を見上げた。


手取り25万円。


残業だらけの平社員。


その俺が今、“親会社を買収する方法”の説明を受けている。


状況がおかしすぎて、笑うしかない。


「よし」


『よし、じゃないわよ。普通の人間ならここで怖くなる場面なんだから』


「でも、親会社を押さえればこの裏山に電力を引けるんだろ?」


『理論上はね』


「しかも定時退社も守れる」


オムニアが深いため息をついた。


『真一、あんた本当に“定時退社”のためなら国家予算級の話まで持っていくのね……』


「社畜の執念を舐めるな」


『褒めてないんだけど』


俺はスマホの画面を指で軽く叩いた。


オムニアも呆れ顔のまま、小さな手をこちらへ向ける。


地下空間の真ん中で、俺たちは画面越しに小さなハイタッチを交わした。


こうして――


「オムニアと一緒にクリアする。最初の高難易度クエストだな!」


『なによそれ!?』


手取り25万円の平社員と、AIを使いこなすポンコツ万能神による“親会社実質買収計画”が、静かに動き始めたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
神様のリアルすぎる心配と、真一のブレない軸の強さにかなり笑えました! ポンコツさのギャップが面白です。 二人の買収劇がどう展開していくのか、続きが楽しみです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ