ある神官の成長日誌 〜ジュール編・そのに〜 11
レイブンは苦痛を無視して、自然に右手を下ろした。右腰に吊った短刀の柄を握り込み、親指で留め革を外した。
そのまま、振り上げる。
「わわっ!」
ドラナは、慌てて避けた。
「その怪我で、動くかよ?!」
レイブンは、自らの右手小指を見た。第一関節から外れて、ブラブラしている。
「当たり前だろ」
レイブンは、短刀を鞘に戻すと……小指の関節をはめた。
「ぐうっ……」
苦痛の声がもれたが、関節はキレイにはまったようだ。
「この……バケモノめ!!」
ドラナも、短刀を鞘に戻した。顔の前に拳を構え、ファイティングポーズを取る。
「ここからは、殴り合いか? ワクワクするなあ!!」
レイブンも顔の前に拳を構えた。
獣たちの狂宴は、まだ終わらない。
対峙している戦士達がファイティングポーズを取ったのを見て取り、観戦者が動いた。
「関節技シフトだっ!!」
「切り開き用の短刀は、何本だ?!」
「3本……足りん!! 5本だっ!」
「固定用の板は?!」
「5?! 8だっ!!」
「杭とロープは?!」
「ありったけだ!! 猿轡用の布と、血を吸わせる用の布も、忘れるな!!」
「関節技シフト?」
「いったい、なにが始まるのでしょうか?」
とたんに殺気立った周囲の様子を、キョトンと見渡す2人。バルナスとジュールである。
邪魔にならないよう、微妙に位置をズラしていた。
「殴り合いの最後は、関節の取り合いになる!」
「負けた方は、関節が砕けるぞっ!!」
「関節が砕けると、外からの治療は、不可能だ!!」
「だから、患部を切り開く!!」
「見えれば、骨の位置を、ある程度戻せる!」
観戦者が口々に怒鳴った。
「理屈は通ってるけど、やり方が乱暴すぎない?!」
バルナスの叫びは、虚しく宙に消えた。
ここは戦神の神殿。世間一般の常識とは、かけ離れた場所だ。




