ある神官の成長日誌 〜ジュール編・そのに〜 07
開始の合図は、無かった。2匹の獣の戦闘は、唐突に始まった。
剣が舞う。拳が飛ぶ。足が飛ぶ。
それだけではなかった。足先で土を蹴り上げる。草を抜いて、投げつける。草を抜いた穴を、罠として使う。
レイブンは、ひたすらコンパクトに剣を振るっていた。隙をこじあけ、相手の嫌なところに剣先を叩き込む。
ドラナは、ひたすら大振りだった。相手の防御を物ともせず、力ずくで剣を叩きつける。
そんな2人の戦いを見ながら、不穏な動きをしている小さな影があった。
「ジュール、なにをしているの?」
ジュールのお腹に手を回し……ジュールの頭越しに観戦していたバルナスが、ジュールの奇行に気づいたのだ。
ジュールは両手の人差し指と親指を伸ばし、人差し指をレイブンに向けていた。時々人差し指を跳ね上げる仕草をしている。
「レイブン様と、戦っています」
「レイブンと、戦う?」
「本気で動いているレイブン様に、気合弾の魔法 を当てる……練習です」
指先を拳に見立てて、練習していた。魔力は込めていないので、気合弾の魔法 は発射されない。
「アレ……当たる?」
バルナスは、戦う肉食獣たちを見つめた。
“当てられる気が……まったくしない!!”
「当たらないです……」
ジュールが凹んだ。
「どれぐらいの確率?」
「30発撃って……1発、当たるか当たらないか、ですね」
「戦士ってヤツらはさ。こっちの魔法を……見てから避けるんだよ」
バルナスは、ひたすら嫌そうだ。
「連射しようが、時間差で撃とうが、避けられちゃうから、当たらない」
「まぐれで当たっても、ダメージ無視して……突っ込んでくるから!! 怖いんだよ!!」
「ほんとうに……怖いです」




