48.旅立ちの決意と予期せぬ道連れ
リセが座り込んでいると、ギルド長とジャンがこちらに駆けてきた。
ジャンと目が合うと、彼はホッとしたような顔で表情を緩めた。カトリーンさんが結界を消すと、ジャンが真っ先に駆け寄ってくる。
「リセ! 無事か!?」
「うん、ジャンも……よかった」
ラルフさんは周りに生き残った魔物がいないかとどめを刺して回っていたが、ギルド長を見てこちらへ戻ってきた。
ギルド長は、硬晶石から広がる魔物避けの波紋をしっかりと確かめ、辺りを見回したあと、リセに向き直った。
「君が一人でこれを直したのか?」
リセは、まだ少し信じられない気持ちのまま深く頷いた。
「ありがとう。よくやってくれた!」
ギルド長が深々と頭を下げると、リセは慌てて手を振った。
「い、いえっ! 私一人じゃありません! カトリーンさんやラルフさん、カイルさんにレオンさんも、守ってくれて。それにジャンやみなさんが魔物を倒してくれて……っ」
「ははっ、そうだな。だが、お前さんの腕は大したもんだ」
ギルド長が豪快に笑い、今度は隣に立つジャンへと視線を移した。その目が、ギラリと猛者特有の光を帯びる。
「それにしても……お前だ、坊主。あの巨大な竜を丸ごと凍らせちまうような圧縮魔法、一体どこで覚えやがった? 防波堤にいた冒険者どもが、お前の噂で持ちきりだぞ」
「え……?あれは、修復作業の中で……」
ギルド長の言葉に、ジャンはピクリと肩を跳ねさせた。
「あの氷結魔法のやつか?あれ凄かったな!」「えっ?あれやったのおまえか!」
そう言って興奮気味に声をかけてきたのは、カトリーンさんに言われてリセの護衛についていてくれた冒険者のカイルとレオンだった。
ジャンが助けを求めるように目を彷徨わせた。
「ジャン……?」
急に青ざめたジャンを心配してリセが覗き込もうとした、その時――。
「リセぇぇぇっ! 無事かぁぁっ!?」
ドタバタと慌ただしい足音とともに、息を切らせたおじいちゃんが駆け込んできた。
その両手には、いざとなったら孫娘を守るつもりだったのだろう、自作の強力な防衛用魔道具がガッチリと握りしめられている。
「おじいちゃん!?」
「ハァ……ハァ……よかった、無事だったか……! 港の異変を感じて飛んできたが……。この魔物避けの波動は……」
おじいちゃんは息を整えながら、硬晶石から放たれる魔物避けの波動と、改めて凍りついた港の異様な光景を交互に見比べ、目を丸くした。
「リセ、お前が直したのか……? それにあの氷は……ジャンの魔力か……」
おじいちゃんは頭をかきながら、深呼吸した。
「まず、リセ!完璧な修復だ。回路も美しく、硬晶石に馴染んでいる。もう、お前は立派な修復師だよ」
「ジャンも良くやった!二人とも街を精いっぱい守ってくれて誇らしいよ」
おじいちゃんは目を彷徨わせ、ギルド長を見つめた後ジャンに視線を戻した。
「ジャン。ただ少しやり過ぎたかもなぁ〜。おい、ダグラス! お前がギルド長で助かるよ。少し相談に乗ってくれ」
おじいちゃんはギルド長改めダグラスさんの腕を掴んで、ラルフさんにもついてくるように言って歩き出した。
「何だよヴァルカン! あっちの港湾管理小屋を使おう。カイル、レオン、お前たちはここで港の残党処理と見張りを頼む。」
ギルド長は文句を言いながらも、話しを聞いてくれるようだ。
歩き出したラルフさんが振り返る。
「……ジャンの事だが、他所で吹聴するなよ。いいな?」
「えっ? あ、はい! 了解です!」
ラルフさんの鋭い眼光に、カイルさんとレオンさんは背筋を伸ばして頷いた。
一行は静かな管理小屋へと移動した。室内に入ると、ギルド長が重厚な木製扉を閉め、ラルフさんが手際よく周囲の気配を探る。
「……よし、誰もいないな」
ラルフさんが短く告げ、扉から離れる。静まり返った管理小屋の中で、ギルド長のダグラスさんはおじいちゃん――ヴァルカンに向き直り、豪快に鼻を鳴らした。
「で、どういうことだヴァルカン。昔馴染みの頼みとはいえ、急に秘密主義じゃねえか。あの坊主の圧縮魔法、とんでもねえ領域だったぞ」
「それだよ、ダグラス」
おじいちゃんはため息をつき、隣で身を縮こまらせているジャンに視線を向けた。
「このジャンはわけあって身を隠しておる。この噂が広がると、命を狙う追っ手に勘付かれるかもしれない」
「なるほどな、ワケアリか……。街を救ってくれた英雄を追っ手から守るどころか、噂で危険に晒すわけにはいかんな。冒険者たちには、俺から固く口止めを打っておく」
「ありがとうございます……!」
ジャンがお礼を言おうとすると、ギルド長はそれを止めて続けた。
「ただなぁ。ここまで、港が凍りついているとなぁ。街の人の噂話までは止められないだろうなぁ」
おじいちゃんは頷いた。
「まぁ、そうなるよな……。そこでだ、誰か信用できるやつで、街を離れる奴はいないか?出来れば少し離れた広めの街に行く奴がいいかな?」
「なるほどな。信用できるやつなぁ」
そう言って、ギルド長はじっとラルフさんを見つめた。
「あっ俺か! まあ元々そのつもりだったし、 しっかりしごいてやるよ!あっ、山籠りするからなっ」
ラルフさんがニカッと笑った。
「えっ?山籠りですか?」
「そうそう、朝から晩まで修行し放題!最高だろ?ちょっと欲しい物もあるし、魔道具の良いテントあるからさ!」
「……えっ、あっはい。よろしくお願いしますっ」
ジャンは、覚悟を決めたように手を強く握りしめ、深く深く頭を下げた。
リセは少し躊躇っていたが、意を決して顔を上げ、しっかりとおじいちゃんを見つめた。
「えっと、あの……私も、一緒に行きたい!」
急な宣言に、管理小屋の中が一瞬静まり返る。
「あっ! 僕も行く〜! 旅にでたらハニーハントしよ〜ねっ」
「なっ……!? 精霊……!?」
ひょっこりと顔を出したブランに、流石のギルド長も目を丸くして驚愕する。
「この精霊はジャンが契約しているのか?」
「僕はね〜! リセと美味しいご飯を食べさせてもらう契約をしてるんだ〜きっと山にも美味しいものがあるはずだよね!」
ブランは、完全に約束を契約として話す事にしたみたいで、リセは首を傾げた。
おじいちゃんが、ブランの宣言に頭を抱え唸るように呟いた。
「いや、いつかは行くと思っていたが……まだ、早すぎる……。いや、後3年は欲しい……」
「ダメだダメだダメだ! ラルフとジャンには、任せられないぞ。せめて女性がいないと……」
頭を抱えたおじいちゃんの腕にブランが飛び込む。
「ねっ? 扉の外で話を聞いてるお姉さんも一緒ならいい?」
その瞬間ラルフさんが、扉を開け放った。そこには、驚いた顔のカトリーンさんが立っていた。
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