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銀のペンと魔法の回路 ―見習い修復師リリスティアと氷魔法を使う謎の少年、ときどき食いしん坊精霊のモフモフな日々。―  作者: 海優璃


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50.エピローグ ハニーハント

 街を出てから数日。

 港町では、ギルド長のダグラスの手によって「港を凍らせた巨大氷結魔法」の噂が見事にカモフラージュされていた。

「あれは大勢の魔導士たちが一致団結して放った合体魔法だ」――そう街中に触れ回られたことで、噂は「港の奇跡」として処理され、個人の特定は不可能となった。


 後日、港町にジャンの追っ手らしき怪しげな人物たちが現れたが、おじいちゃんとダグラスが示し合わせてしらばっくれ、具体的な情報は何も得られぬまま追い払うことに成功していたのだった。


 ◇


「いーち! にー! ほらジャン、腰が入ってねえぞ!」

「くっ……! ラルフさん、容赦なさすぎます……っ!」


 山あいの開けた場所で、壊れた氷結の剣を振るうジャンの叫び声が響いていた。約束通り、ラルフさんによる特訓が始まっているのだ。


「ふふ、頑張ってるわね」

 少し離れた木陰で、カトリーンさんが微笑みながら野営の準備をしている。その隣では、リセが手際よく鍋にスープを仕込んでいた。


 この数日でカトリーンさんともだいぶ打ち解けた。カトリーンさんは、リセと同じぐらいの頃、両親と木の実を取りに来て、魔獣に襲われたところをラルフさんに助けて貰ったんだそうだ。


 ずっと憧れていて、少しでも近づきたいと冒険者にもなって、結界魔法も使えるようになった。一緒に戦いたいと何回も誘ったんだけど、小さい頃の印象のままなのか、危ないからダメだとか言われて断られて、諦めかけていたんだそうだ。 


 だから、「一緒に旅できるなんて、すごいご褒美だよね!」とめちゃくちゃ嬉しそうに話してくれた。


 カトリーンさんは、幸せそうな顔で切り分けた角兎の肉を次々に串に刺していく。


 リセはそんなカトリーンさんを見つめて頬を染めながら、「ラルフさん、カトリーンさんのこと大事にしてますもんね」と小さく微笑んだ。


 ◇


「ハニー! ハニーだよー!」

 胸元からひょっこり現れたブランが、目を輝かせて大樹の上のほうを指さした。見上げると、凶暴なキラービーが数匹こちらを伺っているのが見えた。リセは悲鳴を上げそうになるのを必死で堪えた。カトリーンさんがすばやく結界を張ってくれる。


 異変に気付いた、ラルフさんとジャンがこちらに走ってきた。

「よし、ジャン。近くに巣があるぞ! 見つけて、蜂蜜ゲットしようぜ!」


 4人でしばらく周辺を探すと、巨大な巣が木の幹の分かれ目に隠されるようにあるのを見つけた。


 リセはおじいちゃんが持たせてくれた火魔法が放てる魔道具を握りしめ、カトリーンさんは重なるように結界を強化する。


「よしジャン! 実戦訓練だ! 飛び出してくるキラービーを剣で叩き斬れ! 間違っても蜂の巣に魔法は使うなよ、蜂蜜をダメにするからな」

「えっ!? あの数の蜂を剣だけでやるんですか!?」


「そうだ。お前なら出来る!いくぞっ!」


 ラルフさんはニヤリと笑いこぶし大の石を巣に向かって投げた。投げた石が見事に警戒していたキラービーを撃ち抜いた。怒り狂ったキラービーが、黒い塊となってこちらへ向かってくる。

「うわっ……!」


 ジャンは必死に反応する。横でラルフさんもさすがに1人じゃ無理かと加勢しながら、「脇しっかり締めろ! 右から来てるぞ、あの体勢の後攻撃してくるからな!」とアドバイスしながら、ジャンの様子を見て数を減らしていく。


「あれ? なんか寒さむいね?」

 カトリーンさんが不思議そうに呟く。

 リセが見つめる先で、必死にキラービーを倒すジャンの剣が、段々と青い光を帯びていく。


 ジャンの剣に触れたキラービーが、難なく凍りついて落ちていく……。

「あれ? あれって……氷結の力が戻った?」



「それ使えんのかよ。ジャン! そのまま一気にいけるぞ!」


 ラルフさんの叫びに応えるように、青く輝く剣身が閃く。氷の刃が描いた美しい奇跡に沿って冷気が弾け、群がっていたキラービーたちが凍りつき、まるでガラスの粒のように地面へと次々に落ちていった。


「はぁ……はぁ……っ!」

 残された静寂の中、息を荒らげるジャンは、自分の手にある剣を信じられないといった様子で見つめていた。


「ジャン、ちょっとその剣見せて……!」


 駆け寄ってきたリセが、ジャンの手からそっと氷結の剣を受け取った。


 刀身に指先を滑らせ、目を閉じて慎重に魔力を通してみる。すると、以前は魔力を拒むように反発していた内部の魔導回路が、今はジャンの魔力と優しく溶け合い、美しく澄んだ青いラインとなって一本に繋がっていた。


「……本当に直ってる!」


 リセはパッと目を見開き、ジャンを見上げた。


「魔導回路がジャンの魔力と同調して綺麗に再構築されてる! ジャンが本気でこの剣と向き合ったから、剣がジャンの魔力を受け入れたのかな……!」

「僕の魔力で……? そっか、これからもよろしくな……」

 はにかむように笑んで、剣を見つめるジャンを見て、リセも嬉しくなって笑顔をこぼした。


「ジャン、剣直ったのか? やるな」

 ラルフさんが周囲の気配を探りながら、ニカッと笑って声をかける。


「よし、今から巣を落とす。まだ残党が来るかもしれないからな、気を抜くなよ」


 そう言うと、ラルフさんは大樹の幹にひょいと手をかけ、重力など感じさせない軽やかな動きで一気に跳び上がった。そして枝の上から長剣を一閃させると、巨大な巣を落として、何事もなかったかのように着地した。巣は相当硬いのかそのままドスンと地面にめり込むように落ちた。


「キラービーの針と蜂蜜は、いいお金になるから、しっかり回収しろよ」


 地面に落ちた巣から最後まで巣にいたキラービーが出てくるのを、ラルフさんとジャンが難なくやっつけた。


 リセはマジックバッグの中から、ガラス瓶のついた小さな筒状の魔道具を取り出した。巣の断面にあてて魔力を通すと、黄金色の蜂蜜が吸い上げられ、みるみるうちに瓶の中に溜まっていく。


 おじいちゃんが、持っていけと渡してくれた、蜂蜜採取用の魔道具だ。本当に使うの疑心暗鬼だったが、これがないと巣が硬すぎて採取が難しいらしいので、ありがたく使わせてもらう。


「わーい! 極上ハニーだ〜!」

 濃厚な甘い香りが漂い、ブランが大はしゃぎでクルクルと宙を舞った。

 ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。続きが気になる、あるいは気に入っていただけましたら、ブックマークや評価で応援いただけますと大変励みになります!

 これからも、よろしくお願いいたします。

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